田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

涙涙/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-10 08:23:55 | Weblog
理沙子は涙をながしていた。

コウジの顔にホロホロと涙がおちていた。

理沙子のほほをつたって。

涙が……ホロホロとコウジの口元におちていた。

涙で……理沙子とコウジがつながっていた。

赤い糸でむすばれた理沙子とコウジが。

いままた――。

もういちど!!!!!!!!!!!!!!!!!!

白い涙でつながっていた。

理沙子はそっとコウジのほほに唇をよせた。

泣きながら。

涙をこぼしながら。

もうどうしていいか。

わからない――。

コウジ。

コウジ。

コウジ

わたしの彼。

わたしの恋人。

わたしを覚醒者にしてくれた恩人。

それらすべて。

わたしのすべて。

すきで。

すきで。

まい日、こうして会いにきている。

こうして、あっていてそれだけで。

ことばが、もどってこなくても。

なにかほのぼのとしてしまう。

初恋でむすばれた。

わたしの。

恋人。

コウジ。

理沙子はぼろぼろと涙をこぼしていた。

声をあげて。

泣きだしていた。

コウジ。


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涙/夕日の中の理沙子(2)  麻屋与志夫

2009-02-09 22:05:09 | Weblog
2

「コウジ。

どうする……わたしどうしていいかわかんないよ。

まいにち、コウジに会いたい。

わたしが東京へいったら会えなくなるよ。

わたしコウジに会えないでいるのつらかったもの。

コウジはわたしに向ってくる途中でVに精気すわれちゃったんだものね。

わたしがここにいてやらなかったらかわいそうだよ。

コウジはわたしのところへ急いでいる……。

それなのに、わたしがいなかったら……」

理沙子はいつものように。

悲しみをこらえて。

コウジにはなしかける。

涙がホロホロとコウジのほほにおちているのを。

理沙子は気づいていない。

「T大の試験は受ける。

きっと、合格するだろうよ。

それからまたかんがえる。

入学するかしないかは……。

それからかんがえればいいことだ。

父の意見は、たしかに賢い選択よね」

理沙子は泣きだしていた。

ひくっと、コウジの指が動いた。

理沙子は気づいていない。

「ねえ、コウジどうしたらいいの」

指が動いている。

指がなにか伝えようと動いている。





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進路/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-09 08:37:02 | Weblog
第六章 進路の悩み/理沙子

1

「川村さん。

いまになって、進路かえるの?

操高校としても……。

ひさしぶりでT大理科三の合格者がでると…‥。

期待していたのよ」

職員室にのこっていた教師の目と耳が理沙子に集中した。

発問した担任の蒔田もじっと理沙子の応えをまっている。

父や母とおなじことをいっている。理沙子はかたまった。

(コウジについていてやりたい。

心肺停止の結果、低酸素脳症を起こした。

というのが一般の病院で出した結論だった。

覚醒連では吸血鬼に精気を吸われ過ぎたことが原因とみている)

なんとか、たすかるかもしれない。

あれほど青ざめていた顔色に精気がもどってきた。

じっと、理沙子をみつめるようになった。

このままコウジをおいて上京するわけにはいかない。

「明日までには……はっきりさせますから」





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経年劣化?/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-08 22:53:14 | Weblog
「恨む。恨んで、祟るぞ」

