ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

日本の知識人へ - 3 ( ウォルフレン氏の、日本官僚論 )

2019-12-25 23:11:36 | 徒然の記
 第一章のタイトルは、「なぜ日本の知識人は、ひたすら権力に追従するのか。」です。日本の官僚について、氏がどのように考えているのかがよく分かる叙述です。18ページの文章を、そのまま紹介します。
 
 「官僚を、官僚であるからという理由だけで貶すのは、近視眼的というものだろう。」「だが官僚に対する我々の姿勢は、官僚があまりに強大な権力を奮い始めたときには、その監視と妨害がなされなくてはならないことを、いつも、自覚しているべきである。」
 
 「知識人は何よりもまず、権力保持者が国家利益のために活動するとは、決して信じてはならない。あらゆる時代の、あらゆる地域の権力保持者はみんな、自分はそうしていると、必ず主張した。」「しかし彼らは普通、まず第一に、自分自身のために活動するのである。」
 
 ここで私が引っかかったのは、「あらゆる時代の、あらゆる地域の権力保持者は、」という表現でした。世界共通の論理を述べるのなら、「あらゆる地域」ではなく「あらゆる国」でと、書くべきです。つまり氏は他国のことを省略し、日本を念頭におき意見を展開しています。
 
 「なぜなら彼らの行うことの多くが、容易に目につかないからである。」「そして知識人は、これに関する批判的な目を維持するのに、最も適した場所にいる。」「日本では他のどこにも増して、批判的な目が緊要である。」
 
 「日本の官僚の地位は、異例ともいえるほどのものだ。彼らは、他の先進工業国の官僚より強大な権力を保持しており、」「しかもそうした権力を制限する制度的規制面で、日本は、はるかに遅れをとっているからである。」
 
 反日左翼と、グローバリストの話は、90パーセントがまともな意見です。目立った嘘がないし、読者は他国との比較データを持っていませんから、何となく納得させられます。しかし氏はいったいどこの国と比べ、日本の批判をしているのでしょう。ドイツかフランスか、イギリスなのかアメリカなのか、これらの国の官僚は、日本とどのように違うのか。氏は具体的に述べず曖昧にしています。
 
 息子たちに言います。四日前のブログを思い出してください。 『ひとりがたり馬渕睦夫』 のなかで、カーン・ロス氏の著書『独立外交論』を紹介しました。平成21 ( 2009 ) 年の出版ですから、平成7年出版のウォルフレン氏の著書より、ずっと最近の官僚論が書かれています。ロス氏が外交官を辞めたのは、国連と祖国に失望したためです。直接の原因は五大国の政治家と、官僚の横暴さへの怒りと幻滅でした。
 
 ウォルフレン氏の著作を読んでいますと、日本の官僚だけが強大な権力を使い、国民を騙しているようになりますが、ロス氏の話は小さな日本国内のものでなく、世界を左右する五大国の政治家と官僚の行為です。日本の読者のため、もう一度ロス氏の本の一部を紹介します。
 
 「安保理事会で力を発揮しているのは、政治家ばかりでなく、実務家である外交官、つまり官僚です。」「彼らのもとにあらゆる情報が集まり、彼らはそれを分析し、報告書にまとめ、決断する政治家へ渡します。必要とあれば彼らは、自分に有利な情報だけを集め、政治家へ届けたりします。」
 
 国連の各国外交官たちは、国益のためだけでなく、現在よりより高い地位と報酬を求め、エゴを隠さず競争しています。国益という立派な隠れ蓑をまといながら、米、英、仏、ロ、中の外交官たちが、海千山千の戦いをしています。
 
 オランダは五大国のメンバーでありませんから、こうした情報は入りません。そこでオルフレン氏が得意そうに、「日本の官僚は、格段に酷い。」という嘘がつけます。言っている本人も正確な情報を知らないのですから、嘘とも思わず活字にしています。
 
