今日も元気で頑張るニャン

家族になった保護猫たちの日常を綴りながら、ノラ猫たちとの共存を模索するブログです。

シリーズ「ノラと家猫と」 その3 ノラへの道(前編)

2018年06月20日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その2より続く;
※本記事の写真はいずれも脱走前のものです。

キーが翌日の朝に帰還したことで、保護者夫婦は希望的観測に沸いていた。ひと月前は24時間後に帰還したクウ、今回はこれから未知の長さになるが、大丈夫だという予感に溢れていた。その日も店とテンちゃんを妻にまかせ、自分は"ドア開けお迎え作戦"に備えた。ただ、クウの所在はキーのように確認できてない。そこでまず、クウの呼び水として保護部屋のトイレ砂を4分割し、家の4隅に置いた。そしてクウの好きなレトルトを網に入れて2ヶ所に吊るした。あとはキーとちび太、呼び込み屋の2匹に期待する。

その日の午後、夕方近くなって見回りをしていると、5,6軒奥のお宅の門の前で灰白くんに会った。灰白くんはじっとこちらを見つめ、近づくと同じ距離を保ちながら離れていく。その動きを見て、ああ、昨夜の路上の猫は灰白くんだったんだ、と確信した。灰白くんはクウより太く顔も大きいがよく似ている。決定的な違いはクウの左前足の内側にある小さな模様だが、それを見極めるのは簡単ではない。

クウの所在はわからなくても、いると信じて待つ。クウはキーのようにリビング側から来る方法を知らないから、結局ひと月前と同じように勝手口の外を頻繁に確認するしかなかった。そして灰白くん白黄くんを追い払う。朝と晩はご飯をあげて、それ以外は追い払う。そんな不可解な行動に2匹は戸惑ったのだろう。灰白くんの声がまた大きくなり、白黄くんとの唸り合いも増えてきた。

あるとき、庭散歩(リード付)のニャーを家裏に連れていくと、灰白、白黄くんが蜘蛛の子を散らすように逃げていくことがわかった。ニャーは2匹のいなくなった家裏を執拗にチェックし、自分の臭いを擦り付けた、そして何とスプレーまでした。ニャーのスプレーはそのとき初めて見た。ニャーがいなくなってしばらくすると、2匹は何もなかったように戻って来る。

               
              中から灰白・白黄くんを見つめるクウ

その日の晩はドア開けを勝手口だけとし、自分と妻はリビングで待機した。灰白白黄くんは何故か姿を見せなかった。夜が明ける直前の時刻、リビングでうたた寝をしながら勝手口に目をやると、誰かが覗き込んでいた。クウだ! 緊張が走る。クウは時間をかけて覗き込んでいたが、やがてするりと入って来た。よし、よしよし! 祈る気持ちで見ていると、廊下から保護部屋への扉が閉まっていた。ありゃッ・・・トイレに行った際に閉めちゃったか・・。しかしクウはそのままリビングまでやって来た。ためらいもなくピアノの上に乗って確認して、それから自分の直ぐ横を通って廊下に消えた。ただ、ピアノに上り下りしたときの感じがクウにしては重いような・・。

いずれにしても、その時の対処は簡単だった。まず勝手口の扉を閉めて、電気をつけて、妻を起こして、クウが中にいることを確認して和室(保護部屋)の襖を閉めた。途端に中で大騒ぎが。暴れに暴れて、少し襖を開けて覗くともう滅茶苦茶になっていた。と、断末魔のような叫び声。その声は、クウではなく灰白くんの声だった。

玄関から外を回って和室の網戸越しに確認した。間違いなく灰白くんだ。夜明け前の静寂にそのバカでかい声が響き渡る。とりあえず雨戸を閉め、さてどうしたものかと話し合った。灰白くんは騒々しいので近隣迷惑を考えて早めに保護したいノラ。しかしさすがに今は時期尚早でタイミングも悪く思えた。人の気配が動けば暴れまくる灰白くんを見れば、もう少し馴れてからと思う。それにこの騒動で、クウがますます寄って来なくなるかもしれない。

その一方で考えた。甘え鳴きも得意な灰白くんはどう見ても被保護経験があると思え、大人しくなるのも早いかもしれない。それに自分の目的がノラの保護であるのなら、ニャンコはみな平等、結果的にクウが灰白くんに代わっただけじゃないか。クウにこだわるのは私情ではないのか。近隣の人たちは、クウじゃなくて灰白くんの保護を望んでいるのだ。

かつて「不条理を生きる」という記事の中で、人間社会に蔓延する不条理、人間の心に潜む不条理について、ノラの子の目線で書きました。確かに保護対象が変わっても猫は猫。灰白くんとクウを差別することは不条理だ。家の中でも触ることすらできなかったクウ。キーがちび太と仲良くなって、ひとり浮いていた感じだったクウ。家中に興味のありそうな灰白くんに対して、クウこそノラにふさわしいんじゃないのか・・。

いやいや、自分は知っている。少しづつ人間に興味を持ち始め、所在が見える時間が多くなった。クウの心は開きかけていたのだ。第一ここで見放されてクウは生きていけるのか。どうしてもクウの将来を案じてしまう自分だった。偉そうなことを言っても、結局自分の心にも不条理が潜んでいたのでした。

               
            テーブルの下からちょっかいを出してくるクウ

夫婦は決断しました。外から回って雨戸を開けて、部屋の中から網戸を開けた。不安で気が動転していた灰白くんは、あっという間に白み始めた外の闇へと消えていった。

その日も自分が"ドア開け作戦"に備えた。灰白くんは朝になるといつもと同じようにやって来て、白黄くんと喧嘩した。多めの朝夕ごはんを2匹にあげた後は、水をかけたり小石を投げたりして家裏から追い払った。でも、人の動きを見透かしたように少ししか離れない。ニャーを出すと効果があるが、こんなことでいたずらにニャーを興奮させるのは、ニャーの精神衛生上悪影響を与えかねないので止めた。

その夜もドア開け作戦でリビングに待機したが、結局何もなかった。ある家出猫探しのお助けサイトによると、脱走猫が帰ってくる確率はかなり高いが、その70%は1日以内に帰って来たそうだ。つまり2日経つと帰って来る可能性がぐっと低くなる。クウはもう3日目だが、諦めるわけにはいかない。少なくとも1週間はドア開けお迎え作戦を続けよう、そう心に決めた。

次の日も同じように過ごした。灰白くんと白黄くんの喧嘩声がかなり大きくなっていたことが気になった。日も暮れた頃、勝手口から外を覗くと猫がいた。それは、クウにも見えたし灰白くんのようにも見えた。このところ何度か見間違えたのでまじまじと見つめていると、その猫はさっと暗闇に消え去った。

左前足の模様こそ確認できなかったものの、あの顔の細さ、大きな耳と目、黙ってこっちを見つめる目つきと瞳の大きさ、そして迷いのない俊敏な動き・・・。クウだと思った。疑心暗鬼ではあるが、クウさえ確認できれば100人力だ。早速中の猫たちを閉じ込めてドア開け作戦を開始した。灰白くんと白黄くんは、その時はいなかった。勝手口を開けてリビングで待機していると、玄関のチャイムが鳴った。

               
                 リビングでも落ち着いてきた

玄関から出ると、門の外にBさんご夫妻がいた。その奥様の悲痛な表情が、全てを物語っていたのでした。

その3 「ノラへの道(後編)」に続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17

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