鬼の恨みのことばが勝道十哲の面々のみみにのこった。

まだまだ二荒の地には滝がたくさんある。

その滝の奥地に鬼の部族を封じ込めていく。

勝道の戦いはじまったばかりだった。


「蝦夷を撃つには下毛の地域からと覚悟していたが。

勝道殿が二荒山までは平定してくれたので助かり申した」

勝道の鬼封じの偉業は六十二歳になって報われた。

征夷大将軍。

坂の上田村麻呂と会見したおりに感謝されることになる鬼封じだ。

蝦夷の民の中にさらに怪しい部族が混じっていた。

鬼族だ。

人の肉をこのんでくらっていた。

それらのヤカラを仏の敵として勝道は退治をした。

「次はマツクラノ滝だ」

滝壺に追い落とされた鬼が吠えた。

「どうしておれたちにかかわる。

おれたちこそここの先住民族なのだ」

鬼は必死の形相でいどんできた。

勝道の弟子。

道珍が錫杖を鬼の胸につきたてた。

錫杖の頭で鐶がジャランとなった。

鬼の怨嗟の声が滝音にひびいた。


「そんなとこかもしれないな」

織部がくりかえした。

勝道上人の封印が経年劣化した。

勝道上人の結界が経年劣化した。


鬼が封印を解いた。

鬼が結界からでた。

そんなところだ。




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勝道上人/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-08 08:24:48 | Weblog
「そんなとこかもしれないな」

と受け入れてくれた。

そんなところ。

といわずに「そんなとこ」という方言のアクセントがうれしかった。

織部は覚醒連の所長より、恩師の顔になっていた。

勝道上人もこの下野は真岡の生まれだ。

この土地の訛りで説教をした。

弟子たちとも対話をはずませた。

この下野の薬師寺で僧侶の資格をゲットした。

難しくいえば、得度受戒という。

当時、僧侶試験はこの国では三か所しか会場はない。

奈良の東大寺。福岡の観世音寺。下野、栃木県の薬師寺。

下野の土地は文化レベルがたかかったのだ。

「日光が関東八州の鬼門にあたるのは事実だからな。

鬼門除けのお札を売っているくらいだ。

お札の裏には角大師の護符がついてる」

「それはしりませんでした」

勝道上人が男体山を開山するのに十五年の歳月を要した。

この時期、上人は土地の悪霊とたたかっていた。

征服したあとに寺を建立している。

悪霊を封印してこの下野の土地を巡回していたのだと翔太は理解している。

悪霊は鬼。

角のあるもの。

Vだったともいえる。


瀧尾古道の果て、白糸の滝壺まで鬼を追いつめた。

「この二荒の地に鬼がいるかぎり。

人の肉を食らうものがいたのでは。

真の意味でここが観音浄土。

補陀洛(ふだらく)の地とはいえない。

鬼よ地底に去れ」

滝の奥に鬼を押しこめた。

そしていつものように封印した。





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封印/夕日の中の理沙子(2)  麻屋与志夫

2009-02-07 20:03:42 | Weblog
7

勝道上人の結界がほころんでいる。

翔太はその思いつきを一刻も早く織部にはなしたかった。

(なにを翔太。焦っているのだ)

さきほど。

サイキックパワーを全開させた。

愛する玲菜のショーの会場で暴れたヤクザにVがいた。

深紅色の眼光をみたとき、われを忘れて攻撃した。

両手の平をそと向きにかまえた。

つきだした掌の底辺に念をこめた。

そして一気に念パワーを投げつけた。

放射したのだ。

超能力を始動させないようにしてきた。

それが今夜おもいっきり解き放つことになった。

(翔太。あせるな。

おもいつきで、現実を解釈しようとするのは、危険だ)

それでも織部にきいてもらいたかった。

勝道上人が天平時代の二荒、日光の地の諸悪を封印した。

二荒山、男体山を開山したということは、山岳ルートを確保した。

ただそれだけのことではなかった。

あらぶる者たちを治めたのだ。

その封印がほろびかけているようにおもえる。

瀧尾古道の荒れ方が異常だ。

巌に安置されていた十二神将が地震でいためつつけられている。

(翔太。あせるな。あせるな)