 私の目的は、氏の著作を台無しにすることにありませんから、これ以上の追求はやめます。初回で言いましたように、意見はどれも真剣で真面目ですから、耳を傾ける価値があります。そんな見方もあるのかと教えられ、学徒の向上心も刺激されます。氏の意見が全て正しいと思わないで、距離を置いて読めば参考になります。
 
 本日はこれまでとし、次回も氏の「官僚論」の続きです。
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日本の知識人へ - 2 ( 日本外国特派員協会とウォルフレン氏 )

2019-12-25 14:26:37 | 徒然の記
 私が知らないだけでウォルフレン氏は、日本の出版業界ではなかなかの寵児でした。ちょっと調べますと、角川書店、早川書房、新潮社、徳間書店、小学館、毎日新聞社などから、著作を沢山出していました。中央公論や月間Asahi、THIS IS読売、文芸春秋、季刊窓という月刊誌にもたびたび寄稿しています。
 
 氏の略歴が裏扉にありますので、紹介します。
「1941 ( 昭和16 ) 年、ロッテルダム生まれ。」「1962 ( 昭和36 ) 年以来日本在住。オランダのNRCハンデルブラッド紙の、極東特派員。」「1982 ( 昭和57 )から、1983 ( 昭和58 )年に、日本外国特派員協会会長。」
 
 何年か前に、日本外国特派員協会について調べたことがありましたが、すっかり忘れましたので、もう一度調べました。現在の会長は、ピーター・ランガン氏となっていますが、興味深い歴史を持つ協会なので、息子たちのためもう一度転記します。 
 
 〈 1.  設立の経緯 〉
  ・昭和20年8月15日、日本が連合国軍の占領下におかれ、9月に日本新聞遵則(日本出版法)が制定
  ・日本の全てのメディアに対し、検閲を含む情報統制が開始
  ・日本で活動する連合国および中立国のメディアの記者やジャーナリストのため、サポート組織が必要となる
  ・情報統制を受けない彼らのため、マッカーサー元帥の命令によって設立
  ・場所は、マッカーサーの執務室があった、第一生命ビル内
  ・設立時の名称は「東京特派員クラブ」
 
 〈 2.  改称と移転 〉
 
  ・占領終了後の1952 ( 昭和27 )年に、「日本外国特派員協会」と改称
  ・1954 ( 昭和29 )年11月に、外務省所管特例民法の社団法人として認可
 
 〈 3.  活動内容 〉
 
  ・外国報道機関の特派員及びジャーナリスト会員に、職業上の便宜を与える
  ・会員相互間の友好親睦を図ることを目的に、彼らに、
    ニュースの蒐集、配信の便宜、取材のための設備の提供
    講演会、討論会や記者会見等の開催運営
    会員向けの記者室や図書館、レストランやバーも併設
 
 前に調べた時も疑問を持ちましたが、協会全体が「日本批判組織」という雰囲気を持ち、記者会見する日本人も反日左翼の人間が多く、日本への批判や悪口を言います。外務省の所管する団体と知ったときは、やっぱり害務省かと腹を立てましたが、今は違います。
 
 GHQの流れで続いているとなれば、外国人記者たちの特権意識も受け継がれているわけですから、彼らの我儘もそのまま生きているのではないでしょうか。つまり、この協会も「特別永住者」に似た戦後利得者の団体です。彼らの戦勝国意識が色濃く残る組織だと分かれば、外務省ばかりを責めて済む話でなくなります。といっても、担当官庁の外務省が敗戦思考のまま、このような組織を存続させている無責任さは、やはり「害務省」です。
 
