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ビッグバンから数百万年後に形成された若い星からの放射を発見! 一部の銀河は初期宇宙において非常に急速に成長していた

2024年08月07日 | 銀河・銀河団
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙の夜明けに存在する古い銀河の並外れた姿を明らかにし、初期宇宙の理解に革命をもたらしました。

これらの銀河の中でも、輝かしい光度と驚くべき大きさを持つ“JADES-GS-z14-0”は、宇宙の進化の初期段階における銀河形成に関する私たちの理解に挑戦しています。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測から、これまでに特定された最も初期(遠方)の銀河の一つから放出されている光が、星形成からの継続的なバーストによるものであることを発見しています。

研究チームは赤方偏移の測定を行うことで、この光が銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールによるものではなく、ビッグバンから数百万年後に形成された若い星からの放射であることを確認。

これまでのモデルでは、初期宇宙の銀河は小さく、時間の経過とともに合体を繰り返すことで大きく成長していくと考えられていました。
でも、“JADES-GS-z14‐0”のような大きな銀河の存在は、少なくとも一部の銀河が初期宇宙において非常に急速に成長したことを示唆していて、これまでのモデルに疑問を投げかけているようです。
この研究は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡から受け取ったデータと画像を研究している天文学者と天体物理学者の国際チームが進めています。
本研究の詳細は、イギリスの科学雑誌“Nature”とプレプリントサーバーarXivに“A shining cosmic dawn: spectroscopic confirmation of two luminous galaxies at z ∼ 14”として掲載されました。Nature (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-07860-9  On arXiv: DOI: 10.48550/arxiv.2405.18485
図1.近赤外線分光装置“NIRSpec”で得られた“JADES-GS-z14‐0”のスペクトル。中央のパネルには1次元スペクトル(黒)と関連する1σの不確かさ(水色が表示されている。下図はS/N比の2次元スペクトルを表示したもので、約1.8μm付近のブレーク全体のコントラストを強調している。上段のはめ込み画像は近赤外線カメラ“NIRCam”によるJADES観測データの切り抜き。(Credit: arXiv (2024). DOI: 10.48550/arxiv.2405.18485)
図1.近赤外線分光装置“NIRSpec”で得られた“JADES-GS-z14‐0”のスペクトル。中央のパネルには1次元スペクトル(黒)と関連する1σの不確かさ(水色が表示されている。下図はS/N比の2次元スペクトルを表示したもので、約1.8μm付近のブレーク全体のコントラストを強調している。上段のはめ込み画像は近赤外線カメラ“NIRCam”によるJADES観測データの切り抜き。(Credit: arXiv (2024). DOI: 10.48550/arxiv.2405.18485)


ビッグバンから数億年後の宇宙を観測する

宇宙の始まりを見つめ、その進化の過程を明らかにすることを目的とした、他に類を見ない高性能な望遠鏡が“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”です。

2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測に特化した望遠鏡。
これは、初期銀河のようなビッグバンから数億年後に誕生したと予測される銀河を観測するには、赤外線での観測が必須となるからです。

初期銀河からの光は非常に暗い上に、宇宙の膨張により遠方からの光ほど赤方偏移(※1)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
この赤外線を観測することで、宇宙誕生から間もない時代に存在した遠方銀河の光をとらえることができます。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、このようにはるか遠方に位置する暗い天体でも観測を行うことができるんですねー
重力レンズ効果を用いて観測を行えば、さらに遠方の天体を観測することもできます。


最も遠い距離にありながら非常に明るい銀河候補

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測プログラムの一つに“先進的深宇宙探査(JADES; JWST Advanced Deep Extragalactic Survey)”があります。
これは、宇宙進化の初期段階における銀河を詳細に観測するために計画された大規模な観測プログラムで、非常に遠方にあると思われる銀河が複数見つかっています。

JADESにおいて、ハッブル宇宙望遠鏡とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”による初期観測データから、z > 14という強い赤方偏移を持つ可能性のある銀河候補が複数発見されました。
これらの銀河候補は、その光が宇宙膨張の影響を受けて強く赤方偏移していることから、宇宙誕生から間もない時代に存在していたと考えられています。

特に、“JADES-GS-z14‐0”は、観測史上最も遠い距離にありながら非常に明るい銀河候補なので、宇宙における銀河の形成過程に見直しを迫る天体と言えます。(2番目に遠い銀河候補は“JADES-GS-z14-1”)

ただ、赤方偏移の強い銀河であるように見えても、実際にはもっと近い距離にある天体を誤認している可能性もあります。
距離が正しいかどうかは、赤方偏移以外の性質を詳細に調べる必要があり、大幅に間違った推定をしていたことが、その作業の過程で発覚した天体もありました。

また、その驚異的な光度は、中心に活動銀河核が存在している可能性もありました。
活動銀河核は、銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールに周囲の物質が落ち込むことで、莫大なエネルギーを放出して輝く天体。
その明るさは星形成活動のみに起因する明るさを、はるかに凌駕する場合があります。


銀河の赤方偏移を正確に決定する

今回の研究では、“JADES-GS-z14‐0”の性質を明らかにするため、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光装置“NIRSpec”を使用。
“JADES-GS-z14‐0”のスペクトル(光の波長ごとの強度)を取得しています。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、その元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所“吸収線”が、スペクトルに現れることになります。
スペクトルに現れた吸収線の波長を調べることで、元素の種類を直接特定することができる訳です。

