2015年のこと、NASAの探査機“ニューホライズンズ”による観測で、冥王星の表面に巨大なハート型の構造が発見されましました。
この“ハート”は、その独特な形状、地質学的組成、標高の謎から、科学者たちの関心を集めることに。
特に、その西側を占める涙滴型の領域“スプートニク平原”の起源は、大きな謎に包まれていました。
今回の研究では、この謎を解明するために、数値シミュレーションを用いた研究を実施。
角度と速度が比較的低い衝突が、スプートニク平原のような非対称な地形を形成することを確認したそうです。
冥王星の初期に起こった巨大天体との衝突
今回の研究では、スプートニク平原が、冥王星の初期に起こったと考えられる、巨大天体との衝突によって形成された可能性が高いことを明らかにしています。
衝突した天体の大きさは、直径約640キロと推定されていて、これはアリゾナ州の南北の距離とほぼ同じ大きさです。
この衝突は、冥王星の初期の歴史における、非常に劇的な変化をもたらすイベントだったと考えられています。
白く輝くハートも型の地形“トンボ―領域”
“トンボ―領域”とも呼ばれるこのハートも型の地形は、その白く輝く姿が人々の目を引き付けました。
この白い色が示していたのは、周囲よりも多くの光を反射する物質、すなわち高いアルベド(反射率)を持つ物質で覆われていることでした。
でも、このハート型の領域は、単一の物質で構成されている訳ではありません。
スプートニク平原は、約1900キロ×3200キロの広大な領域を占めていて、これはヨーロッパまたはアメリカの約4分の1に相当しています。
そして、この領域は、冥王星の表面の大部分よりも、約4キロも標高が低いという特徴を持っていました。
研究チームの調査により明らかになっているのは、冥王星の表面の大部分が、水の氷の地殻を覆うメタンの氷と、その派生物で構成されていること。
これに対し、スプートニク平原は、主に窒素の氷で満たされています。
この窒素の氷は、衝突後に標高の低いスプートニク平原に急速に蓄積したものと考えられています。
ハート形の東側も、薄い窒素の氷の相で覆われていて、その起源は完全には解明されていません。
でも、スプートニク平原と関連している可能性が高いことが指摘されています。
斜めの角度からの衝突で生まれた非対称な地形
スプートニク平原は、単に円形に窪んでいるのではなく、涙滴型のような独特の細長い形状をしていて、赤道付近に位置しています。
これられの特徴から分かるのは、冥王星に衝突した天体が、正面衝突ではなく、斜めの角度から衝突したことを強く示唆していることです。
今回の研究では、“Smoothed Particle Hydrodynaicsシミュレーションソフトウェア”を用いて、様々な条件下における衝突を再現。
このシミュレーションでは、冥王星と衝突天体の組成、衝突天体の速度と角度を変化させ、衝突がスプートニク平原の形成にどのような影響を与えるのかを検証しています。
その結果、斜めの角度からの衝突が、実際にスプートニク平原のような非対称な地形を形成することを確認。
さらに、シミュレーションから、衝突天体の組成についても特定することができました。
左右対称な形状には低速な衝突も必要だった
シミュレーションから得られた、もう一つの重要な発見もあります。
それは、衝突天体の核が、冥王星の核に沈み込むことなく“splat”として残った可能性が高いということでした。
これは、冥王星の核が非常に冷たく、衝突による熱にもかかわらず岩石の硬さを保っていたためだと考えられています。
また、衝突の角度と速度が比較的低かったことも、核が“splat”として残った要因として挙げられます。
もし、衝突天体の核が冥王星の核に沈み込んでしまっていたら、スプートニク平原は、現在のような涙滴型ではなく、左右対称な円形に近い形状になっていたと考えられます。
このことから、衝突の速度が比較的低かったことが、スプートニク平原の形成において重要な役割を果たしたことが分かりました。
冥王星の地下に海は存在するのか?
冥王星の内部構造についても、研究チームは新たな疑問を投げかけています。
シミュレーションの結果から、スプートニク平原を形成したような巨大衝突は、冥王星の比較的最近の時期に起こったというよりも、その歴史の非常に早い段階で起こった可能性の方が、はるかに高いことが示唆されています。
ただ、このことは新たな謎を生み出すことになりました。
スプートニク平原のような巨大な窪地は、周囲よりも質量が小さいので、時間の経過とともに冥王星の極に向かってゆっくりと移動すると予想されるからです。
でも、スプートニク平原は、現在も赤道付近に位置していて、極への移動は確認されていません。
この謎については、冥王星の地下に液体の水の海“地下海”が存在するという仮説が、これまで提唱されていました。
この仮説では、地下海の存在によってスプートニク平原の地殻が薄くなり、地下海が上向きに膨らむことで質量分布が変化。
これにより、スプートニク平原が赤道付近に留まっていると説明しています。
このことについて、今回の研究では地下海の存在を必要としない、新しい仮説が提示されています。
シミュレーションの結果からは、衝突天体の核を構成する物質が冥王星の核に“splat”することで、局所的な質量の過剰が生じことが示唆れました。
これにより、スプートニク平原を赤道付近に留めている可能性があります。
この新しい仮説は、冥王星の地下に海が存在しない、あるいは非常に薄い海しか存在しない可能性を示唆していて、今後の冥王星研究に大きな影響を与える可能性があります。
冥王星の“ハート”の謎は、まだ完全には解明されていません。
スプートニク平原の移動速度を推定することで、地下海の有無や冥王星の進化の過程に関する更なる情報を得ることが期待されます。
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この“ハート”は、その独特な形状、地質学的組成、標高の謎から、科学者たちの関心を集めることに。
特に、その西側を占める涙滴型の領域“スプートニク平原”の起源は、大きな謎に包まれていました。