 三年前だったと思いますが、蓮池薫氏の兄透氏が協会に招かれて会見をしました。

 「政府が、対話を続けながら制裁を強化するなんて、矛盾している。」「言っていることとやっていることが、ばらばら。」
 
 「帰国した拉致家族にしても、政府の生活支援はほとんどありません。」「こんな話を北にいる拉致被害者が聞いたら、帰る気になりませんよ。」

 「安倍さんは拉致問題を踏み台にして、首相の座を手にしたんだと思っています。」
 
 外国特派員たちが、この話を記事にし母国へ送るのですから、日本が理解される訳がありません。ウォルフレン氏が、この協会の会長だったと知れば、著作が左へ傾いているのも理解できます。氏が出版業界の寵児本というのは、日本のマスコミが反日左翼勢力に偏っている証拠でもあります。著作だけ読んでいると見えないものが、周辺事情を調べると浮かんできます。
 
 特派員協会の外国人記者たちは、朝日、毎日、東京新聞、あるいNHKやテレ朝などの記者と交流し、併設のバーやレストランで親交深めていますから、不偏不党の報道が世界に伝わるのが不思議というものです。
 
 「私は日本の学者や知識人のように、政府やこれに関係する団体から、金銭的支援を受けていません。」「何の利益も受けていないから、客観的な批評ができます。遠慮のない分析と、主張ができるのです。体制に絡めとられた御用学者と、私は違うのです。」
 
 著書の中で氏が語っていますが、これは正しい説明ではありません。政府に直接金銭をもらっていませんが、「日本外国特派員協会」会長の肩書はには威力があります。氏は反日左翼のマスコミとつながり、著作料を稼がせてもらい、新聞や雑誌社から原稿料を受け取り商売繁盛です。反日左翼マスコミ業界の、お抱え外国知識人と言っても言い過ぎではありません。これ以上、政府の支援がどうして要るのでしょう。
 
  「反日は、金になる。」
 
 誰の言葉だったか忘れましたが、私は氏に謹んでこの言葉を贈りたくなりました。
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日本の知識人へ ( 有意義な悪書 )

2019-12-25 01:02:14 | 徒然の記
 図書館からもらって来た未読の廃棄本が、子供部屋の机に30冊くらい積み上げてあります。以前は片っ端から読み飛ばしていましたが、最近は精読しているため、なかなか減りません。
 
 その本の山に、カレル・ウォルフレン氏の著作をもう一冊見つけました。『日本の知識人へ』という表題の、223ページの単行本です。立派な装丁で、平成7年に窓社という聞きなれない出版社から出されています。18日に読み終えた同じ著者の『世界が日本を認める日』 が平成17年の出版でしたから、その10年前の著作です。村山内閣の時なので、24年前の本になります。
 
 118ページを読んでいますが、京極純一氏の『日本の政治』と同じ、「有意義な悪書」という印象です。自称日本を愛するオランダ人特派員ですが、私には、日本に強い関心を持つ、物好きなオランダ人の意見としか受け取れず、叙述のどこにも、日本への愛を感じることはできませんでした。氏を、西欧を代表する権威のある知識人として持ち上げる窓社の編集員にも、違和感があります。窓社について別途調べてみました。
 
 《 株式会社 窓社 》
  ・  業務内容 書籍の編集/刊行
  ・  社名の由来
   「世界が、その分別臭くて、さもしい利己主義に浸かって、窒息して死にかかっている。」「世界の息がつまる。もういちど窓を開けよう。広い大気を流れ込ませよう。」「英雄たちの息吹を吸おうではないか    ーー ロマン・ロラン」
 
 臨終の床にあったゲーテは、窓のカーテンを見ながら「もっと光を」と言って亡くなったと聞きます。ロマン・ローランはカーテンでなく、「窓を開けよう」と、意欲満々ですが、ウォルフレン氏の著作が、開けた窓から流れ込む広い大気に該当するのかどうか。世界が窒息し死にかかっているとか、息が詰まるとか、そんな言葉も、日本を思う私の気持ちには無縁です。
 
 不偏不党を社是とする朝日新聞と違い、私は左翼反日、グローバリストへの偏見を隠しません。七生報国を叫ぶ右翼には敵いませんが、自分の生まれた国への愛国心も隠しません。ウォルフレン氏は、日本を研究し分析し意見を述べている人物で、悪意や敵対心はないのだろうと思います。私と同じ学徒の心で日本を語っているのだと考えますが、滲み出てくる不快感を持て余します。
 
