あれは今でもよく覚えているが、2003年7月19日の出来事だ。
17年も前のことになる。
このマンションから直線距離にして300㍍ほどの近くを御笠川が流れている。
太宰府市にある宝満山を源流にし、太宰府から大野城市、
さらに福岡市へと辿って博多湾に注ぐ全長20㌔ほどの2級河川である。
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その川が前日からの豪雨により、不意を打つように明け方氾濫したのだ。
堤防道路を越えた濁流がたちまち周辺一帯を水浸しにし、
このマンションもそれから逃れることが出来なかった。
床上10㌢ほどの浸水だったから、命を脅かされるほどではなかったが、
それでも床はもちろん床下まで泥が流れ込んでいた。
改修を頼んだ大工さんは、「壁もだめですな。乾かせばそのまま使える、
というわけにはいきませんよ。どんなに乾かしたつもりでも、
湿気は残り、やがて壁を傷めることになります」
となれば、全面改修せざるを得ない。
「悔しいなあ。どんな悪い事をしたというの。
なんでこんな目に合わなきゃいけないの」
妻は我が家のそんな惨状にぽろぽろと涙を流した。
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湿気を取り除くため、もう初夏の候なのにストーブを焚くなど、
大わらわの日々を送った。駐車場に停めていたマイカーも半分ほど水に浸かり、
結局廃車しなければならなかった。
工事が完了したのはほぼ1カ月後。
その間、同じマンション上階に、夫婦二人で暮らしている方の家に厄介になった。
寝食を共にする、まさに家族同然の生活に送らせてもらったのである。
この地方も11日梅雨入りした。雨のシーズンだ。
雨の強弱にかかわらず、降ればトラウマのようにあの日の事を思い出す。
後に考えれば、その後全国で毎年のように起きている
水害被害は、当家の床上浸水をあざ笑うほどけた違いの大きさだが、
それでも恐怖心が起きるのは変わりない。
少し強い雨が降れば、川の各所に設けられている
監視カメラをPCでチェックし、川の水量に気を配る。
昨年も橋げたすれすれまで水かさが上がり、
「こりゃ、避難しなければならないかも……」と半ば覚悟したこともあった。
幸い、それ以上増水することなく、降雨の弱まりと共に
水かさもみるみる下がっていった。
そんな季節が今年もやってきたのだ。
国や市もその対策をいろいろと講じているから、
以前ほどの危険性は減っているかもしれない。
現実に、今、格好のウォーキングコースとなって
優し気な表情で迎え入れてくれている。
だが、絶対に気を許してはいけない。
自然の力は、しばしば人間の知恵をあざ笑い、牙をむくことがある。