「暮坪かぶ-くれつぼかぶ」
【生産地】岩手県遠野市上郷町佐比内暮坪集落
【形状】白カブの一種。根の部分はカブ独特の球状ではなく、20cmほどの長さで、やや湾曲している。根の部分でも地上に出ている部分は淡い緑色である。土壌に埋まっている部分は白色。
【食味】辛味か強く、独特の風味がある。辛味の成分はイソチオシアネート類でダイコンの10倍近くある。漬物やそのまますりおろして薬味として使用。蕎麦の薬味としての他、脂身の多いぶりなどのお刺身に乗せても美味しくいただける。
【来歴】天正年間(1573~92)に、近江の薬売りが岩手県の遠野市暮坪地区にもち込んだのが、このカブの栽培の初めであると伝えられている。暮坪集落に住む1戸の農家が代々育て上げてきたかぶで、この暮坪の土地でないと独特の辛みが出ない。同じ種を使用しても風土の違いで異なる味になる。「暮坪かぶ」の名は登録商標となっている。
【時期】10月下旬から11月上旬
*https://tradveggie.or.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%BC%9D%E7%B5%B1%E9%87%8E%E8%8F%9C%EF%BC%8D%E5%B2%A9%E6%89%8B/#i-8 より
Premium Marché 特選素材 12月・1月は「かぶ」
初冬になると、店頭には大小さまざまな紅白のかぶが並び始めます。かぶは白菜や小松菜と同じアブラナ科の野菜で、地域独特の固定種(在来種)も約80種類ほどあると言われているのだとか。春の七草のひとつ「すずな」はかぶの別名であり、古くから日本で育てられていたこともうかがえます。
今回プレミアムマルシェが注目したのは、個性あふれる4種類のかぶ。北欧から岩手県一関市に根付いた山吹色の「矢越かぶ」、遠野の地元高校生が復活させた「琴畑かぶ」、究極の薬味とも称される「暮坪かぶ」、そしてなにわの伝統野菜「天王寺かぶら」をご紹介します。
“究極の薬味”として独特の風味と爽やかな辛みを味わえる「暮坪かぶ」
暮坪地域でしか育たない幻のかぶ
まるで青首大根のような見た目をした「暮坪かぶ」。あまり他に例を見ないこの長根系の白かぶは、江戸時代に近江商人から持ち込まれた京野菜がルーツとなり、暮坪地域の土壌や気候との掛け合わせによって、独特の風味や辛みへと進化したのだそう。地域では元々お漬物として食べられていましたが、人気グルメ漫画で"究極の薬味"として取り上げられ、日本中から注目を集めるようになりました。
"民話の里"遠野の暮坪地域のみで育つ珍しいかぶ
暮坪かぶが栽培されているのは、"民話の里"として知られる岩手県遠野市。民俗学者・柳田國男が遠野の不思議な物語を聞き書きしてまとめた『遠野物語』の舞台で、河童や座敷童子(ざしきわらし)にまつわる民話が多く残されています。畑から少し車で移動したところには、きゅうりをつけた釣竿で河童釣りが楽しめる「カッパ淵」もあり、まるで民話の世界に迷い込んだかのよう。
一戸の農家が守り続ける遠野の特産品
暮坪かぶを育てているのは、遠野市上郷暮坪地区に住む「協同組合暮坪かぶ」理事長の菊池貞三さんのご家族のみ。菊池さんのご両親は元々ホップ(ビールの原材料)農家だったのですが、昭和の終わりに他の作物へ切り替えることを検討し、約400年前から暮坪で育てられていた暮坪かぶに着目したのだそう。周りの農家にも声をかけ、約20年前には18軒ほどの農家で栽培していたのですが、後継者不足や育て方が大変なこともあり、現在は菊池さんのご家族のみが栽培しています。
手間ひまかけて栽培される暮坪かぶ
暮坪かぶの栽培が大変な理由として「連作障害 」が挙げられます。かぶを含めたアブラナ科の野菜は、毎年同じ土地で同じ野菜(あるいは同じ科の野菜)を育てることで病気にかかりやすくなったり、虫が増えたり、土壌が痩せたりして、作物の生育が悪くなってしまうのだとか。そうならないためにも、春と秋には転々と畑を替えながら作付を行い、空いた畑ではとうもろこしなど別の作物を育てるなどの工夫が必要となります。
もう一つの理由が、虫の被害に遭いやすいこと。"根を食べるかぶ"へ使う農薬は最小限にしたいと考える菊池さんは、虫に食われてしまってもそのままにしておくのだそう。よって収穫時に葉は虫にすっかり食べられて網目状になってしまうので、葉 を切り落とした状態で出荷しています。
暮坪産のかぶにしか出せない、独特の辛みと風味
「正直、暮坪の土自体がものすごく特徴的というわけでは無いようなのですが、他の地域で同じ種を蒔いても、なぜか水っぽい大根のようになるし、辛みが出ないんです」と話す菊池さん。また他のかぶと同様、同じアブラナ科の「菜の花」などと品種が混じって、辛みが弱まってしまうのだとか。蜂が媒介して受粉してしまわないよう網をかけるなど、「暮坪かぶ」ブランドを守り続けるべく細心の注意を払われています。
また、"究極の薬味"として知られるようになり、本来の旬である10月下旬から11月上旬に出荷するだけでは消費者の要望に応えられなくなりました。そこで菊池さんは春と秋の年2回に分けて栽培したり、収穫したかぶを長期保管できるよう、貯蔵庫のコンディションを工夫したりするなど、さまざまなチャレンジを繰り返して暮坪かぶの普及に取り組んでいます。「でも残念ながら、みなさんが冷たいお蕎麦を食べたくなる5月までは持たないんですよね」と苦笑いの菊池さん。
菊池さんおすすめの食べ方は、味噌を添えたおでんや、グリルを使った丸ごとの直火焼き。熱が加わって辛みが飛び、ぐっと甘みが増すのだそう。ご自宅では、出荷前に切り落とした葉を 塩漬けにしてチャーハンに混ぜられているのだとか。蕎麦などの薬味にする際は、辛みを際立たせるため鬼おろしなどで荒くおろせばいいよと教えてくださいました。
*https://premiummarche.com/read/201712-2.html より抜粋