名も知らぬ小さな池
広島県庄原市に神話と野の花に彩られた標高1238㍍の吾妻山がある。
比婆連山の入り口になっており、比婆道後帝釈国定公園内に建つ
休暇村吾妻山ロッジからは中国山地の山並みを一望し、
登山、ハイキングの基地ともなっている。
そのロッジの裏手には、小さな池が点在しており、
さまざまな姿を見せる。 (2017年11月撮影)
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血管がなぜか細い。
それで、採血だとか、点滴だとかしなければならない時、
看護師さんたちは決まって困った顔をする。
腕のあちこちをパンパンと叩き、「血管よ、浮き出てこい」とやるのだが、
針を刺せる適当な場所がなかなか見つからない。
「もう、意地悪なんだから」色っぽく言われたりして、
思わずニヤッとすることもしばしばだ。
また、ついには手の甲の血管に針を刺し誤り、大慌てした看護師さんが、
先輩看護師さんを呼びに走ったりと、ひと騒ぎさせることもある。
まあ、何とか収まりはしたが、しばらくすると、
手の甲がグロテスクにどす黒く腫れ上がっていき、
つい「下手くそ」と心中罵ってしまったり……。
何度も採血や点滴はやっているから、ここの血管なら
大丈夫だということは分かっている。
それで、こちらから「いつも、ここからだけどね」と言ってあげる。
そして、一滴も漏らすことなくできた看護師さんには、
「さすが、うまい!」と添えることにしている。
「意地悪な血管」に対する多少の詫びの印しだ。
先日、入院した際、手術前の点滴の時もやはり、
「さてと、どこがいいかな」看護師さんが、腕のあちこちを探った。
「血管が細いそうだからね。すまんね」と詫びると、
「人それぞれですからね。でも、それをクリアするのがプロです」
頼もしい根性を見せながら、
「ちょっと右手をぐーっと握り締めてくれませんか」と続けた。
言われるまま、右手に力を入れると、
「おおっ、すごい」一瞬何に驚いたのか分からなかったが、
「前腕部の筋肉がむきっと盛り上がる。おまけに堅いですね」と言うのだ。
「ええっ」と今度はこちらが驚いてしまった。
「何か、スポーツされていたんですか」
「ああ、中学から大学まで10年ぐらい器械体操やってたよ」
「あのクルクル回るやつ?」
「そうそう、鉄棒や床運動ね」
「テレビで見ると選手は皆筋肉モリモリですよね。それでなのか。○○さんも。
ついでに腕をぐいと曲げてみせてください」
図に乗って右腕に力を入れ曲げると
「おー、見事な力こぶ。立派、立派」と言ってくれた。
悲しいほどげっそりと落ちてしまった筋肉を嘆く日々であったが、
この若い看護師さんは、しょぼくれた爺さんをおだてる術を心得ておられる。
気分が悪かろうはずはなく、勇気をもらったような気さえした。
「それでは、少しチカっとしますよ」言いながら、
右手首付近の浮き出た血管に針を刺した。
「うまい」と言えば、ニコリと笑顔を返してきた。