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主星の近くを公転する巨大ガス惑星“ホットジュピター”は孤独ではなかった! すべての惑星系の形成過程を書き換えることになるかも

2023年08月21日 | 系外惑星
太陽以外の恒星を公転する惑星として、観測史上初めて発見された惑星のタイプは“ホットジュピタ-”でした。
ホットジュピターは、木星ほどの質量を持つガス惑星が、主星の恒星から近い軌道(わずか0.015~0.5au程度:1天文単位auは太陽~地球間の平均距離)を、高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体。主星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれる。系外惑星の発見初期に多く見つかっていた。
太陽系のガス惑星(木星や土星)は、地球よりも太陽から遠く離れているので表面温度が高温になることはありません。

でも、ホットジュピターは木星ほどの質量を持つガス惑星が、恒星から近い軌道を高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体。
表面温度が1000℃以上に加熱されていることも珍しくありません。

灼熱の木星型惑星という名前の通り、極端な高温に晒されているホットジュピタ-の環境は相当極端だと考えられています。

これまでに発見されている太陽系外惑星の多くを占めるホットジュピターですが、これまで同じ惑星系に他の惑星は存在しないと考えられてきました。

それは、ホットジュピターの形成過程において他の惑星の軌道が変化し、恒星に落下したり恒星の重力を振り切って離脱してしまうからです。

でも、今回の研究で示されたのは、ホットジュピターが存在する惑星系の12%には、別の惑星も存在する可能性があること。
この研究成果は、ホットジュピターを含む全ての惑星の形成過程を考える上で影響を与える可能性があるようです。
この研究は、安徽師範大学のDong-Hong Wuさんたちの研究チームが進めています。
図1.“ペガスス座51番星b”のイメージ図。世界で初めて見つかった恒星の周囲を回る惑星は、太陽系しか知らなかった私たちには常識外れだったので、大きな衝撃を与えた。(Credit: NASA / JPL-Caltech)
図1.“ペガスス座51番星b”のイメージ図。世界で初めて見つかった恒星の周囲を回る惑星は、太陽系しか知らなかった私たちには常識外れだったので、大きな衝撃を与えた。(Credit: NASA / JPL-Caltech)

主星の近くを公転する巨大ガス惑星

太陽以外の恒星の周りで惑星が初めて見つかったのは1995年のこと。
最初のケースになった“ペガスス座51番星b”の発見は、天文学者を驚かせたんですねー

それは、木星と比べて少し小ぶりな巨大ガス惑星が、太陽とほぼ同じ大きさの恒星をたった4.2日周期で公転していたからでした。
太陽系で最も太陽に近い惑星“水星”でも公転周期は88日です。
木星のような巨大ガス惑星は、水星よりもずっと遠い軌道を数十年から数百年かけて公転しています。
このことを考えると、“ペガスス座51番星b”は主星に対して異常に近いことになり、太陽系しか知らなかった私たちにとって常識はずれな惑星系でした。

当初は“ペガスス座51番星b”の存在自体が疑われたのですが、その発見を皮切りに似たような惑星が続々と見つかるようになったんですねー

このことで、このタイプの惑星の存在は疑いようのない事実として受け止められるようになり、“灼熱の木星型惑星”を意味するホットジュピターという呼び名が与えられるようになりました。

ホットジュピターの形成過程

ただ、最初の発見から30年近くを経た現在でも、ホットジュピターの形成過程は不明のままです。

観測体制の構築が進んだことで、ホットジュピターよりも少しだけ遠くを公転する“ウォームジュピター(ここでは公転周期が10日~300日のホットジュピター)”と呼ばれるサブタイプの惑星も数多く見つかるようになりました。
また、太陽系と同程度か、さらに遠くを公転する巨大ガス惑星も発見されています。

それにもかかわらず、ホットジュピターが大量に見つかっているという事実が示しているのは、宇宙ではホットジュピターが形成されること自体が珍しくないということです。
ホットジュピターが大量に見つかっているのは、そのような惑星が見つけやすいという観測バイアスもある。ただし絶対数が多いことは、バイアスを考慮してもなお存在が珍しくないことを示している。
これまでの惑星形成論では、巨大ガス惑星は恒星から遠く離れた場所で誕生する っと一般的に考えられていました。

それは、巨大ガス惑星の素になるガスは、誕生したばかりの恒星の放射によって惑星系の外側へと押しやられていくからです。
これにより恒星の近くでは、ガスをまとう前にガスそのものが消えてしまうわけです。
一方、恒星から遠く離れた場所では十分な時間があると考えられます。

そのような外側で誕生した惑星が恒星のかなり近くまで移動するには、途中で彗星のような細長い(離心率の大きい)楕円軌道に移行するプロセスが必要だという説が有力です。
離心率は軌道の形を示す数値のこと。真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなる。たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離には約4万kmの差がある。地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれている。
シミュレーションの結果、このような軌道はやがて潮汐力の作用によって小さな円形の軌道へ自然に移行することが示されています。