翔太は玲菜にメールを打った。

ごめん。もどれない。

Vの飛び去った方角が日光だった。

ただそれだけでひらめいた憶測だ。

まちがっていたら。

織部先生にわらわれてしまう。

それでもいい。

この宇都宮の街の未来をスキャンしたときに。

暗闇しかかんじられなかった。

Vが大勢でわるさを始めた。

かれらはどこからくるのか。

どこからわいてきたのか。

逃げた先が日光だとすれば。

なにか見えてくるような気がする。

千三百年にわたる封印がやぶられたのだ。

織部は翔太のはなしをきいた。

わらわれなかった。

あんがいそんなとこかもしれないな。





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鬼門/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-06 13:49:20 | Weblog
6

その強い麻のにおいを翔太は嗅いだ。

圧倒的な、いがらっぽい麻のにおいがする。

枯れ草が腐ったような臭気。

危険だ。Vがコウフンしている。

噛みつく気だ。Vが翔太の気配にふりかえった。

両眼が赤光を放っている。さきほどより、輝度が高い。

追いつめられていたセキュリティがよろけた。

一瞬Vの目の恐怖が、その威力が翔太にむけられたからだ。

立て。逃げろ。翔太は声なき声で命令した。

Vがちかよってくる。

Vの眼光の束縛から解き放たれた三人がよろよろとあるきだす。

それをヤクザのふたりがはばむ。

人間同士の戦いならセキュリティの側に分がある。

ほうっておいても結果はみえている。

Vが非常にゆったりとした動作で近寄ってくる。

翔太はプチプチシートをその進路になげた。

麻の実を播いた。なんの反応もない。

「おれにはそんなものはきかない」

Vがせせら笑っている。

翔太は紫外線銃を放射した。

「ムダダ。むだだ。むだだ」

びくともしない。

「おれはday walkerだ。昼でも歩けるのだ」

ヤクザを拘束したセキュリテがVにむかう。

かれらには、Vの真の姿が見えていない。

Vほんとうの怖さがわかっていない。

血のような赤い目も見えていないのかもしれない。

翔太はあせった。

全精力を掌に集めた。

両手をVに向け「闘」と気合とともに念波をたたきつけた。

Vが数メートルとばされた。

その先は屋上のガードレールの外。

Vは巨大な羽根をひろげて夜空を滑空していく。

「なんだあれは」

「ハングライダーでも隠しておいたのでしょう」

そんな説明では納得しなしいと思ったが。

「用意周到なヤツダ」

という、返事が戻ってきた。

見えないものには、なにも見えていないのだ。

このとき、翔太は街の上空が暗雲にとざされているのを見ていた。

夜の暗さではない。

翔太は闇に意識を集中した。

Vの飛びさったのは日光の方角だった。

北東の方角だ。

丑寅の方角だ。

すなわち、鬼門。

栃木県は北関東の北端。

宇都宮と神沼は。

東京から見れば鬼門にあたるところに位置している。

その線を長くのばせば日光につきあたる。

宇都宮にVが群れているのは……。




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ショーの客/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-05 08:05:16 | Weblog
5

「部屋の外ではなしあいましょう」

セキュリティの。

空手で鍛えているような。

男がささやいている。

「きこえないね。

もっと大きな声でユウたらどうや」

いちばん若そうに見える。

極道がわめいている。

「ご不満があれば、そとでききますから」

「高い会費はらったショーだ。

歌手にお酌くらいさせたらどうや」

因縁をつけている。

何のことはない。

玲菜がらみの因縁だ。

だからマネジャーの高内を楯にとっているのだ。

男はわめきながら。

バンとテーブルを蹴とばした。

高内がつきとばされた。

たおれそうになる。

すばやく翔太が背後にまわりこんでささえた。

それを横目でみながら極道はドアからでていく。

セキュリティが追う。

はじめから無言でやりとりをみていた兄貴分らしい。

ズングリが振りかえった。

翔太と視線が合う。

ああ、なんとしたことだ!!!

両眼がひかった。

それも!!!! 

