(写真は、昨年の地震前の、ハイチの首都ポルトープランスの風景…らしい)
「レスタヴェック」は フランス語とクレオール語 1)の
混合語で「住み込み」といった意味だが、実際には、住み込み先の主人の意のままに
される子どものことである。彼らは奴隷のように重労働を強いられ、一切の権利を
認められず、不平を言うことすら許されない。
国連によると ハイチには、子どもの奴隷が推定30万人いる(ユニセフは20万人弱と推定)。
親が子どもを引き渡すのは、
子どもにましな暮らしをさせたいと思うか、
口減らしをしたいケースがほとんどだ。
「レスタヴェック」は皿洗いや子守りなど あらゆる雑用をやらされ、
日は数回は公共の水源から重い水を汲んでこなければならない。
学校には行かせてもらえず、ひどい暴力をふるわれ、
女児が大半であることから性的虐待の被害者も多い。
************
1948年12月10日、国連総会は世界人権宣言を採択した。
それから60年たった今なお、多くの国が人権宣言の基本を無視している。
ハイチでは、多くの子どもたちが首都ポルトープランスのスラム街に売られ、
あるいは ただで引き渡され、
あるいは捨てられて、
奴隷の境遇に追い込まれている。
************
カリブ海の島国といえば 憧れる人もいるだろう。
しかしハイチの現実は地獄だ。
世界初の黒人による共和制独立国だが、最貧困国のひとつでもあり、
国民の60%が1日1ドル以下で暮らしている。
政治・経済と行政の中心、ポルトープランスも、境界なき巨大貧民街というのが実態だ。
貧困、暴力、ギャング、治安の悪さ、絶望感、
これらがハイチの社会を蝕(むしば)み、人間性を奪っていく。
その影響を真っ先に受けるのが子どもだ。
病気や飢餓(きが)だけではない。想像を絶する子どもの奴隷「レスタヴェック」。
奴隷貿易禁止法が イギリスで制定されて 200年以上たつ今も、
ハイチでは奴隷制が続いている。
極貧の地方の子どもは、
せめて ましな暮らしをさせたいと思う親によって 都会の家庭に託されるが、
多くは虐待(ぎゃくたい)される運命だ。
************
・・・(支援団体「ARDTER」を主宰する)ギャスパールとボランティアたちは
スラム街を歩き回り、「レスタヴェック」を探す。
「水汲み場の近くで 声をかけることが多いです。
水をかついでいて 身なりがみずぼらしいのは ほとんどが そうだから」
と スタッフのマキシムが言う。
彼らは慎重に状況を聞き取り、できるだけ詳細に書きとめる。
「ARDTER」の事務所には その書類が大量にあるが、この子たちを守る足しにもならない。
少なくとも子どもたちの存在の証を残せるから 続けているのだ。
************
13歳の少女カティアナは、
10歳でギャング団の家に引き渡されて以来、
暴力、拷問(ごうもん)、集団レイプ、家事労働、その連続だった。
彼女の咳は病的で、結核やエイズなどの感染症ではないかと疑われる。
早くジェスキオ医療センターへ連れていかなければ。
ポルトープランス最大にして最悪のスラム街サリーヌに隣接するこの医療センターは、
性感染症をすべて無料で治療してくれる。
性暴力の被害者を専門に扱う部門もあり、とくに被害者の話を聞くことに力を入れている。
このセンターの教師で精神医療の心得(こころえ)もあるダニエルに、
カティアナは初めて苦しさを吐露(とろ)した。
ギャングの家で陰惨(いんさん)な数年を過ごし、物事に動じなくなったこの少女は
冷ややかに話す。
************
「女の子は ものすごく性暴力を受けやすいの。
若い男は たいてい『レスタヴェック』相手に 初体験するのよ。
そういう女の子をラプーサと呼ぶの。
アレのためにいる子っていう意味。
そう聞いても 誰も驚かない。
この町じゃ、悲しいけど、
その子たちを守ろうなんて大人は、悲しいけど、
誰もいないわ」
(DAYS JAPAN,vol.6, No.2, 2009 FEBより抜粋)
************
【注】
1)クレオール語:ヨーロッパ言語とその他の現地語などの混合により、できた言語。
<前の記事>
・『奴隷(どれい)』
<あとの記事>
・映画『アメイジング・グレイス』
「レスタヴェック」は フランス語とクレオール語 1)の
混合語で「住み込み」といった意味だが、実際には、住み込み先の主人の意のままに
される子どものことである。彼らは奴隷のように重労働を強いられ、一切の権利を
