信仰の危機と言えば、普通宗教を奉じる信者、例えばクリスチャンが厳しい試練に遭ったり、教えや教会史について深刻な矛盾を感じたり、疑問を持ったりして、これまで持っていた信仰を離れようとする転機のことを指す。しかし、ある宗教で問題が生じて、その宗派のかなりの人数の会員が信仰を離れる事象を指すこともある。
最近、というか近年、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教会)に関連して、信仰の危機が生じているという話題がインターネット上で交わされている。大手の通信社やニューヨークタイムズも取り上げている。一つは、教会幹部(七十人)であったマーリン・K・ジェンセン長老が2011年ユタ州立大学で、末日聖徒イエス・キリスト教会の会員が大勢離れていることを認め、十二使徒と大管長会の15名はそのことを認識し、心を砕いている、と語ったことである。2012年夏まで教会歴史家でもあった彼は、もうひとつ最近話題になっているスエーデンのハンス・マトソン(Hans H. Mattsson)元地域幹部が数々の疑問に気づいてそのことについて公言した時に、北欧に派遣されて彼及び同様の疑問を抱いて去った会員たちに会っている(2010年)。
そのようなことが起きている主な理由は、教会員がLDS教会の歴史やジョセフ・スミスについて自分でネット上の情報や教会内外の書籍に当たって調べていくうちに、これまで教会内で教えられてきた内容と異なる情報に接して、「ええっ、そうだったのか」「そんなことが・・」と驚嘆し、不信感や幻滅に衝撃を受けることにある。教会では不都合な事柄は敢えて出さず、表向き整理された「物語」が語られてきたのである。教会教育部の教材が最も権威ある資料として配布されてきた。具体的には、ジョセフ・スミスの多妻の実際、モルモン書に時代錯誤の齟齬が数多く見られることなどが疑問を生じさせている。
実は、様々な疑問点や教会史の学術的資料は既に1980年代以降ダイアログ誌やサンストーン誌、BYU紀要、モルモン歴史学会誌などが取り上げていた。シグナチャー出版の書籍も。LDS教会の文書庫にあった歴史資料が徐々に公開され始めて、教会内外の研究者たちの手に入るようになったからである。
このような状況にあって、教会は、また会員個人はどのように対処することができるのだろうか。それは、これまでのような護教的教説を見直して、できるだけ出回っている最新情報と整合性のある説明と差し替えること(これは現在少しづつ、あるいは急遽、聖典の見出し[各書冒頭の説明]の文言変更で進行中)、宗教の真髄的な側面を強調するなどで対応することではないだろうか。教会無謬性を去り、聖典の直解主義から弾力的信仰実践に向かうなどが提案される。現在、自分には関係がないと思う会員も次世代や若い会員が信仰の危機に直面する時、話し相手になり、耳を傾け、できるだけ答えられるように準備する必要があるのではないか。
「思慮深い信仰」モルモンストーリーズの標語
一度疑問を感じた人が同様の仲間と気兼ねなく語り合い、意見を交換できる場(forum)が日本にもフェースブックにできている。LDS聖書研究同好会@グループというもので、会員制、現在40名が登録している。
参考
nytimes.com July 20, 2013 Some Mormons Search the Web and Find Doubt
Mormon Stories Podcast July 22, 2013 Hans Mattsson – Former LDS Area Authority Seventy John Delin 主宰
"Reading as Response, an Introduction Courtesy of BYU Studies." By Common Consent July 23, 2013. John W. Welch responds.
ジェンセン長老のユタ州立大学における発言 2012/07/11 当ブログ「モルモン歴史学会2012年カルガリー年次大会に参加して」
本ブログ 2013/007/07記事「「モルモン教における回顧的方向の補充:福音書における回顧的補充との比較」
[付記]
Welchの文を紹介したJohn F.(長文)は大変時宜を得たものである。その中に次のような文言が入っていて注目した。 I believe it would be extremely effective if the Church issued a statement that it acknowledges that its previous approach to its presentation of its history has ultimately proved problematic in some ways and that it is sorry that people have felt betrayed as a result. I think the Church could clearly express that it never intended to hide information or deceive anyone but that this effect came about in practice in certain circumstances as an unintended consequence of the Correlation policy and its particular implementation that seemed appropriate as the Church rapidly expanded globally. The problem, in fact, was compounded outside the United States where materials in other languages were not available and so Church members really only did have CES/Curriculum Dept. materials as their only resources about our history and doctrines, especially in light of counsel to avoid seeking information in “outside sources.”
