瀬戸内の夕日
本州と四国を結ぶ本州四国連絡橋には、東から「神戸・鳴門ルート」
「児島・坂出ルート」それに「尾道・今治ルート」がある。
それぞれに素晴らしい景観を楽しめるが、「尾道・今治ルート」には、
世界一の斜張橋・多々羅大橋が架かっている。
この多々羅大橋のたもと、大三島ICを下りてすぐに、
道の駅となっている今治市多々羅しまなみ公園がある。
ここに瀬戸内海を望むように鐘楼が建ち、それを通して瀬戸内の夕日を望む。
(2017年11月撮影)
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少々くたびれたこの靴とは、もう5年付き合っている。
紺色の布、ゴム底、2000円ほどだったろう。
2015年6月、前立腺がん治療のため入院した際、院内履きとして購入したものだ。
以来、今度の膀胱がん再々発まで4度付き合ってくれている。
5月28日午前11時、入院のための受付を済ませ、
病室へ行くのに迷うことなく行き着ける。2人部屋だった。
持ってきた荷物を所定の場に置くと、もうすることはない。
手持ち無沙汰の時を過ごす。
わずか一夜だけの端麗な姿、その命の儚さゆえに人の目を、
心を惹きつける花がある。
月下美人はその代表みたいなものだが、同じように一夜だけという短命な花が、
奄美大島以南の南西諸島に6月末頃から真夏にかけ
マングローブが生い茂る川沿いの湿地に咲く。
サガリバナである。
白や淡紅色の四枚の花弁はいかにも優雅で、それらが夜8時頃から
垂れ下がった細長い枝に横向きに咲き始め、夜中には満開となる。
この時バニラのような甘い香りを放ち、虫たちを誘って受粉する。
するともう寿命は尽きる。明け方には舞い落ち、
マングローブが茂る川面にポチャンと小さな音を立て、その命を終えるのである。
まさに〝一夜だけ咲く幻の花〟であり、月下美人同様にその生涯は何とも儚い。
石垣島からさらに西へフェリーで1時間弱の西表島。
両岸からマングローブが覆いかぶさるように繁っている川を
カヌーで上流へと遡っていく。
右に左に蛇行しながらも漕ぎ続けると、やがて空が白み始め、
マングローブの林を縫ってさす薄い木漏れ日が
水面をうっすらと照らすようになってきた。
その時を見計らったように白や淡いピンクのサガリバナが
上空から次々と舞い落ちる。
そして、それらの花々がかすかな水の流れに最後の命を漂わせる。
その儚さを一カ所に拾い集めて水面を柔らかく埋めていくと、
そこにまた、新たな息吹が吹き込まれたかのようにも見える。
わが身に照らせば、78年の歳月を生きてきた。
残された命はそう長くはなかろうが、あとどれほどの時か。
明日は手術台の上だ。懸命に生きる。