赤くひかった。

「しまった。Vだ」

翔太は後を追った。

廊下には人影がない。

エレベーターの階位表示が上をむいていた。

屋上をめざしている。

階段を翔太はかけあがった。

どうしてVがいることを察知できなかったのか。

玲菜との会話に夢中になっていた。

周囲のひとたちをスキャンするのをわすれていた。

なにがサイキックだ。

なにが能力者だ。

バカ、翔太。

じぶんをののしりながら階段を二段ずつかけあがる。

屋上への扉をでる。

もみあっている。

セキュリティの三人のほうが追いつめられている。

たったひとりのVに。






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ミサンガ/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-04 07:58:03 | Weblog
「玲菜さん。そろそろ出番よ」

マネージャの高内がひかえめに去っていった。

高内の席にはイカツイ男たちがいた。

「ミサンガね。これにはプロミスリングの意味もあるのよ」

「民族がちがっても、それほど習俗はちがわない」

でもプロミス(婚約)とかんがえて、翔太はあわてた。

玲菜さんは、そういう意味もふくめて話している。

「翔太さんと、お揃いね」

「翔太でいいです」

「翔太。なにかリクエストは?」

「キャラバン」

「激しい曲が好きなのね」 

4
 
バンドは地元の「ラ宮」。

玲菜の澄んだのびのある歌声をきいていた。

ほろ酔い気分だった。

翔太にしてはめずらしく周囲への警戒感を解いていた。

「もういちどいってみろ」

テーブルをひっくりかえした。

コミックそのもののようなヤクザが凄んでいる。

高内のいる席だった。部屋はそうぜんとなった。

もめごとの原因はわからない。

翔太は玲菜のマネージャの高内のところにはしった。

マネージャは青くなっていた。

青のドレスより青ざめていた。

女性でなくても、筋ものにすごまれては。

ふるえあがるのはあたりまえだ。

ホテルのセキュリティがすごんでいる極道の三人組を説得している。

「部屋の外ではなしあいましょう」

「いやこの部屋のほうがいい。実にいい部屋ヤナ」

西からきている筋ものだ。

と、ことばから、翔太は判断した。

そっと手をのばして高内をうながした。

「逃げるなババア」

マネージャを楯にとられた。

「コゾウ。おまえ、ナンヤ。お子様の時間はおわりダ」

翔太は童顔だ。

年よりはるかに若く見えることはたしかだ。
  




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麻の腕輪/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-03 07:39:47 | Weblog
3

「だったら――。

なにか吸血鬼除けの。

秘策はないの」

「これは野州麻で編んだ腕輪。

これをいつもつけていてください」

翔太は紅白に染めた大麻繊維を三編にした腕環を。

おずおずと、さしだした。

「ああよかった。

実はこのまえ駅で別れるときにわたそうとしたのですが。

笑われそうではずかしかったから」

「心配してくれていたのね」

翔太には玲菜が姉のようにおもえた。

玲菜のあどけないほほえみをみていると。

姉ではなく。

恋人のようにおもえてきた。

ぼくは玲菜さんがすきになってきている。

いや、はじめて会ったときからトキメイテいた。

「野暮ったい腕輪なのに……。

玲菜さんがするとすてきですね」

白くすんなりとした玲菜のwristで。

大麻の腕輪は。

魔眼石の腕輪のように存在感があった。

魔眼石の腕輪は痺れから身を守る。

この大麻の腕輪は吸血鬼に噛まれても痺れず。

解毒する。

だいいち。

吸血鬼にだけ嗅ぎとることのできる。

麻と似たニオイがする。

吸血鬼は同族のものと錯覚する。

おそわれることそのものを。

防御できる。

こともあるのだ。

「神社の鈴縄も大麻なのです。

魔除けの麻を。

玄関先に置く習慣が。

むかしはこの地方には。

あったのですよ。

ほら麻縄の暖簾をさげるお店があるでしょう。

あれなんか魔除け。

そして幸福をよぶとおもわれているからですよ」

なにを、ぼくはいっいるんだ。

玲菜さんにきにいられようとしている。

「おもしろい。おもしろいわ」



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