形成された場所から恒星の近くへ移動するまでの間、巨大ガス惑星が過渡的に周回することになると考えられているこの楕円軌道は、他の惑星との重力的な相互作用によって発生すると考えるのが最も自然です。

さらに、巨大ガス惑星の公転軌道が楕円軌道に変化し、さらに小さな円形の軌道に変化する過程では、別の惑星の近くを通過することになります。

すると、巨大ガス惑星の接近によって他の惑星の軌道も変化することに…
惑星は恒星に落下したり、恒星の重力を振り切って離脱してしまったりする確率が上がることになります。

結果として、ホットジュピターは同じ惑星系に他の惑星が存在しない“孤独”な惑星であるという説が有力でした。

ホットジュピターを含む複数の惑星が存在する惑星系

今回、研究チームが発表したのは、ホットジュピター形成過程の有力説に疑問を投げかける研究結果でした。

その背景には、ホットジュピターを含む複数の惑星が存在する“WASP-47”や“ケプラー730”といった惑星系が、近年になって続々と発見されていることがあります。

こうした惑星系の存在は、ホットジュピター形成過程の有力説にある軌道変化では説明できず…
少なくともホットジュピターの一部は、別の方法で形成された可能性を示唆していました。

ホットジュピターの新しい形成方法としては、「ホットジュピターは最初から恒星にかなり近い場所で直接形成され、公転軌道はほぼ変化しなかった」とするプロセスが提案されています。

これなら複数の惑星が存在することを説明できます。
でも、今度は「それほど恒星に近い場所で、どうすれば巨大ガス惑星が形成されるのか?」っという大きな謎がでてきます。

この謎を解くには、恒星の近くで形成されたホットジュピターが、どの程度の割合を占めるのかを知る必要があります。

そこで、今回の研究で用いたのは、“TTV(Transit Timing Variations)”と呼ばれる手法でした。
NASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”のデータから、ホットジュピターのトランジットタイミングを検出。
そこから、ホットジュピターが存在する惑星系に、どの程度の割合で他の惑星が存在するのかを調べています。

“ケプラー”は地球から見て惑星が恒星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探ります。

トランジットのタイミングは惑星の公転周期に従っているので、通常は一定になるはずです。

でも、ホットジュピターの近くに他の惑星が存在する場合には、その重力の影響でホットジュピターの公転速度がわずかに変化するので、恒星の手前を通過するタイミングが変化するんですねー

このトランジットのタイミングの差分をもとに惑星の存在を調べるのが、TTVと呼ばれる手法です。
ただ、タイミングに生じる変化は極めてわずかなもの… 他のノイズと紛れやすいので検出は困難になります。
図2.今回の研究で導き出された、ホットジュピターの近くに他の惑星がある確率。公転周期が1日~3日のホットジュピターでも約3割は、近くに他の惑星が存在することになる。(Credit: Wu, Rice & Wang)
図2.今回の研究で導き出された、ホットジュピターの近くに他の惑星がある確率。公転周期が1日~3日のホットジュピターでも約3割は、近くに他の惑星が存在することになる。(Credit: Wu, Rice & Wang)

ホットジュピターは“孤独”な存在ではない

研究では、4年分の膨大なデータを分析し、“ケプラー”のデータからTTVを検出することに成功。
以前に行われた同様の研究ではTTVの検出に失敗していたので、TTVの検出成功そのものが大きな一つの成果になりました。

このデータを元に分析を行ったところ、ホットジュピターの12±6%、ウォームジュピターの70±16%は、重力の影響を受けるほどの近くに他の惑星が存在する可能性が高いことが分かりました。

特に公転周期が1日~3日のホットジュピターに限れば、そのうちの約3割(29.1±29.1%)が他の惑星とともに存在するという結果になっています。
これは、ホットジュピターが“孤独”な存在だとするこれまでの観測結果に大きく異を唱える結果でした。

今回の研究では、例えばお互いの惑星の軌道面の角度が揃っているのかどうかといったデータが不足しているので、これ以上深く考察することはできていません。

とはいえ、これまでのホットジュピターのイメージを書き換えるには十分な成果といえます。

もし、巨大ガス惑星が恒星の近くで誕生する可能性は低くないとすれば、それはこれまでの惑星形成論に重大な欠陥があることを意味します。

もしかすると、太陽系のように内惑星が小さくて、外惑星が大きい惑星系は、宇宙では少数派なのかもしれません。

今回の研究は、ホットジュピターだけでなく、太陽系を含めたすべての惑星系の形成過程を書き換えることにつながるのかもしれません。


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