認められず、不平を言うことすら許されない。
国連によると ハイチには、子どもの奴隷が推定30万人いる(ユニセフは20万人弱と推定)。
親が子どもを引き渡すのは、
子どもにましな暮らしをさせたいと思うか、
口減らしをしたいケースがほとんどだ。
「レスタヴェック」は皿洗いや子守りなど あらゆる雑用をやらされ、
日は数回は公共の水源から重い水を汲んでこなければならない。
学校には行かせてもらえず、ひどい暴力をふるわれ、
女児が大半であることから性的虐待の被害者も多い。
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1948年12月10日、国連総会は世界人権宣言を採択した。
それから60年たった今なお、多くの国が人権宣言の基本を無視している。
ハイチでは、多くの子どもたちが首都ポルトープランスのスラム街に売られ、
あるいは ただで引き渡され、
あるいは捨てられて、
奴隷の境遇に追い込まれている。
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カリブ海の島国といえば 憧れる人もいるだろう。
しかしハイチの現実は地獄だ。
世界初の黒人による共和制独立国だが、最貧困国のひとつでもあり、
国民の60%が1日1ドル以下で暮らしている。
政治・経済と行政の中心、ポルトープランスも、境界なき巨大貧民街というのが実態だ。
貧困、暴力、ギャング、治安の悪さ、絶望感、
これらがハイチの社会を蝕(むしば)み、人間性を奪っていく。
その影響を真っ先に受けるのが子どもだ。
病気や飢餓(きが)だけではない。想像を絶する子どもの奴隷「レスタヴェック」。
奴隷貿易禁止法が イギリスで制定されて 200年以上たつ今も、
ハイチでは奴隷制が続いている。
極貧の地方の子どもは、
せめて ましな暮らしをさせたいと思う親によって 都会の家庭に託されるが、
多くは虐待(ぎゃくたい)される運命だ。
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・・・(支援団体「ARDTER」を主宰する)ギャスパールとボランティアたちは
スラム街を歩き回り、「レスタヴェック」を探す。
「水汲み場の近くで 声をかけることが多いです。
水をかついでいて 身なりがみずぼらしいのは ほとんどが そうだから」
と スタッフのマキシムが言う。
彼らは慎重に状況を聞き取り、できるだけ詳細に書きとめる。
「ARDTER」の事務所には その書類が大量にあるが、この子たちを守る足しにもならない。
少なくとも子どもたちの存在の証を残せるから 続けているのだ。
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13歳の少女カティアナは、
10歳でギャング団の家に引き渡されて以来、
暴力、拷問(ごうもん)、集団レイプ、家事労働、その連続だった。
彼女の咳は病的で、結核やエイズなどの感染症ではないかと疑われる。
早くジェスキオ医療センターへ連れていかなければ。
ポルトープランス最大にして最悪のスラム街サリーヌに隣接するこの医療センターは、
性感染症をすべて無料で治療してくれる。
性暴力の被害者を専門に扱う部門もあり、とくに被害者の話を聞くことに力を入れている。
このセンターの教師で精神医療の心得(こころえ)もあるダニエルに、
カティアナは初めて苦しさを吐露(とろ)した。
ギャングの家で陰惨(いんさん)な数年を過ごし、物事に動じなくなったこの少女は
冷ややかに話す。
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「女の子は ものすごく性暴力を受けやすいの。
若い男は たいてい『レスタヴェック』相手に 初体験するのよ。
そういう女の子をラプーサと呼ぶの。
アレのためにいる子っていう意味。
そう聞いても 誰も驚かない。
この町じゃ、悲しいけど、
その子たちを守ろうなんて大人は、悲しいけど、
誰もいないわ」
(DAYS JAPAN,vol.6, No.2, 2009 FEBより抜粋)
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【注】
1)クレオール語:ヨーロッパ言語とその他の現地語などの混合により、できた言語。
<前の記事>
・『奴隷(どれい)』
<あとの記事>
・映画『アメイジング・グレイス』