"1ドル87セント。"(O·ヘンリー「賢者の贈り物」)
"(東方の博士たちは)
母マリヤとともにおられる幼子(おさなご)を見、ひれ伏して拝(おが)んだ。
そして、宝(たから)の箱をあけて、
黄金(おうごん)、乳香(にゅうこう)、没薬(もつやく)を
贈り物としてささげた。"
(新約聖書·マタイの福音書2:11-12)
それは、昨日のことだった。
今話題の、ワクチン接種バイトを終えたキャベツは、帰る道すがら、美味しいと評判のお菓子屋さんに寄った。
(一日、子どもたちを見てもらっていたから、お礼に買っていこう)
子どもたちは平日は保育園だが、土曜日等は余程理由がないと預けられない。それゆえ、昨日は一日、相方トマトに子どもたちの世話を頼んだ。
お昼ごはんまで準備してから出てきたが、目が離せない、元気な2歳児と、風邪気味の生後6ヶ月児たちが相手だ。さぞかし疲れたことだろう。
(一日バイトした分のうち、一時間分のお金くらいなら、奮発してもいいよね?)
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接種バイトをし始めた当初の目的は、「人が足りない」という話が聞こえたことと、自分自身のワクチン接種を早めに行うためだった。とはいえ、一応、バイト代は入る。
バイト代は、(一例として)市町村からイベント業者が落札し、さらに医療関係の派遣会社が介在しているため、現場に従事するスタッフには1/3程度。
(…せめて、1社あたりのマージン率が30%強から、近隣と同様29%前後だったらなぁ…)
とはいえ、今日は臨時収入が入ったのだ。そして、相方トマトは、疲れているに違いない。
(よし、mil○○のケーキでも持っていって…。)
だが、お店の前にようやくたどり着いたとき、そこにあったのは、無情にも、「本日、完売しました」という小さな黒板だった。
…………しょんぼりへにょん、だよ(byマイン)。
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仕方がないので、キャベツは、さらに戻りつつ、近場の、だが、普段立ち寄らないスーパーに入った。
(さすがに、これから、ご飯をお鍋で炊いたり、おかずを作るにも時間がない。ケーキを買えなかったことだし、普段は買えないお惣菜でも買っていこう)
すると、そこに、「浜名湖産うなぎ重」なるお弁当があった。それも、夕方セールで20%引き。
(これなら、トマトも喜ぶに違いない!)
普段なら買わないであろうそれを一つと、他の品を何点か抱(かか)え、キャベツは店を出た。時は午後6時半。
あと15分程で戻ります、と伝えた電話の向こうからは、きゃっきゃきゃっきゃと賑やかなミニキャベツとキャベツ姫の声が聞こえてきた。
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帰宅したとき、おかえり、と出迎えてくれたトマトの腕の中には、ふっくらぷにぷにのキャベツ姫がいた。
(姫~~~~!)
子どもたちの世話をして、疲れたであろうトマトを労(ねぎら)い、お弁当があることを伝えようとしたそのとき、トマトから、思いもよらない言葉が聞こえてきた。
「お疲れ様。
カレーを作って、待っていたよ!」
(な、なんですと…………!!?)
トマトは、キャベツの内心の動揺も知らず、にこにこと教えてくれた。
「多分、疲れて帰ってくるだろうから…と思って。それに、旦那さんが、ご飯を作っちゃいけない、なんてことはないはずだしね。 我ながら、美味しくできたと思うよ!」