恒星質量ブラックホールは、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つブラックホールです。
今回発見されたのは、これまで天の川銀河で発見された中で最も重い恒星質量ブラックホールでした。
このブラックホールが位置しているのは、わし座の方向約1962光年彼方、質量は太陽の約33倍。
ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”(※1)のデータから、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探すことで発見されました。
“ガイア”はヨーロッパ宇宙機関が運用する衛星で、天の川銀河の精密な3次元マップを作ることを目的とし、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する莫大な数の恒星の位置と速度を、きわめて精密に測定・記録しています。
すでに知られているブラックホールのほとんどは、近くにある天体からガスを大量に取り込み、そのガスが高温になって発するX線などをとらえることで見つかってきました。
今回のように、周囲の天体を振り回す以外の活動を示さないブラックホールは、数多く潜んでいるのかもしれません。
見えざる天体に振り回されているように見える恒星を探す
ブラックホールは、その強力な重力による束縛から光(電磁波)も逃げ出せない天体なので、光学的に観測することはできません。
ただ、近くにある伴星のガスがブラックホールに引き寄せられることで形成された降着円盤(※2)から、X線などの電磁波が放射されることはあります。
これまで発見された恒星質量ブラックホールの多くは、このX線を観測することで発見されたものでした。
今回、“ガイア”のデータから発見されたブラックホールも、そのようなX線を放射していませんでした。
そのような眠っているブラックホールでも、重力を介して周囲に及ぼした影響をとらえることで、間接的に調べることは可能です。
“ガイア”はヨーロッパ宇宙機関が運用する衛星で、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する莫大な数の恒星の位置と速度を、きわめて精密に測定・記録しています。
その“ガイア”のデータを調べてみると、時間とともに星の位置がブレている事例を見つけることができます。
このようなブレは連星が回ることで生じている可能性があるんですねー
この事例から、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探していきます。
もし、ブラックホールが別の星(伴星)と連星を作っていれば、ブラックホールの重力が伴星の動きに影響を与えているからです。
今回は、地球から1926光年の距離にある古い巨星の動きを分析することで、ブラックホールが発見されました。
このブラックホールは、“ガイア”によって発見された3個目のブラックホールだったので“ガイアBH3”と名付けられています。
“ガイアBH3”は、地球から2番目に近いブラックホールになります。
地球に最も近いブラックホールは、同じく“ガイア”のデータから発見された“ガイアBH1”で、地球から約1600光年の距離にあります。
なお、これまで“ガイア”によって発見された2個のブラックホールも休眠中のものでした。
重い恒星質量ブラックホールは重元素の少ない恒星から生まれる
太陽の33倍もの巨大な質量を持つ恒星質量ブラックホールは、重力波の観測から遠い銀河で検出されることはあります。
でも、天の川銀河で発見されたのは、今回が初めてのことでした。
天の川銀河で見つかった恒星質量ブラックホールの質量は、平均すると太陽質量の10倍程度。
これまで最も大きかったのは、白鳥座X-1のX線連星にあるブラックホールで、太陽質量の約21倍ありました。
大質量星は年老いてくると、星の物質のかなりの部分が星風によって放出されると考えられています。
さらに、ブラックホールは超新星爆発の後で形成されるので、この爆発の際にも多くの物質が宇宙へ飛び散ることになります。
そのため、太陽質量の約30倍もあるブラックホールの形成を説明するのは困難とされています。
ただ、“ガイアBH3”の場合、その謎を解くヒントが伴星に隠されているのかもしれません。
“ガイアBH3”の伴星は、宇宙が誕生して20億年後頃に誕生した古い星です。
銀河円盤とは別の方向に運動していて、その軌道からは、80億年以上前に天の川銀河に飲み込まれた別の小さな銀河か球状星団の一部だったと考えられています。
さらに、この伴星には重い元素がほとんど含まれていません。
このことは、“ガイアBH3”にも重元素がほとんど含まれていなかった可能性があることを示しています。
重元素が少ない星は、生涯を通じて失う物資が少ないので、大きな質量のブラックホールを形成するための物質がより多く残されると考えられています。
“ガイアBH3”が太陽の約33倍もの質量を持つ理由が分かってきましたね。
こちらの記事もどうぞ
今回発見されたのは、これまで天の川銀河で発見された中で最も重い恒星質量ブラックホールでした。
このブラックホールが位置しているのは、わし座の方向約1962光年彼方、質量は太陽の約33倍。
ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”(※1)のデータから、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探すことで発見されました。
