太陽を惑星が公転しているときに、太陽や惑星と比べて質量がずっと小さい小惑星などの天体が、太陽や惑星の重力に対して静止した状態を保てる5つの場所があります。
その場所をラグランジュ点と言い、その中でもL4・L5付近を運動する小惑星のグループのことをトロヤ群と呼びます。
トロヤ群は、惑星の公転軌道を移動する小惑星のグループのことで、太陽から見て惑星に対して60度前方あるいは60度後方の軌道に分布しています。
ここでは、太陽と惑星の重力や小惑星のグループにかかる遠心力が均衡しているんですねー
これまでに発見された火星のトロヤ群小惑星は16個。
その大半は火星に従うように公転しているように見える“L5点付近(公転する火星の後方)”に属していて、火星に先行し公転しいるように見える“L4点付近(公転する火星の前方)”に属する小惑星は、これまで1個しか発見されていませんでした。
今回の研究では、昨年発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”が、観測史上2番目となる火星のL4点トロヤ群小惑星であることを明らかにしています。
“2023 FW14”が火星のトロヤ群に属している期間はかなり短いと予測されているので、火星のトロヤ群小惑星全体の起源に迫る重要な手掛かりになるのかもしれません。
惑星と同じ公転軌道を同じ距離を保ちながら運動する小惑星群
ある天体“A”(例えば太陽)を別の天体“B”(例えば木星)が円形の軌道で公転しているときに、天体“A”や“B”と比べて質量がずっと小さい天体“C”が(天体“A”と“B”に対して)静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言います。
例えば、太陽と木星のラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(公転する木星の後方)には、数多くの小惑星が分布していることが知られています。
これらの小惑星は、“木星のトロヤ群”というグループに分類されています。
トロヤ群とは、惑星の公転軌道上の太陽から見てその惑星に対して60度前方あるいは60度後方、すなわちラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループです。
このような性質を持つ小惑星が初めて見つかったのは木星でのこと。
最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前“アキレス”が付けられたことから、このグループは“トロヤ群”と呼ばれています。
L4とL5は、ラグランジュ点の中でも特に安定しています。
なので、太陽や惑星と比べて極めて小さい小惑星のような天体が、長期的に安定して存在すると考えられています。
同じようなアイデアに基づき、スペースコロニーを配置するという構想やSF作品を通じて、ラグランジュ点という用語を聞いたことがある方もいるかもしれません。
惑星からラグランジュL4点とL5点を眺めると、惑星とほぼ同じ公転軌道を、見た目の上では同じ距離を保ちながら先行あるいは後続して進むように見えます。
太陽系で3番目に多い火星のトロヤ群小惑星
これまで、火星では16個のトロヤ群小惑星が発見されていて、この数は太陽系の全惑星の中で3番目に多いものです。
ただ、そのうちの15個がラグランジュL5点で見つかった小惑星なんですねー
ラグランジュL4点にある小惑星は、1999年に発見され2003年にL4トロヤ群に属することが判明した121514番小惑星“1999 UJ7”の1個だけでした。
なぜL4点とL5点で、これほど小惑星の数に極端な差があるのでしょうか?
