俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

分離・独立

2016-06-27 14:47:48 | Weblog
 アメリカの南北戦争の原語はThe Civil Warだ。civilは「国内の」という意味であり同時にcivilizationの語源でもある。だからThe Civil Warは単に南部と北部の対立ではなく南部11州の「アメリカ連合国」による独立戦争だった。この内戦を舞台にした「風と共に去りぬ(`Gone With the Wind')」は南部の白人の貴族文化が消え去ったことをテーマとしておりそれがタイトルにもなっている。
 現代であれば内戦という手段ではなく議論を通じて民主的に解決すべきであり最終的には住民投票で決着されるべきだろう。しかしそれは可能だろうか?多分南部11州では圧倒的多数で独立が可決されると予想されるから「合衆国」側は住民投票の実施を絶対に認めないだろう。民主的に決めることも武力に訴えることもできないのであればどうすることもできずに現状が維持されることになる。全体最適のために部分最適が葬られることは今も昔も変わらぬ多数者による横暴だ。
 分離・独立の賛否を問う住民投票の要求が表面化するのは、何らかの事情から独立の気運が高まっている地域に限られる。スコットランドは例外だが、住民投票が実施されれば殆んどにおいて独立派が勝つだろう。だから分離・独立が問われる住民投票が実現することは殆んど無い。今回イギリスで実施されたのはキャメロン首相の思い上がりと読み間違いという大失敗に基づいており、今後、分離・独立を求める住民投票が実施されることは、イギリスが大失敗をしたことが教訓となって、一層難しくなってしまった。
 今回の結果を受けてスコットランドでは「連合王国」からの離脱とEUへの単独での加盟が求められている。イギリスでは政治的に大混乱に陥ることが予想されているだけに、これが近い将来実施され得る唯一の住民投票なのではないだろうか。
 様々な歴史的背景があって分離・独立を求める地域は少なくない。スペインのカタルーニャ地方、ロシアのチェチェン共和国、トルコ等に広く居住するクルド人、カナダのケベック州、フィリピンのミンダナオ島など多数あるが、最大の火種は中国にある。ウィグル、チベット、内モンゴルだけではなく香港の問題も拡大しつつある。狭い香港だが英国による統治に慣れ親しんだ住民の権利意識は高く、単に火種では収まらずに中国全土を破壊する巨大な爆発物にさえなりかねない。
 中国は政治や経済や領土などで多くの国際問題を抱えているが内政としての分離・独立問題も喫緊の課題だ。こんな中国が民主化すれば忽ち空中分解しかねないだけにこれらの課題を乗り切るために一層強権化せざるを得ないだろう。全く危ない国だ。何もかもが綱渡りの状態の中国が崩壊しないのは奇跡としか思えない。中国が抱える諸問題と比べれば世界中のどの問題も些細とさえ思える。中国は現代社会の危機の縮図であり国際的大災害の震源地かつ最大の被災地となりかねない。