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超大型望遠鏡“VLT”の観測で見つかった? 初代星が起こした超新星爆発の痕跡

2023年05月06日 | 宇宙 space
パリ天文台の博士課程学生Andrea Saccardiさんを筆頭とする研究チームが発表したのは、初期の宇宙に存在していたガス雲に関する研究成果でした。

その中に含まれていたのは、宇宙最初の世代の星である“初代星(ファーストスター)”が超新星爆発を起こした後に残したとみられるガス雲。
初代星の超新星爆発の痕跡を初めて特定できたと、研究チームは考えているようです。
様々な元素を含む遠方宇宙のガス雲のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser)
様々な元素を含む遠方宇宙のガス雲のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser)

星々が長い年月をかけて生み出してきた重元素

私たちの周辺には水分子を構成する水素や酸素をはじめ、地球の生命に欠かせない炭素や窒素、それに人類の文明活動に用いられている鉄や金、ウランなど、様々な元素が存在しています。

でも、今から約138億年前のビッグバンから始まったとされる宇宙の歴史の再初期には、水素やヘリウム、ごくわずかなリチウムといった軽い元素しか存在していなかったと考えられています。

水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
この重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成され、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられています。

生成された金属は恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくので、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。

そう、生命や文明を支える多様な元素は、星々が長い時間をかけて生み出してきたものなんですねー

その長い歴史を過去に向かって辿っていくと、今から約135億年前に誕生したと考えられている最初の世代の星“初代星(ファーストスター:種族IIIの星)”は、当時の宇宙に存在していた水素やヘリウムだけを材料に形成されたことになります。
スペクトルから判明する金属量をもとに、金属が多い若い星は“種族I”、金属量が少ない古い星は“種族II”に分類されいる。金属が少ない星は“金属欠乏星”、金属がほとんど含まれていない星は“超金属欠乏星”とも呼ばれている。また、金属を含まない星、すなわち最初の世代の星は“種族III”に分類されているが、まだ見つかっていない。
太陽数十個~数百個分の質量があったとみられる初代星は、その内部で初めて金属を生成し、超新星爆発を起こしたときに周囲へ金属を撒き散らしたはずです。

初代星の超新星爆発後に予想される化学組成と一致するガス雲の発見

今回の研究では、今から約120億年前(赤方偏移z=3~4)に存在していた複数のガス雲の化学組成を分析。
すると、恒星の内部で生成される元素のうち炭素などは豊富に含まれるものの、鉄はほとんど含まないガス雲が3つ見つかりました。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
研究チームによると、一部の初代星が起こした超新星爆発はエネルギーが低く、星の外層に存在していた炭素や酸素、マグネシウムなどは放出されるものの、中心核(コア)に存在していた鉄はほとんど放出されない場合もあった可能性が、過去の研究で指摘されていたそうです。

今回見つかった3つのガス雲の化学組成は、このような爆発で予想されるものに一致するそうです。
ヨーロッパ南天天文台による今回の研究成果の解説動画(英語)。(Credit: ESO)
また、天の川銀河で見つかっている古い星の中には、鉄に対する炭素の割合が高い“炭素過剰金属欠乏星”と呼ばれるものがあります。

これまで、炭素過剰金属欠乏星は初代星が放出した物質から形成された“第2世代の星”である可能性が指摘されています。
今回研究チームが見つけた3つのガス雲は、まさにそのような物質に相当する存在といえるんですねー

史上初めて、初代星の爆発の科学的な痕跡を遠方宇宙のガス雲を分析することで特定することができたわけです。

この発見は、初代星の性質を間接的に研究する新たな方法を開くもの。
さらに、天の川銀河の星の研究を完全に補完するものなのかもしれません。

ガス雲を通過してきたクエーサーの光を地上の望遠鏡で分析

今回の研究で用いられたのは、超大型望遠鏡“VLT”に搭載されている多波長分光観測装置“X-shooter”によるクエーサーの観測データでした。
超大型望遠鏡“VLT(Very Large Telescope)”は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設した口径8.2メートルの4基の光赤外線望遠鏡の総称。それぞれ1基ずつ独立に観測でき、ガンマ線バーストをはじめ様々な観測を行っている。4基の望遠鏡を光ファイバーで結合して光干渉計としても活用されている。日本の“すばる望遠鏡”と共に世界最大の光赤外線望遠鏡の1つ。“すばる望遠鏡”と違い、南半球からでしか見えない宇宙を観測している。
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体で、遠方にあるにもかかわらず明るく見えています。

このクエーサーと地球の間にガス雲があると、クエーサーから放出された光の一部はガス雲に含まれている物質に吸収されてしまいます。

天体のスペクトルを得る分光観測を行い、クエーサーのスペクトルに現れた吸収線を調べることで、ガス雲に含まれている金属の種類や量を知ることができます。
スペクトルは光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。
個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、その波長での光の強度が弱まり吸収線として観測される。このスペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
クエーサー(左上)を利用してガス雲(中央)の化学組成を調べる方法を示した図。虹色のバーで示されているのはクエーサーのスペクトル。ガス雲を通過した後のスペクトルには暗い吸収線が現れている。(Credit: ESO/L. Calçada)
クエーサー(左上)を利用してガス雲(中央)の化学組成を調べる方法を示した図。虹色のバーで示されているのはクエーサーのスペクトル。ガス雲を通過した後のスペクトルには暗い吸収線が現れている。(Credit: ESO/L. Calçada)
“X-shooter”のような分光観測機は、現在ヨーロッパ南天天文台が建設を進めている口径39mの大型望遠鏡“欧州超大型望遠鏡(European Extremely Large Telescope : E-ELT)”にも搭載される予定です。

この欧州超大型望遠鏡の分光観測装置を用いて、今回見つかったようなガス雲をより多く、より詳しく調べることができれば、初代星の謎めいた性質を明らかにできるはず。
欧州超大型望遠鏡の完成が待たれますね。


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