この謎は未だ解明されていません。
ただ、部分的な回答として、L5トロヤ群小惑星のいくつかは同じ天体に由来する破片とする仮説があります。
火星のトロヤ群小惑星の表面の色(スペクトル分類)を観測してみると、5261番小惑星“エウレカ”と似た色を持つL5トロヤ群小惑星がいくつも見つかっています。
“エウレカ”は、L5トロヤ群でも最大の小惑星(約1.9キロ)です。
このことから、天体衝突や分裂(※1)によってばら撒かれた破片が、L5トロヤ群小惑星として公転し続けていると考えることができます。
観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星
今回の研究では、発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”に注目し、力学的な解析を行っています。
“2023 FW14”が発見されたのは2023年3月18日のことでした。
4月15日には、現在の仮符号と詳しい公転軌道の値が公表され、公転軌道の値が事前にシミュレーションされていた火星のL4トロヤ群の値と一致していたので、トロヤ群小惑星の候補となっています。
研究チームでは、“2023 FW14”が本当に火星のトロヤ群小惑星なのかを確かめるため、力学的なシミュレーションを実施。
また、スペインのラ・パルマ島に設置されたカナリア大望遠鏡で“2023 FW14”を観測し、より詳しい性質を明らかにしようとしています。
シミュレーションにより判明したのは、“2023 FW14”が真に火星のL4トロヤ群小惑星であること。
これにより、“2023 FW14”は21年振りに追加された、観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星で、火星のトロヤ群は全体で17個になりました。
また、観測された表面の色などの性質から分かったのは、“2023 FW14”はXc型というタイプに属していて、同じくL4トロヤ群小惑星の“1999 UJ7”と似ていることでした。
さらに、色から推定される反射率と見た目の明るさをからは、“2023 FW14”の推定直径が318メートル(119~811メートル)と計算されています。
このことから、“2023 FW14”はL4トロヤ群のみならず、火星のトロヤ群全体でもかなり小さい小惑星の可能性があります。
一時的に火星の重力で捕獲された小惑星
今回の研究結果により新たな謎も生まれています。
それは、“2023 FW14”の現在の軌道が不安定で、火星のトロヤ群に属する期間は短いと推定されるためです。
今回のシミュレーションでは、“2023 FW14”は約100万年前から火星のトロヤ群小惑星となり、約1000万年後までには現在の軌道から外れると見られています。
また、“2023 FW14”は火星トロヤ群小惑星としては、最も楕円形の軌道を持っています。
これだけを見れば、“2023 FW14”は一時的に火星の重力で捕獲された小惑星の可能性が高いことになります。
一方、“2023 FW14”の起源かもしれない“1999 UJ7”の軌道は数十億年に渡って相当安定していて、太陽系誕生時に火星と同じ公転軌道上で成長した微惑星の名残りである可能性があります。
その場合、“1999 UJ7”は原始的な火星トロヤ群小惑星になります。
でも、類似している“2023 FW14”が原始的な火星トロヤ群小惑星ではなく、捕獲された“他人”だとしたら…
なぜ、お互いはこれほど似ているのかという疑問が生じます。
原始的な火星トロヤ群小惑星
実は、L4トロヤ群の“1999 UJ7”が原始的な火星トロヤ群小惑星だという説は、“2023 FW14”の発見以前からあり、同時に大きな謎となっていました。
L5トロヤ群の“エウレカ”や、それと似ているいくつかのL5トロヤ群小惑星は、“1999 UJ7”と同様に軌道が相当安定していることが分かっています。
その一方で、“1999 UJ7”と“エウレカ”はお互いに似ていないんですねー
原始的な火星トロヤ群は、本来ならば同じ環境と材料で形成されたはず。
本来は似ているべきであることを考えると、このことは矛盾していると言えます。
今回、新たなL4トロヤ群として発見された“2023 FW14”の存在を加えることで、研究チームでは“エウレカ”こそが真に原始的な火星トロヤ群小惑星だと考えています。
“エウレカ”はカンラン石を豊富に含むタイプ(SI型)ですが、これは火星とは起源が異なる小惑星帯の中では少数派です。
一方、“1999 UJ7”は小惑星帯によくみられるタイプのXc型になります。
今回の観測で“2023 FW14”の分類が判明し、また“1999 UJ7”よりも精度の高い観測データが得られたことで、“1999 UJ7”と“2023 FW14”は火星の誕生時とは異なる起源をもつ、つまり後の時代になって火星に捕獲された小惑星の可能性が高いことが分かりました。
では、“2023 FW14”と“1999 UJ7”の関係性はどうなのでしょうか?
