高杉良さんの『燃ゆるとき』を読みました。
久しぶりに読む経済小説ですが、なかなか痛快な話でした。
主人公は、東洋水産の創業者である森和夫氏(1916-2011)。
東洋水産といわれてもピンとこないかもしれませんが、マルチャンブランドで「赤いきつねと緑のたぬき」を製造している会社だといえば、だれでも知っているでしょう。
日本の食品業界を代表する大企業ですが、「横須賀水産」として発足した当初は、たった五人の零細企業でした。それが、30年で、売上高1千億円、従業員1800人で、海外にも展開する大企業となったのです。
そのサクセスストーリーは、まるで戦国時代の毛利元就のようです。
当初は一介の国人領主に過ぎなかった毛利が、大国の庇護下から独立し、大大名に育っていくという……
すごいのは、森和夫氏が徹底的に正攻法でいくというところです。
毛利元就というと卑怯な策を使うイメージもありますが(元就ファンは怒るかもしれませんが)、この森和夫氏の場合は、卑怯な手は使わないんですね。
たとえば、まだ中小企業だった頃、東洋水産は、系列の親玉である商事会社から不当な扱いを受けるのですが、それに対して森さんは、相手の横柄な態度に屈することなく敢然と立ちあがります。そんな不当な扱いを受ける筋合いはないから辞表を出して社長を辞める、というのです。
すると、相手の側はころりと態度を変えます。こいつに出て行かれては大変だというので、それまでの態度が嘘のように、引き止めにかかってくるのです。かっこいいですね。
やがてその商事会社の系列からも離れて独立を果たし、業界最大手のライバル会社とも衝突し、法廷闘争に発展しますが、ここでも森さんは正面から戦います。自分の側に理があるという確信のもとに、堂々と渡り合い、事実上の勝利をおさめるのです。
このように筋の通った経営者であればこそ、バブルの時代にも、財テクには手を出しませんでした。
また、勲章も拒否することを宣言していたそうです。
こういう、曲がったことはやらない、不当な圧力には屈しない、という気骨のある経営者は、残念ながらそうそういないでしょう。
もしこういう人がたくさんいれば、最近相次いで明らかになった企業不祥事も起こらずにすんでいたんじゃないかと思えます。