今回の研究では、この謎を解明するために、数値シミュレーションを用いた研究を実施。
角度と速度が比較的低い衝突が、スプートニク平原のような非対称な地形を形成することを確認したそうです。
この研究は、スイスのベルン大学とアリゾナ大学の研究チームが進めています。
本研究の成果は、英科学誌“Nature”系の天文学術誌“Nature Astronomy”に掲載されました。
本研究の成果は、英科学誌“Nature”系の天文学術誌“Nature Astronomy”に掲載されました。
図1.冥王星への巨大でゆっくりとした衝突が、表面にハート形の構造をもたらした。(Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger) |
冥王星の初期に起こった巨大天体との衝突
今回の研究では、スプートニク平原が、冥王星の初期に起こったと考えられる、巨大天体との衝突によって形成された可能性が高いことを明らかにしています。
衝突した天体の大きさは、直径約640キロと推定されていて、これはアリゾナ州の南北の距離とほぼ同じ大きさです。
この衝突は、冥王星の初期の歴史における、非常に劇的な変化をもたらすイベントだったと考えられています。
白く輝くハートも型の地形“トンボ―領域”
“トンボ―領域”とも呼ばれるこのハートも型の地形は、その白く輝く姿が人々の目を引き付けました。
この白い色が示していたのは、周囲よりも多くの光を反射する物質、すなわち高いアルベド(反射率)を持つ物質で覆われていることでした。
でも、このハート型の領域は、単一の物質で構成されている訳ではありません。
スプートニク平原は、約1900キロ×3200キロの広大な領域を占めていて、これはヨーロッパまたはアメリカの約4分の1に相当しています。
そして、この領域は、冥王星の表面の大部分よりも、約4キロも標高が低いという特徴を持っていました。
研究チームの調査により明らかになっているのは、冥王星の表面の大部分が、水の氷の地殻を覆うメタンの氷と、その派生物で構成されていること。
これに対し、スプートニク平原は、主に窒素の氷で満たされています。
この窒素の氷は、衝突後に標高の低いスプートニク平原に急速に蓄積したものと考えられています。
ハート形の東側も、薄い窒素の氷の相で覆われていて、その起源は完全には解明されていません。
でも、スプートニク平原と関連している可能性が高いことが指摘されています。
斜めの角度からの衝突で生まれた非対称な地形
スプートニク平原は、単に円形に窪んでいるのではなく、涙滴型のような独特の細長い形状をしていて、赤道付近に位置しています。
これられの特徴から分かるのは、冥王星に衝突した天体が、正面衝突ではなく、斜めの角度から衝突したことを強く示唆していることです。
今回の研究では、“Smoothed Particle Hydrodynaicsシミュレーションソフトウェア”を用いて、様々な条件下における衝突を再現。
このシミュレーションでは、冥王星と衝突天体の組成、衝突天体の速度と角度を変化させ、衝突がスプートニク平原の形成にどのような影響を与えるのかを検証しています。
その結果、斜めの角度からの衝突が、実際にスプートニク平原のような非対称な地形を形成することを確認。
さらに、シミュレーションから、衝突天体の組成についても特定することができました。
左右対称な形状には低速な衝突も必要だった
シミュレーションから得られた、もう一つの重要な発見もあります。
それは、衝突天体の核が、冥王星の核に沈み込むことなく“splat”として残った可能性が高いということでした。
これは、冥王星の核が非常に冷たく、衝突による熱にもかかわらず岩石の硬さを保っていたためだと考えられています。
また、衝突の角度と速度が比較的低かったことも、核が“splat”として残った要因として挙げられます。
もし、衝突天体の核が冥王星の核に沈み込んでしまっていたら、スプートニク平原は、現在のような涙滴型ではなく、左右対称な円形に近い形状になっていたと考えられます。
このことから、衝突の速度が比較的低かったことが、スプートニク平原の形成において重要な役割を果たしたことが分かりました。
冥王星の地下に海は存在するのか?
冥王星の内部構造についても、研究チームは新たな疑問を投げかけています。
シミュレーションの結果から、スプートニク平原を形成したような巨大衝突は、冥王星の比較的最近の時期に起こったというよりも、その歴史の非常に早い段階で起こった可能性の方が、はるかに高いことが示唆されています。
ただ、このことは新たな謎を生み出すことになりました。
スプートニク平原のような巨大な窪地は、周囲よりも質量が小さいので、時間の経過とともに冥王星の極に向かってゆっくりと移動すると予想されるからです。
でも、スプートニク平原は、現在も赤道付近に位置していて、極への移動は確認されていません。
この謎については、冥王星の地下に液体の水の海“地下海”が存在するという仮説が、これまで提唱されていました。
この仮説では、地下海の存在によってスプートニク平原の地殻が薄くなり、地下海が上向きに膨らむことで質量分布が変化。
これにより、スプートニク平原が赤道付近に留まっていると説明しています。
このことについて、今回の研究では地下海の存在を必要としない、新しい仮説が提示されています。
シミュレーションの結果からは、衝突天体の核を構成する物質が冥王星の核に“splat”することで、局所的な質量の過剰が生じことが示唆れました。
これにより、スプートニク平原を赤道付近に留めている可能性があります。
この新しい仮説は、冥王星の地下に海が存在しない、あるいは非常に薄い海しか存在しない可能性を示唆していて、今後の冥王星研究に大きな影響を与える可能性があります。
冥王星の“ハート”の謎は、まだ完全には解明されていません。
スプートニク平原の移動速度を推定することで、地下海の有無や冥王星の進化の過程に関する更なる情報を得ることが期待されます。
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