この研究以前にも、“1999 UJ7”は元々は火星の公転軌道を横断する小惑星で、約40億年前に火星に捕獲されたという説がありました。
今回発見された“2023 FW14”も、“1999 UJ7”と同じタイミングで捕獲されたか、もしくは“1999 UJ7”が捕獲された後に分裂したときの破片なのかもしれません。
“2023 FW14”が“1999 UJ7”と似ていることや、L4トロヤ群に属する約1000万年という期間は、同時捕獲説と分裂説のどちらでも説明が可能なので、これは新たな注目ポイントとなります。
この説が正しいのかはまだ分かりませんが、いずれにしても“2023 FW14”は火星トロヤ群に関する大きな謎を解くカギとなるはずです。
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その場所をラグランジュ点と言い、その中でもL4・L5付近を運動する小惑星のグループのことをトロヤ群と呼びます。
トロヤ群は、惑星の公転軌道を移動する小惑星のグループのことで、太陽から見て惑星に対して60度前方あるいは60度後方の軌道に分布しています。
ここでは、太陽と惑星の重力や小惑星のグループにかかる遠心力が均衡しているんですねー
これまでに発見された火星のトロヤ群小惑星は16個。
その大半は火星に従うように公転しているように見える“L5点付近(公転する火星の後方)”に属していて、火星に先行し公転しいるように見える“L4点付近(公転する火星の前方)”に属する小惑星は、これまで1個しか発見されていませんでした。
今回の研究では、昨年発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”が、観測史上2番目となる火星のL4点トロヤ群小惑星であることを明らかにしています。
“2023 FW14”が火星のトロヤ群に属している期間はかなり短いと予測されているので、火星のトロヤ群小惑星全体の起源に迫る重要な手掛かりになるのかもしれません。
この研究は、マドリード・コンプルテンセ大学のRaul de la Fuente Marcosさんたちの研究チームが進めています。
図1.火星の近くにある小惑星のイメージ図。(Credit: Gabriel Pérez Díaz) |
惑星と同じ公転軌道を同じ距離を保ちながら運動する小惑星群
ある天体“A”(例えば太陽)を別の天体“B”(例えば木星)が円形の軌道で公転しているときに、天体“A”や“B”と比べて質量がずっと小さい天体“C”が(天体“A”と“B”に対して)静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言います。
例えば、太陽と木星のラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(公転する木星の後方)には、数多くの小惑星が分布していることが知られています。
これらの小惑星は、“木星のトロヤ群”というグループに分類されています。
トロヤ群とは、惑星の公転軌道上の太陽から見てその惑星に対して60度前方あるいは60度後方、すなわちラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループです。
このような性質を持つ小惑星が初めて見つかったのは木星でのこと。
最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前“アキレス”が付けられたことから、このグループは“トロヤ群”と呼ばれています。
図2.太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission)) |
L4とL5は、ラグランジュ点の中でも特に安定しています。
なので、太陽や惑星と比べて極めて小さい小惑星のような天体が、長期的に安定して存在すると考えられています。
同じようなアイデアに基づき、スペースコロニーを配置するという構想やSF作品を通じて、ラグランジュ点という用語を聞いたことがある方もいるかもしれません。
惑星からラグランジュL4点とL5点を眺めると、惑星とほぼ同じ公転軌道を、見た目の上では同じ距離を保ちながら先行あるいは後続して進むように見えます。
図3.小惑星のような質量がずっと小さい天体が、太陽と惑星に対して静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言う。L4とL5の2点は特に安定していて、ここに存在する小惑星のグループをトロヤ群と呼ぶ。(Credit: EnEdC) |
太陽系で3番目に多い火星のトロヤ群小惑星
これまで、火星では16個のトロヤ群小惑星が発見されていて、この数は太陽系の全惑星の中で3番目に多いものです。
ただ、そのうちの15個がラグランジュL5点で見つかった小惑星なんですねー
ラグランジュL4点にある小惑星は、1999年に発見され2003年にL4トロヤ群に属することが判明した121514番小惑星“1999 UJ7”の1個だけでした。
なぜL4点とL5点で、これほど小惑星の数に極端な差があるのでしょうか?
この謎は未だ解明されていません。
ただ、部分的な回答として、L5トロヤ群小惑星のいくつかは同じ天体に由来する破片とする仮説があります。
火星のトロヤ群小惑星の表面の色(スペクトル分類)を観測してみると、5261番小惑星“エウレカ”と似た色を持つL5トロヤ群小惑星がいくつも見つかっています。
“エウレカ”は、L5トロヤ群でも最大の小惑星(約1.9キロ)です。
このことから、天体衝突や分裂(※1)によってばら撒かれた破片が、L5トロヤ群小惑星として公転し続けていると考えることができます。