教会が従前の教会史に関する提示に問題があったことを認め、人々が裏切られたように感じたことに謝罪する声明を出すのがよいと思う、と個人的見解を述べている。(John F.のこの文はCommon Consent 7/23の記事。)[付記の部分9/2/2013編集]
最近、というか近年、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教会)に関連して、信仰の危機が生じているという話題がインターネット上で交わされている。大手の通信社やニューヨークタイムズも取り上げている。一つは、教会幹部(七十人)であったマーリン・K・ジェンセン長老が2011年ユタ州立大学で、末日聖徒イエス・キリスト教会の会員が大勢離れていることを認め、十二使徒と大管長会の15名はそのことを認識し、心を砕いている、と語ったことである。2012年夏まで教会歴史家でもあった彼は、もうひとつ最近話題になっているスエーデンのハンス・マトソン(Hans H. Mattsson)元地域幹部が数々の疑問に気づいてそのことについて公言した時に、北欧に派遣されて彼及び同様の疑問を抱いて去った会員たちに会っている(2010年)。
そのようなことが起きている主な理由は、教会員がLDS教会の歴史やジョセフ・スミスについて自分でネット上の情報や教会内外の書籍に当たって調べていくうちに、これまで教会内で教えられてきた内容と異なる情報に接して、「ええっ、そうだったのか」「そんなことが・・」と驚嘆し、不信感や幻滅に衝撃を受けることにある。教会では不都合な事柄は敢えて出さず、表向き整理された「物語」が語られてきたのである。教会教育部の教材が最も権威ある資料として配布されてきた。具体的には、ジョセフ・スミスの多妻の実際、モルモン書に時代錯誤の齟齬が数多く見られることなどが疑問を生じさせている。
実は、様々な疑問点や教会史の学術的資料は既に1980年代以降ダイアログ誌やサンストーン誌、BYU紀要、モルモン歴史学会誌などが取り上げていた。シグナチャー出版の書籍も。LDS教会の文書庫にあった歴史資料が徐々に公開され始めて、教会内外の研究者たちの手に入るようになったからである。
このような状況にあって、教会は、また会員個人はどのように対処することができるのだろうか。それは、これまでのような護教的教説を見直して、できるだけ出回っている最新情報と整合性のある説明と差し替えること(これは現在少しづつ、あるいは急遽、聖典の見出し[各書冒頭の説明]の文言変更で進行中)、宗教の真髄的な側面を強調するなどで対応することではないだろうか。教会無謬性を去り、聖典の直解主義から弾力的信仰実践に向かうなどが提案される。現在、自分には関係がないと思う会員も次世代や若い会員が信仰の危機に直面する時、話し相手になり、耳を傾け、できるだけ答えられるように準備する必要があるのではないか。
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一度疑問を感じた人が同様の仲間と気兼ねなく語り合い、意見を交換できる場(forum)が日本にもフェースブックにできている。LDS聖書研究同好会@グループというもので、会員制、現在40名が登録している。
参考
nytimes.com July 20, 2013 Some Mormons Search the Web and Find Doubt
Mormon Stories Podcast July 22, 2013 Hans Mattsson – Former LDS Area Authority Seventy John Delin 主宰
"Reading as Response, an Introduction Courtesy of BYU Studies." By Common Consent July 23, 2013. John W. Welch responds.
ジェンセン長老のユタ州立大学における発言 2012/07/11 当ブログ「モルモン歴史学会2012年カルガリー年次大会に参加して」
本ブログ 2013/007/07記事「「モルモン教における回顧的方向の補充:福音書における回顧的補充との比較」
[付記]
Welchの文を紹介したJohn F.(長文)は大変時宜を得たものである。その中に次のような文言が入っていて注目した。 I believe it would be extremely effective if the Church issued a statement that it acknowledges that its previous approach to its presentation of its history has ultimately proved problematic in some ways and that it is sorry that people have felt betrayed as a result. I think the Church could clearly express that it never intended to hide information or deceive anyone but that this effect came about in practice in certain circumstances as an unintended consequence of the Correlation policy and its particular implementation that seemed appropriate as the Church rapidly expanded globally. The problem, in fact, was compounded outside the United States where materials in other languages were not available and so Church members really only did have CES/Curriculum Dept. materials as their only resources about our history and doctrines, especially in light of counsel to avoid seeking information in “outside sources.”
教会が従前の教会史に関する提示に問題があったことを認め、人々が裏切られたように感じたことに謝罪する声明を出すのがよいと思う、と個人的見解を述べている。(John F.のこの文はCommon Consent 7/23の記事。)[付記の部分9/2/2013編集]
最近得難い、成熟した成人の見解(励まし)をいただきました。ありがとうございます。長所や特長に注目して、建設的な視点を持つ必要を感じていました。
コミュニティとしての魅力、宣教師をこれだけ派遣できる姿(力量)に言及してくださいました。
最後の4行の言葉(信仰の姿 / 改宗者への信頼)、肯定的なメッセージとして有り難く受けとめさせていただきます。
私は日本の教会の知的自立という目で見て、時に苛立ち時にフラストレーションを感じています。
様々な真実が露呈したとしても、LDSにはすばらしい点が多くあります。
単純に真実の教会とか完全な教会とか宣言しても世間が認めるには???です。
歴史的な背景や、教義に疑問があっても、献身的に人々を助ける教会員がいるし、コミュニイティーとして魅力を感じていらっしゃる方も大勢いらっしゃいます。
現在のLDSは、宗教テロを起こすような可能性がない健全な宗教です。
私は、LDSによって助けが必要な日本人が、イエスキリストの愛の助けを受けられるように心から望んでいます。
こんなに大勢の伝道者(宣教師)を派遣できるのは、LDSがダントツだと思います。
私は、教会の教義、指導者、歴史に疑問をもったこともあるし、この指導者は、信用できないと喧嘩をしたこともあるけど、
私の生活は、神様の恵みで豊かにされていると感じるし、神様は祈りに答えて下さると感じます。
教会員に改宗するような方は、教育をきちんと受けている人なので、真実をあきらかにすることが、マイナスに働くことはないと考えています。
まだ多少時間があるので、予防処置を是非講じて欲しいが、何せ、日本から積極的にそのようなすことをする動きが出るとは思えない。僕は微力ながら、日曜学校でちらほらとそのような情報を漏洩させたり、また真実だからという視点ではなく、役に立つから、良いものだからやって行くというようなアプローチを取っているが、微力であることを認める。
教会は、そのような情報で教会を去って行く人たちに深い敬意を示すべきです。また正直に、提供できる情報を提供し、大人の信仰へと人々を導いて欲しい。