 氏が指摘している事実は、確かに日本の課題ですから否定しません。官僚組織、政治組織、憲法問題、戦前の軍隊等々間違った意見ではありません。私の思いと重なる部分が沢山あり、最初はそれで勘違いしましたが、氏は私とは別の場所に立っています。考えてもいない切り口から、氏が日本の問題を分析し説明します。そんな見方もあるのかと教えられ、学徒の心が刺激されます。意見はどれも真剣で真面目ですから、耳を傾ける価値があります。
 
 「私に反対する日本人の学者は、私がオランダ人だから日本の深いところは、分からないと言います。」「しかし何人であれ、物事の真実や論理は共通しています。」「日本人や、日本の国が特殊であるというのは、真面目な議論からの逃避であり、ごまかしです。」
 
 著書の中で氏が反論していますが、その気持ちを半分だけ理解します。自然科学分野における真実と、社会科学での真実は同じでありません。 「1 + 2 = 3 」「地球は丸い」は、自然科学分野の真実で反対する人はいません。「金持ちは、悪人ばかりだ。」「人殺しは犯罪だ。」これは、社会科学分野の真実で、絶対に正しいと主張する人もいますが、そうでない場合があります。
 
 貧乏人と同様、金持ちにも善人と悪人がいます。人殺しは普段なら犯罪ですが、戦争の時は犯罪になりません。ここを区別しない氏は、議論の出発点を間違っています。
 
 自然科学での真実は、数学の公式に似て世界共通の事実ですが、社会科学分野の真実は、それを主張する学者の数だけあります。国によって違いますし、時代によっても変化します。
 
 いつからか私は、ブログで「真実」という言葉を使うのをやめ、「事実」という言葉を当てるようにしています。氏は日本の一番の問題は「官僚組織」にあると言い、自分の分析が「真実」であると主張します。しかし私から見れば、それは一つの「事実」であるに過ぎず、絶対の「真実」ではありません。
 
 日本の社会を歪め、日本を世界から孤立させているのは官僚組織であり、政治家は国政に関する決定権を何も持っていないと断定します。日本政治の無責任体制は、官僚組織に中にあり、知識人は誰もそれを指摘しない、このままでは日本がダメになると、これが氏の著書の根底を流れる思想です。
 
 さらに氏は「軍隊」も官僚組織であるから、憲法を改正したら、また戦前の過ちを繰り返す可能性があると言います。かと言って、氏は憲法改正に反対しているのではありません。戦前の反省を本気でするためには憲法を改正し、危険な軍隊を制御せねばならないから、そこで初めて日本人は他国と同じレベルで、軍隊の統率方法や管理方式を学ぶのだと、こういう意見です。ここまで日本人を愚弄しながら、どの口が「日本を愛する」と言わせるのでしょう。
 
 今回はまだ具体的な書評に入っていませんが、不快感が次第に怒りへと変化していきます。氏は東京裁判史観を信じる記者で、「日本だけが間違った戦争をした。」「日本だけが、悪かった」と言外に語っています。こういう考えを持つ人間に、「日本を愛している」と言わせたくありません。
 
 息子たちに言います。この年末の忙しい時、不愉快な氏の著作を読むかと言えば、氏のような意見がヨーロッパやアメリカで通用し、信じられている事実があるからです。他国がどのような「真実」で日本を理解しようと、それは彼らの考える「事実」の一つに過ぎず、日本には日本の「事実」があると、それを子供たちに知って欲しいからです。
 
 本を読んでいますと、世間の広さを改めて感じます。色々な人間がいて、いろいろな出版社があって、思い思いの意見を発信しています。この世には自分の知らないことが、まだ限りなくあるということです。これでは、なかなか死ねません。
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