白色矮星の連星系による爆発的なエネルギー放出現象
太陽のような軽い恒星は、核融合反応が停止した後に外層からガスや塵を放出して硬い中心核を残します。白色矮星と呼ばれるこの硬い中心核は通常は核融合反応をしないので、ゆっくりと冷えていくことに…
でも、白色矮星が伴星として通常の恒星を引き連れている場合だと話が異なるんですねー
この場合、白色矮星は強い重力で伴星の表面物質を剝ぎ取り、表面に堆積させることがあります。
そして、物質の量が限界を超えると、白色矮星で一瞬だけ核融合反応が発生し、膨大なエネルギーが放出されます。
この爆発的なエネルギー放出を“Ia型超新星”と呼びます。
さらに、Ia型超新星にはエネルギーの放出量、つまり爆発の明るさが一定だという特徴があります。
これは、核融合反応が点火するきっかけとなる白色矮星の限界質量(太陽の約1.4倍)が一定であるためです。
Ia型超新星の見た目の明るさは、地球にいる観察者からIa型超新星までの距離によって決まります。
なので、Ia型超新星が起きた銀河までの距離を決定する指標になるわけです。
ただ、Ia型超新星の発生メカニズムは完全には理解されてません。
白色矮星が爆発時に剥ぎ取る伴星の物質
白色矮星が爆発すると、爆風を受けた伴星からも表面の物質が剝がれるはずです。なので、爆発時に剥がれた水素の存在を示すスペクトル線が現れてもいいはず…
でも、未だにそのような観測結果は得られていません。
なぜ、水素の存在がスペクトルに現れないのでしょうか?
この矛盾を説明する仮説として、爆発直後の伴星表面に存在するのは水素ではなくヘリウムであるとするものがあります。
実際に、高度に進化した恒星の一部には、表面に水素がほとんどなく、ヘリウムが豊富に存在するタイプが見つかっています。
このような伴星の表面から爆発時に剝ぎ取られるヘリウムの量は、伴星の質量の2%から5%ほど。
そう、かなりの量になるので観測するのに十分な量になるはずです。
でも、ヘリウムも水素と同様に、爆発時に伴星から剥ぎ取られたことを示す証拠は見つかってないんですねー
大マゼラン雲の白色矮星から検出されたX線のエネルギー
この疑問の部分的な答えを得る発見をしたのが、マックス・プランク地球外物理学研究所(MRE)のJ.Greinerさんたちの研究チームです。発見は超軟X線源[HP99]159の観測結果によるものでした。
天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)である大マゼラン雲に存在する[HP99]159は、X線の観測結果から白色矮星であることが分かっています。
X線の中でもエネルギーが極めて低いものを超軟X線と呼ぶ。
[HP99]159は、伴星である恒星から流入したガスがX線を放出している。今回のスペクトル分析では、そのほとんどがヘリウムで構成されていることが分かり、ほぼ純粋なヘリウム燃焼が起きていることが分かった。(Credit: F. Bodensteiner/background image ESO) |
興味深かったのは、[HP99]159のスペクトル線にはヘリウムと窒素しか検出されなかったこと。
水素など他の元素は見つからなかったんですねー
窒素の量はヘリウムよりもずっと少ないので、降着円盤は実質的に純粋なヘリウムでできていることが示唆されています。
検出されているX線のエネルギーも、ヘリウムの継続的な燃焼で放出されるものと一致していました。
このため、今回観測されたスペクトル線は、白色矮星である[HP99]159で起こっているヘリウムの燃焼(核融合反応)がその源である可能性を示していました。
なお、ヘリウム以外に見つかった唯一の元素である窒素は、ヘリウムの層が剥き出しになる段階まで進化した恒星で合成される元素と一致していました。
このことから、[HP99]159の降着円盤の源は、ヘリウムの層が剥き出しになった恒星であることが分かります。
太陽より重い恒星ではCNOサイクルと呼ばれる炭素・窒素・酸素の合成が循環するサイクル反応が発生する。窒素はCNOサイクルで生成される主要な元素の一つになる。
なお、[HP99]159に対するヘリウムの降着速度はかなり遅いと推定されているので、Ia型超新星が起こるまで質量が蓄積されるのかどうかは分かっていません。でも、Ia型超新星より少し弱い爆発現象である“Iax型超新星”なら発生する可能性があるようです。
爆発の威力が低いIax型超新星の存在
Ia型超新星全体の約30%を占めるIax型超新星は爆発の威力が低いので、伴星から剥ぎ取られる物質の量も少なくなります。そう、Ia型超新星でヘリウムのスペクトル線が見られなかったのは、少なくともその一部では観測できないほどわずかなヘリウムしか放出されていないためだと説明することができるんですねー
なお、モデル計算に基づき、[HP99]159のようなガスの流入量が少ない場合、ヘリウムの燃焼は不安定であると推測されています。
その一方で、[HP99]159の過去50年分の観測データからは、不安定な燃焼に由来するX線強度の極端な変化は観測されていないんですねー
ただ、この矛盾については、[HP99]159が高速で自転しているので、ヘリウムの降着が安定化しているからだと推定されています。
いずれにしても、[HP99]159のようにヘリウムの存在と燃焼が詳しく観測された白色矮星はほとんどありません。
研究チームでは、[HP99]159のように安定したヘリウム燃焼をしている白色矮星は天の川銀河に30個ほど存在し、大マゼラン雲にも数個存在すると推測しています。
追加の観測により、[HP99]159のような白色矮星を発見できれば、さらに多くのことが分かるのかもしれませんね。
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