“ガイア”はヨーロッパ宇宙機関が運用する衛星で、天の川銀河の精密な3次元マップを作ることを目的とし、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する莫大な数の恒星の位置と速度を、きわめて精密に測定・記録しています。
※1.“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
天の川銀河には恒星質量ブラックホールが、およそ1億個も存在すると推定されていますが、現在まで発見された数はそれに比べ極わずかなものです。すでに知られているブラックホールのほとんどは、近くにある天体からガスを大量に取り込み、そのガスが高温になって発するX線などをとらえることで見つかってきました。
今回のように、周囲の天体を振り回す以外の活動を示さないブラックホールは、数多く潜んでいるのかもしれません。
図1.画像はヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”のデータを元に作成された天の川銀河の地図に、“ガイア”のデータから発見された3つのブラックホールの位置をプロットしたもの。“ガイアBH1”はへびつかい座、“ガイアBH2”はケンタウルス座、“ガイアBH3”はわし座の方向で見つかった。(Credit: ESA/Gaia/DPAC) |
見えざる天体に振り回されているように見える恒星を探す
ブラックホールは、その強力な重力による束縛から光(電磁波)も逃げ出せない天体なので、光学的に観測することはできません。
ただ、近くにある伴星のガスがブラックホールに引き寄せられることで形成された降着円盤(※2)から、X線などの電磁波が放射されることはあります。
これまで発見された恒星質量ブラックホールの多くは、このX線を観測することで発見されたものでした。
※2.ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。
でも、そのようなブラックホールはかなり少数派で、宇宙のあちらこちらには降着円盤を持たないブラックホールが眠っていると考えられています。今回、“ガイア”のデータから発見されたブラックホールも、そのようなX線を放射していませんでした。
そのような眠っているブラックホールでも、重力を介して周囲に及ぼした影響をとらえることで、間接的に調べることは可能です。
“ガイア”はヨーロッパ宇宙機関が運用する衛星で、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する莫大な数の恒星の位置と速度を、きわめて精密に測定・記録しています。
その“ガイア”のデータを調べてみると、時間とともに星の位置がブレている事例を見つけることができます。
このようなブレは連星が回ることで生じている可能性があるんですねー
この事例から、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探していきます。
もし、ブラックホールが別の星(伴星)と連星を作っていれば、ブラックホールの重力が伴星の動きに影響を与えているからです。
今回は、地球から1926光年の距離にある古い巨星の動きを分析することで、ブラックホールが発見されました。
このブラックホールは、“ガイア”によって発見された3個目のブラックホールだったので“ガイアBH3”と名付けられています。
“ガイアBH3”は、地球から2番目に近いブラックホールになります。
地球に最も近いブラックホールは、同じく“ガイア”のデータから発見された“ガイアBH1”で、地球から約1600光年の距離にあります。
なお、これまで“ガイア”によって発見された2個のブラックホールも休眠中のものでした。
“ガイアBH1”、“ガイアBH2”、“ガイアBH3”でのブラックホールと伴星の軌道と運動を示した映像。いずれも共通重心の周りを、ブラックホールと伴星が周回している。“ガイアBH3”の軌道には、距離の比較のために太陽系の惑星の軌道が重ねられている。“ガイアBH3”と伴星は11.6年で周回している。(Credit: ESA/Gaia/DPAC) |
重い恒星質量ブラックホールは重元素の少ない恒星から生まれる
太陽の33倍もの巨大な質量を持つ恒星質量ブラックホールは、重力波の観測から遠い銀河で検出されることはあります。
でも、天の川銀河で発見されたのは、今回が初めてのことでした。
天の川銀河で見つかった恒星質量ブラックホールの質量は、平均すると太陽質量の10倍程度。
これまで最も大きかったのは、白鳥座X-1のX線連星にあるブラックホールで、太陽質量の約21倍ありました。
大質量星は年老いてくると、星の物質のかなりの部分が星風によって放出されると考えられています。
さらに、ブラックホールは超新星爆発の後で形成されるので、この爆発の際にも多くの物質が宇宙へ飛び散ることになります。
そのため、太陽質量の約30倍もあるブラックホールの形成を説明するのは困難とされています。
ただ、“ガイアBH3”の場合、その謎を解くヒントが伴星に隠されているのかもしれません。
“ガイアBH3”の伴星は、宇宙が誕生して20億年後頃に誕生した古い星です。
銀河円盤とは別の方向に運動していて、その軌道からは、80億年以上前に天の川銀河に飲み込まれた別の小さな銀河か球状星団の一部だったと考えられています。
さらに、この伴星には重い元素がほとんど含まれていません。
このことは、“ガイアBH3”にも重元素がほとんど含まれていなかった可能性があることを示しています。
重元素が少ない星は、生涯を通じて失う物資が少ないので、大きな質量のブラックホールを形成するための物質がより多く残されると考えられています。
“ガイアBH3”が太陽の約33倍もの質量を持つ理由が分かってきましたね。
こちらの記事もどうぞ