小西議員が開いた「パンドラの箱」から出て来たのは、どれも厄介なものばかりです。
「国会での議員の質問権」 「選挙妨害のための国会質疑」
「国家公務員の守秘義務」 「行政文書」 「放送法」
「ゴシップを扱い、政策論をしない参議院の必要性」
「元郵政省と元自治省の歴史的対立」・・などなどです。
国会の基本に関わる問題が、国民の目の前に並べられました。「禍い転じて福となす」ためには、問題の背景 ( 過去 ) を知ることが大事になります。「元郵政省と元自治省の対立」もその一つで、調べて行くとGHQの統治下にあった敗戦後の日本にまで遡ります。今は財務省がその位置にいますが、戦前の日本で最大・最強と呼ばれた官僚組織は二つでした。軍と内務省でしたがGHQが解体し、内務省は総務庁と自治省に分かれ、様々な変遷を経て郵政省と統合され「総務省」に変わりました。
一方郵政省は、三公社五現業の一つだった郵政事業をおこなう「現業官庁」だったため、三流・四流官庁として「狸穴(まみあな)の田舎者」と陰口を叩かれ、格下の省庁と見られる不遇な経験をしていたと言われています。
詳しくは後で紹介しますが、簡単に言って仕舞えば、礒崎氏の傲慢とも言える言動の背景の一つにこうした過去の歴史があります。予定している項目に入る前に、青山氏の【 ぼくらの国会 487 】に戻り、礒崎氏の発言について氏がどのように捉えているかを紹介します。
「僕は役人と議論していて、大きな声を出し、相手を怒らせることもありますが、僕自身の中には、常に冷静なもう一人の自分がいます。」
「僕が役人と議論する時、必ず相手方にはメモをとっている人がいます。このメモが、行政文書なんです。」
「そしてこのメモは、僕が何かスキャンダルを起こした時出て来ます。」
「だから僕は役人と話をする時、常にそれを意識して喋っています。」
「役人に守秘義務があるからと言って、そんな甘い考えで政治はできません。」
はっきり説明していませんが、氏の言葉は前回紹介した礒崎氏の発言への批判ではないでしょうか。
「資料が実際の内部文書かどうかの評価は避けつつ、文書漏えいなら〈 公務員の懲罰の対象となる可能性がある行為だ 〉と、氏が記した。 」
これがウィキペディアが紹介した礒崎氏の発言ですが、青山氏はどうやら賛成していません。
「国会での議員の質問権は、国民に付託された神聖な責務ですから、文書の守秘義務がそれとの関係でどうなるのか、難しいところですね。」
つまり氏は、とられたメモが議員への攻撃材料にされると、警戒心を忘れた礒崎氏を暗に批判しています。立憲民主党の議員たちの国会質問が、果たして「神聖な責務」と呼ぶに相応しいものか、私には疑問ですが青山氏はそう言いません。
と言うことは、相手を挑発し、不快にさせ、怒らせ、失言を狙う野党議員の姿勢を認めていることになります。あの醜い挑発の質問のどこが神聖なのかと、怒りがじわりと込み上げて来ます。しかし青山氏同様私の中にも、冷静なもう一人の自分がいます。
自民党が野党になった時、民主党の閣僚に対しどのような姿勢で質問をしていたのか。同じように威嚇し、指差して皮肉を言い、相手を攻撃していました。稲田朋美、西田昌司、山本一太氏などの執拗な詰問調の発言に、苦々しい思いをした記憶があります。小西氏や、杉尾俊哉、塩村文夏、岸真紀子の各氏について言うのなら、同じことを自民党の議員にも言わなくては公平を欠きます。
気持ちの上ではスッキリしませんが、やはり青山氏の方が、現実的な意見を述べています。そう思ったところで、予定のテーマに戻ります。
・総務省内の元郵政官僚、元自治省官僚の対立とは、どういうものなのか。
テーマは一行ですが中身は複数ありますので、まずは元郵政省がどのような省庁であったのかを紹介します。三公社五現業を行う「現業官庁」として、格下に見られていたと説明されていますので、息子たちのために先ず「三公社五現業」の説明をします。
〈 三公社 〉・・昭和60~62年に中曽根内閣で民営化された
1. 日本専売公社 2. 日本電信電話公社 3. 日本国有鉄道
〈 五現業 〉
1. 郵政事業 ( 郵便、郵便貯金、郵便為替、郵便振替、簡易生命保険 ) → 日本郵政
2. 国有林野事業 ( 国有林野における治山事業等 ) → 事業廃止
3. 印刷事業 ( 日本銀行券、紙幣、国債、収入印紙、切手、郵便葉書等 ) →独立行政法人国立印刷局
4. 造幣事業 ( 500円、100円、50円、10円、5円、1円貨幣の6種類 ) →独立行政法人国立造幣局
5. アルコール専売事業 → 特殊会社・日本アルコール産業
三公社はすべて民営化され、五現業も、廃止された国有林野事業を除いて、民営化または独立行政法人に移管されましたが、民営化される前まで、1. の郵政事業は郵政省の仕事でした。「現業官庁」が格下に見られていると、今回初めて知りましたけれど、これに対応する言葉が「政策官庁」だそうです。
官僚の世界の認識では、省庁とは事業をするのでなく、事業政策を立案し事業者に実行させ、管理監督するところだと言います。変な話と思う人もいるでしょうが、今から57年前、私が会社で働き出した頃は、現場で働く作業者より、事務所にいて管理監督する者が偉いとされていました。現場で働く人は「作業員」と呼ばれ、事務所にいる私たちは「社員さん」でした。
息子たちが聞けば、びっくりする差別になりますが、今はこんな言葉も意識も無くなり、思い出話でしかありません。しかし官庁では、この意識がまだ生きていたと言うことになります。伝統を守る官僚の世界は何ごとも徹底していると、笑うのは簡単ですが、笑って済まされない現実があるから、文書の流出問題が生じます。
次回も元郵政省について紹介しますが、他人事でなく、自分のこと、自分の国の課題として考えてみたいと思います。