亡き空手師範に

八月だというのに雨ばかりで梅雨のようです。
深夜、雨音を聴いていたら、師範のことを思い出しました。

あなたが御病気を隠されて、理由も告げずに道場を解散されたとき、
解散式の当日は雨が降っていましたね。
ある方が空を見上げて、「五月雨ですね」と語りかけたとき、
「これは、オレの悔し涙だ」と口にされたのを覚えております。

あれから数年して、師範は突然他界されましたね。
医師でもあるあなたは、ご自身の命を知っていたのでしょうか？

私を初めて空手の世界に引っ張り込んで下さったのは、師範でした。
私は「見学」を希望して、あなたの道場を訪問しただけでした。
その日あなたは、既に私の名札を用意され、稽古が終わるや、
その名札を壁の右端に掛けると、道場生の皆さんに、
私を新しい入門者として紹介されるので、迷う暇もありませんでした。

今思えば、私にしかるべき時にしかるべき場所を与えて下さったように
思い返されます。私は師範を回顧する程の立場でも間柄でもありませんが、
どうしてか、今宵、あなたのことが偲ばれるのです。

私も人から「在りし日」を懐かしく回顧される人間になりたいものです。
こんなブログに私勝手に師範のことを記してしまって、僭越至極です。
今夜だけ、ご無礼をどうかお許しください。
この世で出会えた偶然に感謝しております。