“JADES-GS-z14‐0”のスペクトルには、ライトマンブレークと呼ばれる吸収線が、赤方偏移z=14.32の位置に明確な特徴として現れていました。
ライトマンブレークは、銀河内にある高温の若い星から放出された紫外線が、中性水素ガスによって吸収されることで生じるスペクトルの落ち込み。
銀河の赤方偏移を正確に決定するために用いられます。

この手法により、“JADES-GS-z14‐0”は観測史上最も初期(遠方)に銀河の一つとなり、ビッグバンからわずか3億年後の宇宙に存在していたことが明らかになりました。

“JADES-GS-z14‐0”の分光データからは、その明るさと大きさだけが明らかになったわけではありません。
そのスペクトルを詳しく分析した結果、銀河の星形成率、ダスト含有量、酸素などの重元素の存在量など、興味深い特性が明らかになりました。
これらの発見は、初期宇宙における銀河形成と進化に関する貴重な洞察を提供してくれています。


初期宇宙の銀河における星形成史

“NIRSpec”から得られた“JADES-GS-z14‐0”のスペクトルは、初期宇宙の銀河の複雑さを理解するための情報の宝庫であり、その星形成史やダスト含有量、化学組成に関する手掛かりを提供してくれます。
これらを調べることで、初期の銀河がどのように形成され進化したのかを、より深く理解することができます。

“JADES-GS-z14‐0”の最も注目すべき特徴の一つに輝線の欠如がありました。
輝線は、銀河内のガスが恒星からの紫外線によって電離され、特定の波長で光を放射することで生じます。
このため、銀河のガス含有量、星形成率、化学組成を研究するための貴重なツールとなります。

でも、“JADES-GS-z14‐0”のスペクトルには、輝線が検出されなかったんですねー
このことが示唆しているのは、この銀河が星からの強い放射を経験していないか、あるいは電離放射の大部分が銀河から逃げ出してしまっていることです。

輝線の欠如は、“JADES-GS-z14‐0”における星形成史について、興味深い疑問を投げかけることになります。
一般的に輝線の欠如は、星形成が比較的短期間で集中的に起こったことを示唆することになります。
そう、この銀河の星形成史は、宇宙時間の経過とともに星形成率が徐々に増加していくという、これまでのモデルとは異なる可能性があるということです。

さらに、“JADES-GS-z14‐0”のスペクトルと測光データからは、この銀河には質量と比較してダストと酸素が豊富に存在することが明らかになりました。
ダストと酸素は、恒星の内部で合成され、その寿命の最期に超新星爆発などによって放出され恒星間物質となります。
初期宇宙では、これらの元素はまだ十分に生成されていなかったと考えられているので、“JADES-GS-z14‐0”におけるこれらの元素の存在量の多さは驚くべきことでした。


初期宇宙において一部の銀河は非常に急速に成長していた

“JADES-GS-z14‐0”のスペクトル特性に加えて、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“NIRCam”は、この銀河の形態に関する重要な洞察も提供してくれています。

それは、この銀河が約260パーセクという、初期宇宙に存在する銀河としては驚くほど大きなサイズを持っていることでした。
初期宇宙における銀河形成の過程を解明するためにも、“JADES-GS-z14‐0”の形態を理解することは非常に重要なことと言えます。

これまでのモデルでは、初期宇宙の銀河は小さく、時間の経過とともに合体を繰り返すことで大きく成長していくと考えられていました。
でも、“JADES-GS-z14‐0”のような大きな銀河の存在は、少なくとも一部の銀河が初期宇宙において非常に急速に成長したことを示唆していて、これまでのモデルに疑問を投げかけています。

“JADES-GS-z14‐0”の大きなサイズは、その星形成史にも影響を与えている可能性があります。
それは、銀河のサイズが大きくなると、星形成の材料となるガスやチリがより広範囲に分布することになるからです。

“JADES-GS-z14‐0”の発見は、初期宇宙における銀河形成に関する私たちの理解に、挑戦状を突き付けるものです。

これまでのモデルでは、初期宇宙にある銀河のサイズや質量は小さく、星形成活動も比較的穏やかだったと考えられてきました。
でも、“JADES-GS-z14‐0”はこれらの想定を覆し、初期宇宙の銀河が予想よりもはるかに多様で複雑だった可能性を示唆しています。

“JADES-GS-z14‐0”は、その明るさと大きさから、初期宇宙の銀河としては非常に稀な存在だと言えます。
では、このような銀河はどのように形成されたのでしょうか?
このことを理解することは、銀河形成の初期段階を理解する上で非常に重要となります。

今後のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測は、“JADES-GS-14-0”のような銀河が初期宇宙において普遍的に存在するのか、それとも特殊な環境で形成された例外的な天体なのかを明らかにしてくれるはずです。
これらの観測結果により、銀河形成の標準的なモデルを改良し、初期宇宙における銀河の進化に関する、より完全な全体像の解明が期待されます。

革新的な能力を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって、これまで隠されていた宇宙の歴史の章が明らかにされつつあります。
宇宙の進化については多くの謎が存在していますが、今後の観測で明らかになるのは何になるのでしょうか。


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