俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

病の顛末

2016-06-29 09:57:05 | Weblog
 私の食道癌の病歴は以下のとおり推移した。
 ①2月初めに吐血した。年末に3度嘔吐していたがその内自然治癒するだろうと甘くみて放置していたが吐血は流石に怖い。近所の医院で胃カメラによる検査を受けたところ食道に複数の腫瘍が見つかった。
 ②その後、腫瘍が拡大して胃への入り口を塞いだために固形物が食べられなくなり液体食に頼る生活が始まった。
 ③更に検査したところ、転移は無いが肺と動脈に対する浸潤が進んでいるために手術や放射線治療を行えばそれらと食道を隔てる壁に穴が開く恐れがあると指摘された。
 ④癌の縮小を狙って2度入院して抗癌剤による治療を受けたが効果は無く副作用だけが残った。
 ⑤万に1つの可能性に賭けて放射線治療を受けた。癌細胞が小さくなったために少量の飲食が可能になったが肺と食道を隔てる細胞が破壊されたらしく肺炎の症状が現れたために放射線治療は無期限中断となった。
 ⑥肺炎の治療のために入院したが高熱はたった2日で治まったために4日間で入院を打ち切った。
 ⑦自宅療養を始めたが時折嘔吐をするようになった。
 ⑧一昨日(27日)、胃カメラを飲んで検査をしたところ内科医は翌日に放射線科を受診するよう命じた。私はてっきり放射線治療が再開されるのだと思ったが、全く意外なことに、翌日、放射線科医は放射線治療の拒絶とステントの装着を提案した。
 ⑨肺炎が治まったことも嘔吐が再発したことも、一旦小さくなっていた癌細胞が再び大きくなったことが原因と診断された。最早治療は不可能だからステントを装着することによって食道を拡張することが唯一可能な医療だと言われた。
 ステントによる癌細胞の押さえ込みは治療ではない。飲食を継続するための延命策だ。チェルノブイリ原発が手付かずのままコンクリートで覆われているのと同じように、治療を諦めて癌細胞を覆ってしまうことによりQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を確保することだけが目的だ。これでは引導を渡されたようなものだ。ステントで押さえ込んでも癌細胞は増殖を続けるからいずれ近い将来に癌の悪化によって死ぬ。
 私としては抗癌剤と放射線によってそれなりの抵抗を続けたつもりだが最早これまでだろう。感情的には食道と肺の間に開いた穴を塞いでいるのが正常細胞ではなく癌細胞であるという根拠を示せとゴネたいところだが、食道の癌細胞が再拡大をしているという現実を見れば、癌細胞と考えるのが妥当だろう。それに、再拡大しつつある癌細胞を破壊しようとすれば、仮にそれが正常細胞であれ癌細胞であれ、放射線による破壊を免れ得ない。どちらであろうとも同じことだ。
 あとどれだけ生きられるか分からないが、ステントの装着以外に延命策さえ無いようだ。これが現代医学の限界なら無いものねだりをしても仕方がない。思惑とは違って、退職後の自由時間は随分短いものになってしまったようだ。