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2012年春、ダニエル・ピーターソンは「モルモン学レビュー」誌の編集長の職から解任されていた。ブリガムヤング大学の二ール・A・マックスウェル研究所は、以前のF.A.R.M.S.*を吸収した組織でFARMS同様、lds教会の保守派を代表する研究機関であった。モルモン書や教会の歴史・教義について批判的・否定的論調が現れると、「モルモン学レビュー」誌で護教的反論が展開された。FARMS組織以来そのレビューの編集を23年務めてきたピーターソンが本人の本意に反して解任されたのだった。(ピーターソンはイスラム学の専門家で「中東諸文書事始め」(Middle Eastern Texts Initiatives)の編集長は継続して担当する。)
近年モルモン関連の諸分野で盛んに研究が進められ、学術的な主題として扱われるようになるにつれ、レビュー誌の今後について従来の保守路線を続けていくか、より広く複雑なテーマを扱う道に進むか意見が分かれて、結局現在後者の立場で運営されるに至っている。そしてコロンビアのリチャード・ブッシュマン、リッチモンド大学のテリル・ギヴェンズ、ユタ州立大学のフィリップ・バーロウなどを顧問に招いている。
背景にはユタ州立大学、クレアモント大学などにモルモン学の学科が設けられ(専任教員採用)、ユタ大学を始めこの分野に奨学金を出したり、講義を組んだりするところが増えたこと、そのような環境にあってマックスウェル研究所がその流れについていき、モルモン関連の学術成果(その多様性と相当な分量)に対応・活用できる必要があることがあげられる。
ただ、従来の護教的使命を放棄したわけではなく、今後も信仰を推奨し弁護していく、そのために批判に応えることもある、と研究所のホッジズ広報係は言う。しかし、できるだけ寛容の精神で、意見を異にしても受容できる状況を培っていきたい、と加えている。
[解説] 私はピーターソンがマックスウェル研究所の刊行物編集の地位から解かれたことに驚いたが、Maxwell研究所の水準を維持して権威を保つ目的が第一なのか、超保守を退けたことに教会の微かな変化の兆しを読むべきか、今後の推移を注視したいと思っている。関連して、ウイリアム・J・ハンブリンが保守派グループのFAIR**の出版物に投稿を続けるなら、BYUの学術誌への投稿資格を失う(FAIRが保守的すぎる、レベルが低いと見做されているため?)と警告されたことを、本人の述懐から読んで一連の関連する動きだろうか、と感じたのであった。W.J.ハンブリンは元FARMSの役員で、モルモン書の戦役について著書がある。なお、ピーターソンらは「モルモン聖典の解説ジャーナル」(“Interpreter: A Journal of Mormon Scripture”)を刊行している。
* F.A.R.M.S. = The Foundation for Ancient Research and Mormon Studies (FARMS) 「古代研究とモルモン学基金」(試訳)役に立つlds関連の古い記事や資料を希望者に配布する事業から始まった組織。John Welchが中心に始めた。
**FAIR = The Foundation for Apologetic Information & Research (FAIR) 「擁護的情報・研究基金」(試訳)1997年設立
参考
Split emerges among Mormon scholars, by Peggy Fletcher Stack, The Salt Lake Tribune
本ブログ記事 2007/04/22 FARMSの略史
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