
滋賀県日野町に「近江日野商人館」というものがある。
ここには、横田めぐみさんが北朝鮮から帰ってくるのを
じっと待ちわびる6体のひな人形が飾られている。
もともとは、めぐみさんの母・早紀江さんの京都の実家にあったものだという。
仕舞われていた納屋を解体した際見つかったそうで、
作業に携わった男性が、早紀江さんからもらい受け、
さらにそれを同館に寄贈したのだという。
それを早紀江さんの了解を得て、同館が「待ちわび雛」と名付けたそうだ。
毎年、ひな祭りの季節になると一般に公開する。
京都新聞がこんな話を紹介していた。
父・滋さんは43年も待ちわびた。
だが、再び我が娘を抱くことはなかった。抱きしめることも出来ぬまま
6月5日、亡くなってしまった。
87歳。心よりご冥福をお祈りしたい。
滋さんは妻・早紀江さんと共に、家族を非道にも北朝鮮に拉致され、
帰国を願い続ける人たちを代表する存在だった。
そんな願いを背に負い、胸に秘め全国各地を飛び回り、
その講演は1400回を超えた。
また、誠実な人柄、実直な言動。
これが共感を呼び、多くの人が滋さんのとつとつとした語り口に耳を傾けた。

どれほど待ちわびたことであろう。
制服姿のめぐみさんの写真を見るたびに、我が娘たちに思いがいく。
当時13歳だっためぐみさんは、今はもう55歳だ。
私の2人の娘たちと大して違わない年代だ。だから余計に、
「もし、自分の娘がそうであったらどうであろう」という思いにさせられる。
切なくて、切なくて……他人であっても胸張り裂ける思いになる。
同じ拉致被害者の蓮池薫・裕木子さん夫妻は、
「悲しみと悔しさを抑えることができません。
あまりに当然な親子の再会を最後まで阻んできた北朝鮮当局への憤りを
静めることができません」とのコメントを寄せている。
“あまりに当然な親子の再会” を阻んだ国・人たちを許せるはずもない。

政府が認定する拉致被害者は全部で17人。
このうち帰国できたのは蓮池夫妻をはじめ、わずか5人だ。
なお、めぐみさんはじめ12人の人たちが手の届かない所にいる。
「待ちわび雛」は、いつまで遠い、かの国を見つめていなければならないのか。
「横田滋さんの死を無駄にしてはならない」
──すべての国民の切なる願いに違いない。