NASAが1977年に打ち上げた惑星探査機“ボイジャー1号(Voyager 1)”は、2023年11月から読み取り不能な状態のデータを送信するトラブルを抱えていました。
今回、NASAが公式ブログ(2024年4月4日投稿)で公表したのは、このトラブルの原因を特定できたこと。
原因は、問題が発生したコンピュータのメモリの一部が破損していことでした。
問題解決には数週間から数か月かかる可能性があるものの、NASAは壊れたメモリを経由せずにデータを読み出せる方法を見つけられると、楽観的な見方をしています。
星間空間を航行する老探査機“ボイジャー1号”が抱える問題
1977年に打ち上げられたNASAの“ボイジャー1号”は、10年以上も星間空間を飛行している探査機です。
星間空間とは、銀河内の各々の恒星と恒星の間に広がる空間。
太陽風勢力圏といった各恒星の影響が及ぶ空間は惑星間空間、各銀河の間の空間は銀河間空間と言い区別されています。
“ボイジャー1号”は2012年に星間空間に到達し、“ボイジャー2号”は2018年に太陽風と星間物質がぶつかり合う境界“ヘリオポーズ”を通過し、星間空間に到達。
貴重な科学観測データを送信し続けています。
このように星間空間に探査機を送ることは時間(や費用)がかかるので、NASAでは“ボイジャー1号”をできるだけ長く運用させる努力が続けられています。
でも、運用開始から46年が経過した“ボイジャー1号”のミッションは、2025年~2036年のどこかで終了することが予想されているんですねー
理由は、電源として搭載されている原子力電池(放射性同位体熱電気転換器)の出力が低下し続けていることや、遠く離れた探査機と通信を行うNASAの深宇宙通信網“ディープ・スペース・ネットワーク(DSN; Deep Space Network)”でも、通信できなくなるほど信号が弱くなっていることが挙げられます。
また、探査機自体の劣化により運用状況に問題が生じることもありました。
2022年5月には、無意味な信号が送信される問題も発生しています。
この時は、探査機の姿勢制御に関わる“AACS(attitude articulation and control system)”というシステムが、何年も前に稼働を停止したオンボードコンピュータを経由してデータを送信したことで、無意味な信号が生成されてしまったことが原因だと突き止められました。
このように、半世紀も前の技術で作られたレガシーシステムである“ボイジャー1号”で起きている問題の原因を、解消する作業は困難です。
問題解決のために送信されたコマンドが別の致命的な問題を招いてしまう恐れがあることから、予期せぬ結果を避けるためには当時書かれた膨大な資料を読み込まなければなりません。
それに、現在“ボイジャー1号”が航行しているのは、地球から240億キロ以上も離れた星間空間。
通信によるコマンドが届くのに22時間以上もかかってしまい、直ぐに応答が返されても受信するまでに約45時間かかるので、原因の特定と対処にはどうしても長い時間が必要となります。
意味不明なバイナリデータの送信
“AACS”の問題が解決してから1年4か月ほど後のこと、NASAは公式ブログ(2023年12月12日投稿)で、“ボイジャー1号”の通信内容に別の問題が発生していることを公表しています。
問題が発生したの“ボイジャー1号”に3台搭載されているコンピュータの一つ“フライト・データ・システム(FDS; Flight Data System)”でした。
“FDS”は、“ボイジャー1号”が観測した科学データや探査機の状態に関する工学データを、“テレメトリ変調ユニット(TMU; Telemetry Modulation Unit)”というサブシステムを介して地球に送信しています。
ところが、“ボイジャー1号”の“TMU”は2023年11月から、0と1が繰り返される意味不明なバイナリデータを送信することに…
研究チームでは、問題の原因が“TMU”ではなく“FDS”側にあることを突き止め、問題が起きる前の状態に戻すため“FDS”を再起動。
それでも、問題は解消されなかったので、もっと根本的な部分に問題が起きている可能性を考慮して原因究明を進めてきました。
メモリを構成するチップの一つが機能していないことが原因
この問題に関して、NASAは公式ブログへの投稿(2024年3月13日)で、“FDS”を構成するメモリ全体の読み出しデータを受信したことを公表しました。
このデータは、“FDS”のシーケンス実行に問題が生じた場合に備えて、ソフトウェア内にある別のシーケンスを実行する“poke”と呼ばれるコマンドを送信(同年3月1日)した後に受信(同年3月3日)されていました。
受信したデータは、正常時の“FDS”のデータとは異なる形式だったので、ボイジャーのミッションチームは当初その内容を解釈できませんでした。
でも、ディープ・スペース・ネットワークの技術チームが解読したところ、“FDS”のコードや変数、科学・工学データといった、“FDS”のメモリ全体の読み出しが含まれていることが判明(同年3月10日)。
この結果、問題が発生する前の“FDS”のデータとを比較することで、“FDS”のどこに問題が生じているのかを突き止められるようになりました。
その後、NASAでは“FDS”のメモリの約3%が破損し、通常の動作を行えなくなっていることを公式ブログへ投稿(同年4月4日)。
メモリを構成するチップの一つが機能していないことが、原因ではないかと推定しています。
機能停止の原因までは分かっていないものの、運用開始から46年が経過したことによる経年劣化か、宇宙線などの高エネルギー粒子による物理的な破壊の可能性が挙げられています。
それでも、原因は特定できた訳なので、今度は問題解決になります。
現在、技術チームが模索しているのは、使用できないメモリを経由せずに“FDS”からデータを読み出す方法。
数週間から数か月かかるかもしれませんが、NASAは修復は可能だと楽観的な見方を示していようです。
問題が解決すれば“ボイジャー1号”は、人類史上最も遠くの探査機として長い旅を続けることになります。
こちらの記事もどうぞ
