![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/b4/398e34bda101880c31768eda727c5209.jpg)
社会学者ロドニー・スタークが1998年に同名の題で書いた論文を2005
年に校訂したものを紹介する。スタークは新しい宗教運動が存続し
発展していくのに不可欠な10の要素をあげ、末日聖徒イエスキリ
スト教会はそれを満たしている、という。以下、その項目を短い説
明とともにリストアップしてみた。スタークは1984年にモルモン教
徒は2080年には低めに見積もって6千万を越えるであろうと予想した
ことで知られている。(高めの見積もりでは2億6千万人。1984年
当時会員数564万人、2003年1,198万人。スタークと彼の見積もりに
ついては末尾の付記参照。)
1 「新宗教は伝統的な信仰を継承するのでなければ成功の可能性
はない。それが濃厚であればあるほど成功の可能性が高まる。」
モルモニズムは深くキリスト教文化に根ざしている。何か外界か
ら移植された異教などではなく、キリスト教・ユダヤ教の伝統全体
を受け入れた上で、現代の世界観を導入したものである。末日聖徒
は依然聖書を読むことを続け、更にイエスを証しするものとしてモ
ルモン書を権威ある聖典として受け入れている。
2 「新宗教は教義が経験論的に否定される余地がなければないほ
ど成功の可能性がある。」
強調する内容が現実的な事柄でなく、経験論的に試されることが
なければ、それだけ存続の可能性が高まる。モルモンのリベラルは、
モルモン書に牛や馬が登場することに当惑しているが、キリスト教
のリベラルも聖書の創造や洪水物語に同様の懸念を抱いてきた。し
かし、福音派の大多数の信者がそういった問題を意に介しないのと
同様、大部分の末日聖徒も動揺することがない。世の終りが何年に
来る、というような実現しない予言があると上の条件にもとること
になる。
3 「新宗教は厳格な面があって、周囲の世界とある程度の緊張が
あるとき成功する可能性がある。但し、厳格すぎてはならない。」
宗教運動が成功するには一般世間とは異なる文化を持ち、比較的
厳しい道徳水準を課していなければならない。末日聖徒が周囲の世
界と緊張関係にあるというのは、一つは道徳律の面でありもう一つ
は異なった神学を奉じているという側面である。知恵の言葉でアル
コール飲料、コーヒーを飲まないこと、婚前交渉、夫婦外のセック
スが禁じられていることはよく知られている。神学の面では聖書や
伝統的キリスト教から発展、拡張した解釈や教義があって批判、反
発の対象となっている。
4 「指導者の持つ権威が教義上の裏づけを持ち、信徒もその権威
システムに参画していると認識するとき宗教運動は成功する。」
教会の最高指導者はジョセフ・スミス以降、その後継者として
「預言者、聖見者、啓示を受ける者」と受けとめられ権威を付与さ
れている。マックス・ウエーバーのいう「預言者のカリスマに代わ
る職責のもたらすカリスマ」である。このように大管長会、十二使
徒定員会が正統な指導層として教会の物心両面を管理し、教会を指
導している。他方底辺では監督、ステーク会長が会衆の牧会にあた
り、道を外れた者の制裁権を持っている。
注目しなければならないのは、この高度に権威主義的な体制に参
加型民主制が伴っていることである。というのは信じる男性会員は
皆神権を受けて、無報酬で責任を果たすからである。家庭で家族の
信仰生活を指導し(家庭の夕べの司会進行)、会員家族が相互に訪
問し合う制度があり、召された人が監督・支部長の役割を果たす。
権威が広範に委任されていて、ある礼拝をとっても管理、司会、説
教者が平会員で指導の立場にあることはもちろん、聞く会衆の中に
元監督、帰還宣教師、監督の親、将来監督に召されるかもしれない
男性会員がいて、皆がお互いに支持し合うコミュニテイが構成され
ているのである。
5 「宗教運動は、伝道を含めて進んで働く献身的な働き手を産出
できるときに成長する。」
宗教運動は聖職者を支え、組織を運営・維持するために金銭で支
払うこともできるが、ほとんどを奉仕で支えることもできる。言い
換えれば奉仕の働きは資本に置き換わる資産である。
また成長発展するためには布教師を必要とする。他の条件を同一
とすれば、改宗者を求める宣教師が多ければ多いほど、また宣教師
が熱心に働けば働くほど、その宗教運動は急速に成長する。
末日聖徒は末端の宗教活動の全てを自発的な奉仕の働きに依存し
ている。また会員もその期待に応えて奉仕している。しかし、最も
顕著な末日聖徒の働き手(労働力)は伝道に出る多数の若い男女で
ある。’02年現在累計85万人以上が伝道に出ているが、これは他
のどの宗派の追随も許さないものである。さらに専任宣教師の改宗
活動は一般会員の協力に支えられていることと、宣教師は外国での
苦労をへて一段と成熟した人物となって帰還することにも注目しな
ければならない。
(下に続く)
大変興味深く記事を読ませていただきました。
ところで2点ほど気のついた事柄がありますので
コメントさせていただきました。
>モルモンのリベラルは、モルモン書に牛や馬が登場することに当惑しているが
当惑しているのはモルモンのリベラルではないですよ。
リベラルの代表格であるNJさんは当惑されているのですか?
>この高度に権威主義的な体制に参加型民主制が伴っていることである。
>というのは信じる男性会員は皆神権を受けて、無報酬で責任を果たす
>からである。
無報酬で働くことが、参加型民主制ではありません。
その組織の方針決定に、構成員の意思がどれだけ反映されているか
によって民主的かどうかが判断されます。
モルモン教会の場合、末端会員の意思を組織上層部に伝える方法は
存在しません。それは神の啓示によってのみこの教会が導かれ、
人間の意志によってではない、という厳格な教義によります。
もちろん会員の意思を伝える方法が公的に存在しなくとも、
ふとしたことから仲良くなった教会幹部に思うところを述べたら
それが実現したという「裏ルート」の存在は否定しません。
ですが、そうした方法が存在するのであれば、その組織は
もはや民主制ではないのです。
また西側ヨーロッパでも成長は鈍いということもあることから宗教の意味が弱まっている社会でモルモンがどの様に展開されていくのか興味があります。とういうより当事者として自らへの問いでもあります。
日本で?
もったいない話ですね。
>西側ヨーロッパでも成長は鈍いということもある
「一般に情報インフラの整備された地域ほど
モルモン教会の成長は鈍い」
(トゥゲザーによるモルモン教会成長の要素その1)
アメリカで研究する専門家の観察に反論、ですね。
私については当惑していません。その過程は通過済みと思っています。
>高度に権威主義的な体制に参加型民主制が「伴っている」ことである
これは例えばワードの活動で何を取り上げるか、など日常的なことで実現していると言えるのではないですか。
トゥゲザー(中国語で「一起」yiqi)さんの言う「末端の意思は上に伝えられない」は、スタークも「この高度に権威主義的な体制・・」という言葉に表れていると受けとめます。
wasatch さん、深刻な日本の状態について書いていただいてありがとうございます。私も内心そのような事態を予測していました。(そして、残念ながら現に予測しています。)