第一章のタイトルは、「なぜ日本の知識人は、ひたすら権力に追従するのか。」です。日本の官僚について、氏がどのように考えているのかがよく分かる叙述です。18ページの文章を、そのまま紹介します。
「官僚を、官僚であるからという理由だけで貶すのは、近視眼的というものだろう。」「だが官僚に対する我々の姿勢は、官僚があまりに強大な権力を奮い始めたときには、その監視と妨害がなされなくてはならないことを、いつも、自覚しているべきである。」
「知識人は何よりもまず、権力保持者が国家利益のために活動するとは、決して信じてはならない。あらゆる時代の、あらゆる地域の権力保持者はみんな、自分はそうしていると、必ず主張した。」「しかし彼らは普通、まず第一に、自分自身のために活動するのである。」
ここで私が引っかかったのは、「あらゆる時代の、あらゆる地域の権力保持者は、」という表現でした。世界共通の論理を述べるのなら、「あらゆる地域」ではなく「あらゆる国」でと、書くべきです。つまり氏は他国のことを省略し、日本を念頭におき意見を展開しています。
「なぜなら彼らの行うことの多くが、容易に目につかないからである。」「そして知識人は、これに関する批判的な目を維持するのに、最も適した場所にいる。」「日本では他のどこにも増して、批判的な目が緊要である。」
「日本の官僚の地位は、異例ともいえるほどのものだ。彼らは、他の先進工業国の官僚より強大な権力を保持しており、」「しかもそうした権力を制限する制度的規制面で、日本は、はるかに遅れをとっているからである。」
反日左翼と、グローバリストの話は、90パーセントがまともな意見です。目立った嘘がないし、読者は他国との比較データを持っていませんから、何となく納得させられます。しかし氏はいったいどこの国と比べ、日本の批判をしているのでしょう。ドイツかフランスか、イギリスなのかアメリカなのか、これらの国の官僚は、日本とどのように違うのか。氏は具体的に述べず曖昧にしています。
息子たちに言います。四日前のブログを思い出してください。 『ひとりがたり馬渕睦夫』 のなかで、カーン・ロス氏の著書『独立外交論』を紹介しました。平成21 ( 2009 ) 年の出版ですから、平成7年出版のウォルフレン氏の著書より、ずっと最近の官僚論が書かれています。ロス氏が外交官を辞めたのは、国連と祖国に失望したためです。直接の原因は五大国の政治家と、官僚の横暴さへの怒りと幻滅でした。
ウォルフレン氏の著作を読んでいますと、日本の官僚だけが強大な権力を使い、国民を騙しているようになりますが、ロス氏の話は小さな日本国内のものでなく、世界を左右する五大国の政治家と官僚の行為です。日本の読者のため、もう一度ロス氏の本の一部を紹介します。
「安保理事会で力を発揮しているのは、政治家ばかりでなく、実務家である外交官、つまり官僚です。」「彼らのもとにあらゆる情報が集まり、彼らはそれを分析し、報告書にまとめ、決断する政治家へ渡します。必要とあれば彼らは、自分に有利な情報だけを集め、政治家へ届けたりします。」
国連の各国外交官たちは、国益のためだけでなく、現在よりより高い地位と報酬を求め、エゴを隠さず競争しています。国益という立派な隠れ蓑をまといながら、米、英、仏、ロ、中の外交官たちが、海千山千の戦いをしています。
オランダは五大国のメンバーでありませんから、こうした情報は入りません。そこでオルフレン氏が得意そうに、「日本の官僚は、格段に酷い。」という嘘がつけます。言っている本人も正確な情報を知らないのですから、嘘とも思わず活字にしています。
私の目的は、氏の著作を台無しにすることにありませんから、これ以上の追求はやめます。初回で言いましたように、意見はどれも真剣で真面目ですから、耳を傾ける価値があります。そんな見方もあるのかと教えられ、学徒の向上心も刺激されます。氏の意見が全て正しいと思わないで、距離を置いて読めば参考になります。
本日はこれまでとし、次回も氏の「官僚論」の続きです。