※1.小さく不規則な形状をした天体は、太陽放射によって自転周期が変化する(これをYORP効果と呼ぶ)。YORP効果のシミュレーションでは、自らが分裂するほど自転が加速されることがある。
観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星
今回の研究では、発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”に注目し、力学的な解析を行っています。
“2023 FW14”が発見されたのは2023年3月18日のことでした。
4月15日には、現在の仮符号と詳しい公転軌道の値が公表され、公転軌道の値が事前にシミュレーションされていた火星のL4トロヤ群の値と一致していたので、トロヤ群小惑星の候補となっています。
研究チームでは、“2023 FW14”が本当に火星のトロヤ群小惑星なのかを確かめるため、力学的なシミュレーションを実施。
また、スペインのラ・パルマ島に設置されたカナリア大望遠鏡で“2023 FW14”を観測し、より詳しい性質を明らかにしようとしています。
図4.“2023 FW14”を含む確認された火星のトロヤ群小惑星の一覧。(Credit: 彩恵りり) |
これにより、“2023 FW14”は21年振りに追加された、観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星で、火星のトロヤ群は全体で17個になりました。
また、観測された表面の色などの性質から分かったのは、“2023 FW14”はXc型というタイプに属していて、同じくL4トロヤ群小惑星の“1999 UJ7”と似ていることでした。
さらに、色から推定される反射率と見た目の明るさをからは、“2023 FW14”の推定直径が318メートル(119~811メートル)と計算されています。
このことから、“2023 FW14”はL4トロヤ群のみならず、火星のトロヤ群全体でもかなり小さい小惑星の可能性があります。
一時的に火星の重力で捕獲された小惑星
今回の研究結果により新たな謎も生まれています。
それは、“2023 FW14”の現在の軌道が不安定で、火星のトロヤ群に属する期間は短いと推定されるためです。
今回のシミュレーションでは、“2023 FW14”は約100万年前から火星のトロヤ群小惑星となり、約1000万年後までには現在の軌道から外れると見られています。
図5.“2023 FW14”の火星に対する位置の長期的な変化予測。+60度付近の狭い範囲にグラフが描かれている期間が、“2023 FW14”がL4トロヤ群に属することを意味している。約100万年前までと約1000万年後からはグラフが激しく上下動していて、長期的には不安定であることが分かる。(Credit: R. de la Fuente Marcos, et al.) |
これだけを見れば、“2023 FW14”は一時的に火星の重力で捕獲された小惑星の可能性が高いことになります。
一方、“2023 FW14”の起源かもしれない“1999 UJ7”の軌道は数十億年に渡って相当安定していて、太陽系誕生時に火星と同じ公転軌道上で成長した微惑星の名残りである可能性があります。
その場合、“1999 UJ7”は原始的な火星トロヤ群小惑星になります。
でも、類似している“2023 FW14”が原始的な火星トロヤ群小惑星ではなく、捕獲された“他人”だとしたら…
なぜ、お互いはこれほど似ているのかという疑問が生じます。
原始的な火星トロヤ群小惑星
実は、L4トロヤ群の“1999 UJ7”が原始的な火星トロヤ群小惑星だという説は、“2023 FW14”の発見以前からあり、同時に大きな謎となっていました。
L5トロヤ群の“エウレカ”や、それと似ているいくつかのL5トロヤ群小惑星は、“1999 UJ7”と同様に軌道が相当安定していることが分かっています。
その一方で、“1999 UJ7”と“エウレカ”はお互いに似ていないんですねー
原始的な火星トロヤ群は、本来ならば同じ環境と材料で形成されたはず。
本来は似ているべきであることを考えると、このことは矛盾していると言えます。
今回、新たなL4トロヤ群として発見された“2023 FW14”の存在を加えることで、研究チームでは“エウレカ”こそが真に原始的な火星トロヤ群小惑星だと考えています。
“エウレカ”はカンラン石を豊富に含むタイプ(SI型)ですが、これは火星とは起源が異なる小惑星帯の中では少数派です。
一方、“1999 UJ7”は小惑星帯によくみられるタイプのXc型になります。
今回の観測で“2023 FW14”の分類が判明し、また“1999 UJ7”よりも精度の高い観測データが得られたことで、“1999 UJ7”と“2023 FW14”は火星の誕生時とは異なる起源をもつ、つまり後の時代になって火星に捕獲された小惑星の可能性が高いことが分かりました。
では、“2023 FW14”と“1999 UJ7”の関係性はどうなのでしょうか?
この研究以前にも、“1999 UJ7”は元々は火星の公転軌道を横断する小惑星で、約40億年前に火星に捕獲されたという説がありました。
今回発見された“2023 FW14”も、“1999 UJ7”と同じタイミングで捕獲されたか、もしくは“1999 UJ7”が捕獲された後に分裂したときの破片なのかもしれません。
“2023 FW14”が“1999 UJ7”と似ていることや、L4トロヤ群に属する約1000万年という期間は、同時捕獲説と分裂説のどちらでも説明が可能なので、これは新たな注目ポイントとなります。
この説が正しいのかはまだ分かりませんが、いずれにしても“2023 FW14”は火星トロヤ群に関する大きな謎を解くカギとなるはずです。
こちらの記事もどうぞ