今回は154ページ、海賊の話です。氏が発生件数を教えてくれます。
・1989 ( 昭和64 ) 年 ・・ 3件
・1990 ( 平成 2 ) 年 ・・ 33件
・1991 ( 平成 3 ) 年 ・・200件
興味深いのは、次の説明です。
「証明はされていないものの、この海域で発生する海賊行為に、」「非番のインドネシアの海軍軍人が関与しているとの噂が、1992 ( 平成 4 ) 年 に伝えられたことがある。」
「報復への恐怖や、地方警察の能力に対する不信から、」「報告されていないものを加えると、実際の発生件数は二倍は下らないだろうと、推測されている。」
海賊の大半はマラッカ海峡とシンガポール海峡、シンガポールの南東にあるフイリピン海峡、さらにはタイとフィリピン近海でも起こっていました。1992年に、ロンドンの国際海事機構に報告された、世界での海賊行為は106件で、その内の73件が東南アジアでの発生だったそうです。
氏の説明を、箇条書きで紹介します。
・ フィリピンの海賊は、船とその積荷の全体を奪う
・ タイの海賊は、積荷だけを奪う
・ マラッカ海峡とシンガポール海峡の海賊は、乗員の持ち物や金品を巻き上げる行為が大半である
・ 周辺各国の領海が錯綜し、追跡ができないため困難を極めている。
・ このため、周辺国との協力関係が要求される。
・ 英国専門誌の分析によると、迅速、確実、かつ正確な動きは、軍事訓練を受けた者にしかできないとのこと。
日本との比較で言いますと、自衛隊員が非番だからと言って、日本の近海で海賊行為をするでしょうか。もうそろそろ自衛隊員を、モラルの高い日本の軍人として見直し、「人殺し」などという悪口をやめたらどうなのでしょう。
海賊行為の取り締まりは、周辺各国との協力関係が功を奏し、減少していきましたが、今度はソマリア沖でさらに大掛かりな、別の集団による海賊行為が発生したということになります。ここで氏の著作に戻り、再びインドネシア軍についての説明を紹介します。
「どこで、どのようなことが起こるわからず、」「これに対応するためには、優れた機動性を持つ指揮統制システムが必要である。」
「そこで軍備の近代化計画は、空と海の戦略機動性の向上と、」「ある程度の、兵器の国産化に力が注がれている。」
自衛隊が、国内の憲法九条信者の反対を恐れつつ、国際的な防衛体制を進めるため、私たちの知らない苦労をしているのだと、やっと分かりました。
インドネシアもまた、安全保障の観点から、多数の国から兵器を調達しています。米国、イギリス、イスラエル、ノルウェー、フランス、韓国、ドイツ、オーストラリアなどです。しかも必ずライセンス契約を結び、自国での兵器製造を可能にしています。作った兵器は他国へ売り、外貨を稼ぐという計画です。東南アジアの国々だけがしているのでなく、世界の国々は同様のパターンで、自国の軍需産業を育てています。
「非核三原則」「武器輸出禁止」「平和憲法の遵守」「専守防衛」と、日本が生真面目に頑張っていても、世界はお構いなしに「バランス・オブパワー」で動いています。他国が正しいとは言いませんが、このままでいけば日本は、力をつけた他国の餌食となるだけではないでしょうか。この辺りで江畑氏の意見に耳を傾け、日本の軌道を修正する必要を感じます。
「インドネシアは、他のASEAN諸国に比べると、」「軍事力に関する透明度が、やや低い。」「これは周辺国との、信頼性醸成の面からはまずいことである。」
「インドネシアの意図に懐疑的なオーストラリアは、パプア・ニューギニアへの軍事侵攻を、」「真剣に心配し、オーストラリア北部地域へ空軍力を配置転換しつつある。」
国民の全てが、江畑氏と同様の軍事知識を持つ必要はありませんが、現在の日本のように「軍事否定」「平和外交」の一点張りで、国際情勢オンチになることが正しいのでしょうか。このシリーズの第一回目に、氏の言葉を紹介しましたが、著作を読むほどに、氏の意見の正しさが身に迫ります。
「日本はこれまで、あまりに軍事面を、」「無視してきたのではなかろうか。」「日本は今後、現実を直視せねばならないだろう。」
控えめな軍事評論家である氏は、「軍事否定」「平和外交」一点張りの日本に合わせ、自分の意見を抑えているのだと理解しました。
「インドネシアが近い将来、この地域で非常に危険な存在となることは、あまり考えられないが、」「もし信頼醸成の努力を、並行して行わなければ、」「いざとなればその強力な軍事力を、インドネシアが行使するという不安を、」「周辺国に引き起こすことが、十分に考えられる。」
氏の意見を日本に比較して考えますと、そのまま通用します。何をしても反対する中国や、韓国・北朝鮮の3国を除外しても、少なくとも東南アジア諸国間では、軍事情報を共有化し、信頼性の醸成に努める必要があります。むしろそれが、今後の日本の進むべき道ではないでしょうか。
こうして考えますと、クアッドもその動きの一つですから、政府も防衛省も、世界の動きから外れた政治をしていないと分かり、安心しました。
次回からは、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーと氏の説明が続きます。日本の国を愛する方は、「ねこ庭」へ足をお運びください。