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傾圧不安定波が極から赤道へと熱を運んでいることが観測から判明! これにより太陽の磁気活動の源“差動回転”が維持されている

2024年04月09日 | 太陽の観測
太陽の磁気活動の源“差動回転”の維持には、極が赤道に比べてわずかに暖かいことが必要となります。

今回の研究では、観測されている慣性波の中でも、特に極域で時速70キロという大きな速度振幅を持つモードに着目。
最新の数値シミュレーションを実施することで、傾圧不安定波が極から赤道へと熱を運ぶことで、極と赤道間の温度差を7度以下に抑える働きをしていることを突き止めています。

どうやら、傾圧不安定波が太陽の自転分布に決定的な役割を果たしているようです。
この研究は、ドイツ・マックスプランク太陽系研究所(MPS)の戸次宥丸人さんたちの研究チームが進めています。


太陽の磁気活動の源“差動回転”

太陽内部の自転速度は緯度によって異なり、極は約34日周期で比較的ゆっくり回転しているのに対して、赤道は約24日周期と速く回転していることが知られています。
こうした自転分布は“差動回転”と呼ばれています。

差動回転は太陽の磁気活動の源でもあるので非常に重要なものなんですが、その物理的起源に関しては、まだ謎が多いのが現状です。

理論的考察によれば、観測されているような太陽の差動回転を維持するのに必要なのは、極が赤道に比べてわずかに暖かいこと。
でも、この小さな温度差を約100万℃に達する背景の中から検出するのは非常に困難なので、これまで直接観測には誰も成功していませんでした。


傾圧不安定波が極から赤道へと熱を運んでいる

今回の研究では、太陽で新たに観測された慣性波の物理特性を利用することで、太陽の極域が赤道に比べて約7℃暖かいという観測的証拠をつかむことに成功しています。

研究チームでは、3年前にNASAの太陽観測衛星“SDO”に搭載されている日震磁気撮像装置“HMI(Helioseismic and Magnetic Imager)”で得られたデータを解析することで、太陽に多数の“慣性波”が検出されたことを世界に先駆けて報告していました。

慣性波は、コリオリ力(※1)を復元力とする波で、数か月という非常に長い周期をもつことが特徴です。
※1.コリオリ力とは、慣性系に対して回転する座標系内を運動する物体に作用する慣性力または見かけの力。時計回りに回転する座標系では、この力は物体の進行方向の左側に働き、反時計回りでは力は右側に働く。
今回、研究チームが着目したのは、観測されている慣性波の中でも、特に極域で時速70キロという大きな速度振幅を持つモード。
このモードは、地球大気の中緯度帯の天気を支配していることで知られる“傾圧不安定波”と本質的に同じ性質を持っていて、その振幅は極と赤道間の温度差に非常に敏感なことが分かっていました。

そこで、研究チームでは最新の数値シミュレーションを実施。
その結果、傾圧不安定波が極から赤道へと熱を運ぶことで、極と赤道間の温度差を7度以下に抑える働きをしていることを突き止めました。

観測されている傾圧不安定波の速度振幅を説明するには、極が赤道に比べて約7℃暖かい必要があることが分かっています。
このことから、太陽内部の緯度温度差は許容最大値に達していると考えられます。
図1.数値シミュレーションによって得られた太陽対流層内部の傾圧不安定波の流線構造。(提供: MPS / Y.Bekki)
図1.数値シミュレーションによって得られた太陽対流層内部の傾圧不安定波の流線構造。(提供: MPS / Y.Bekki)
極と赤道のわずかな温度差は、対流層内の角運動量バランスを決定しています。
太陽の傾圧不安定波は、この緯度温度差を調整することで、差動回転に決定的な役割を果たしていることが、今回の研究から明らかになりました。

一般的に、太陽内部で何が起こっているかを知ることは容易ではありません。
これまでは、私たちの目には見えない太陽内部の診断には、主に音波が用いられてきました。

本研究では、太陽で新たに見つかった慣性波も内部診断に有効だと立証されたことになります。

さらに、今回の傾圧不安定波のように大きな振幅を持つ慣性波は、太陽内部のダイナミックスに重要な役割を果たすことも示されました。
研究チームは、今後もさらに太陽の完成派の研究を進めることで、対流層内部ダイナミクスの解明に迫っていくようです。


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