今回、NASAが公式ブログ(2024年4月4日投稿)で公表したのは、このトラブルの原因を特定できたこと。
原因は、問題が発生したコンピュータのメモリの一部が破損していことでした。
問題解決には数週間から数か月かかる可能性があるものの、NASAは壊れたメモリを経由せずにデータを読み出せる方法を見つけられると、楽観的な見方をしています。
図1.星間空間を航行するNASAの惑星探査機“ボイジャー”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech) |
星間空間を航行する老探査機“ボイジャー1号”が抱える問題
1977年に打ち上げられたNASAの“ボイジャー1号”は、10年以上も星間空間を飛行している探査機です。
星間空間とは、銀河内の各々の恒星と恒星の間に広がる空間。
太陽風勢力圏といった各恒星の影響が及ぶ空間は惑星間空間、各銀河の間の空間は銀河間空間と言い区別されています。
“ボイジャー1号”は2012年に星間空間に到達し、“ボイジャー2号”は2018年に太陽風と星間物質がぶつかり合う境界“ヘリオポーズ”を通過し、星間空間に到達。
貴重な科学観測データを送信し続けています。
このように星間空間に探査機を送ることは時間(や費用)がかかるので、NASAでは“ボイジャー1号”をできるだけ長く運用させる努力が続けられています。
でも、運用開始から46年が経過した“ボイジャー1号”のミッションは、2025年~2036年のどこかで終了することが予想されているんですねー
理由は、電源として搭載されている原子力電池(放射性同位体熱電気転換器)の出力が低下し続けていることや、遠く離れた探査機と通信を行うNASAの深宇宙通信網“ディープ・スペース・ネットワーク(DSN; Deep Space Network)”でも、通信できなくなるほど信号が弱くなっていることが挙げられます。
また、探査機自体の劣化により運用状況に問題が生じることもありました。
2022年5月には、無意味な信号が送信される問題も発生しています。
この時は、探査機の姿勢制御に関わる“AACS(attitude articulation and control system)”というシステムが、何年も前に稼働を停止したオンボードコンピュータを経由してデータを送信したことで、無意味な信号が生成されてしまったことが原因だと突き止められました。
このように、半世紀も前の技術で作られたレガシーシステムである“ボイジャー1号”で起きている問題の原因を、解消する作業は困難です。
問題解決のために送信されたコマンドが別の致命的な問題を招いてしまう恐れがあることから、予期せぬ結果を避けるためには当時書かれた膨大な資料を読み込まなければなりません。
それに、現在“ボイジャー1号”が航行しているのは、地球から240億キロ以上も離れた星間空間。
通信によるコマンドが届くのに22時間以上もかかってしまい、直ぐに応答が返されても受信するまでに約45時間かかるので、原因の特定と対処にはどうしても長い時間が必要となります。
意味不明なバイナリデータの送信
“AACS”の問題が解決してから1年4か月ほど後のこと、NASAは公式ブログ(2023年12月12日投稿)で、“ボイジャー1号”の通信内容に別の問題が発生していることを公表しています。
問題が発生したの“ボイジャー1号”に3台搭載されているコンピュータの一つ“フライト・データ・システム(FDS; Flight Data System)”でした。
“FDS”は、“ボイジャー1号”が観測した科学データや探査機の状態に関する工学データを、“テレメトリ変調ユニット(TMU; Telemetry Modulation Unit)”というサブシステムを介して地球に送信しています。
ところが、“ボイジャー1号”の“TMU”は2023年11月から、0と1が繰り返される意味不明なバイナリデータを送信することに…
研究チームでは、問題の原因が“TMU”ではなく“FDS”側にあることを突き止め、問題が起きる前の状態に戻すため“FDS”を再起動。
それでも、問題は解消されなかったので、もっと根本的な部分に問題が起きている可能性を考慮して原因究明を進めてきました。
図2.“ボイジャー”に搭載された“FDS”の外観写真。(Credit: NASA-JPL) |
メモリを構成するチップの一つが機能していないことが原因
この問題に関して、NASAは公式ブログへの投稿(2024年3月13日)で、“FDS”を構成するメモリ全体の読み出しデータを受信したことを公表しました。
このデータは、“FDS”のシーケンス実行に問題が生じた場合に備えて、ソフトウェア内にある別のシーケンスを実行する“poke”と呼ばれるコマンドを送信(同年3月1日)した後に受信(同年3月3日)されていました。
受信したデータは、正常時の“FDS”のデータとは異なる形式だったので、ボイジャーのミッションチームは当初その内容を解釈できませんでした。
でも、ディープ・スペース・ネットワークの技術チームが解読したところ、“FDS”のコードや変数、科学・工学データといった、“FDS”のメモリ全体の読み出しが含まれていることが判明(同年3月10日)。
この結果、問題が発生する前の“FDS”のデータとを比較することで、“FDS”のどこに問題が生じているのかを突き止められるようになりました。
その後、NASAでは“FDS”のメモリの約3%が破損し、通常の動作を行えなくなっていることを公式ブログへ投稿(同年4月4日)。
メモリを構成するチップの一つが機能していないことが、原因ではないかと推定しています。
機能停止の原因までは分かっていないものの、運用開始から46年が経過したことによる経年劣化か、宇宙線などの高エネルギー粒子による物理的な破壊の可能性が挙げられています。
それでも、原因は特定できた訳なので、今度は問題解決になります。
現在、技術チームが模索しているのは、使用できないメモリを経由せずに“FDS”からデータを読み出す方法。
数週間から数か月かかるかもしれませんが、NASAは修復は可能だと楽観的な見方を示していようです。
問題が解決すれば“ボイジャー1号”は、人類史上最も遠くの探査機として長い旅を続けることになります。
こちらの記事もどうぞ