高層ホテルの目覚め
都市景観100選に選ばれている福岡市のシーサイドももち地区に、
「ヒルトン福岡シーホーク」はにょきっと建っている。
地上35階、客室1053室、博多湾を望むアーバンリゾートホテルだ。
ここには写っていないが、隣接して福岡ソフトバンクホークスの
本拠地・福岡PayPayドームがあり、福岡市のランドマークとなっている。
(5月31日早朝、入院中の病院から窓越しに撮影)
別角度から見ると
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「腐れ縁」という。僕にも、そう言えるような人が1人だけいた。
年齢は17歳上、親子というほどではないが、年の離れた兄といったところか。
社員が20人足らずの小さな会社のオーナー社長だった。
対して、こちらは人を介して転職してきた38歳の一社員。
少々失礼な言い方ながら、2人はまさに「腐れ縁」、そんな関係だったと思う。
この社長は創業者によくあるように「朝令暮改」ならぬ、
「朝令朝改」が当たり前みたいな人だった。
一方で「朝令朝改」した後、ご本人が「俺って、なんでこうなんだろう」と
ぼやくこともしばしばで、「やはり先ほどの決定を元に戻すのか」と思いきや、
それでもそれを押し通してしまう頑固さがあった。
そんなオーナー社長のところへ現れたのが、
40手前の、えらく理屈っぽい男だったのだ。
両極みたいな性格の2人、分かりやすく言えば「感覚・感情」と「理屈」の
2人とあっては、ソリが合うはずもなく何かにつけ対立し、
言い争いは日常茶飯事のことだった。
オーナー社長にすれば、「理屈ばかり言いやがって、俺の言うことに従わない、
小憎らしい奴だ」と映っただろうし、
社員は社員で「もう少し物事を整理して考えてほしい。
思い付きみたいなことを言われたのではたまったものではない。
それで、ちょっと反論すれば、
すぐにかっとなって怒鳴りつけるばかりの親爺」と思えた。
社員の立場であれば、オーナーに盾突いたのでは、いつクビを言い渡されるか、
内心そんな思いは常時のことであり、精神的な負担は相当に重かった。
「いっそ、こんな会社辞めてやろうか」と思ったことも一度や二度ではない。
だが、何人もの社員のクビを平気で切ったこの社長は、
それほど反抗するその社員に対しては、「お前はもうクビだ」とは
一度たりと言わなかった。
また、その社員も自ら「辞めます」とは言い出さなかった。
言い争いを続けながらもである。
そうこうしながら、2人とも年を取っていった。
オーナーは古希を迎える年になり、社員は50を過ぎた。
2人とも年相応に丸くなったわけではない。言い争いは続いた。
ただ、2人で食事をしながらプライベートな話をするようになり、
そんなこんなで相手が何を考え、言おうとしているのか、
8割方は理解できるようになってきた。
それが年のせいだったのかもしれない。
詰まるところ、2人とも「この会社を成長させるには、どうすればよいか」
との思いは同じであり、そのことを互いに理解し合えるようになっていたのだ。
だから、言い争いながらも、その中には笑いさえ混じるようになった。
やがて、オーナーはがんに倒れ、闘病生活は8カ月に及んだ。
その間、その社員は懸命に会社を守った。
ついにオーナーは力尽き、跡を継いだのは長男だった。
役目は変わった。今度は新社長の補佐役となった。
そして、「本当に腐れ縁でしたね。でも、こんな男を最後まで
よく使ってくれました。恩にきますよ。息子さん、力の限り支えます」
そうつぶやくのである。