田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

日光杉並木例弊使街道の散歩  麻屋与志夫

2010-01-04 07:58:42 | Weblog
1月4日 月曜日

●昨日の午後、急におもいたって日光例弊使街道への歩行を試みた。
始めてわたしのブログを訪ねてくださるかたには解説がいるだろうな。
わが家はこの街道沿いの街にある。
ひょいと歩きだしても、そこはすでに例弊使街道なのだ。
散歩と書かずに歩行としたのは、今日はすこしいつもより長い距離歩こうとおもいたった。
こういうとき、なんと書けばいいのだろうか。
長い散歩。
小さな旅とするには、旅の距離が少なすぎる。
だいたい、旅とは自宅を離れてよその土地へいくこと、と辞書にある。
やはり長い散歩というところなのだろう。

●戸張町の道路標識を見上げたら日光まで27Kとあった。
ところが御成橋町を過ぎ同名の橋をわたって直ぐの標識には18Kとなっていた。
おやおや、わずか10分ほどなのに9Kも歩いたことになるのかなと……考えて気がついた。
あとの標識は新しいから今市までの距離なのだろう。
今市が日光市と合併した後で立てられた標識なのだ。
きっと、そういうことだろう。
と些細なことにコダワル。
だいたい同伴者が松戸の娘のところにいっているから独り歩きだ。
こんなことはメッタニあることではない。
独りで頭の中で独語しながらさらに歩く。

●玉田町総合運動場と道端に粗末な朽ちかけた立て看板がでている。
一応、木を長方形に四枚打ちつけてあるのだが、なんとも鄙びたかんじがしてこのましかった。
興味をもったついでに街道からはそれるがおりてみた。
運動場とはただなばかり、河川敷をグランドのように整備してあるだけだった。
この川は黒川。
この上流の見野のあたりで行川が合流しているので渇水期にしては川幅いっぱいの流れとなっていた。
水深は膝のあたりまでなので釣り人がひとり流れの中央で釣り糸を垂れていた。
まったく動かない。
いいなぁ、あれこそわたしが決してすることはない挙措だ。
釣りをしたことはない。
じいっと、流れに釣り糸をたれている。
自然と一体になっている。
いいなぁ。
とまた独語。

●見上げると男体山、白根、赤薙の日光の峰々が雪をかぶっている。
とくに、男体山の雄姿がすばらしい。
カミサンがいないので写真をとることができない。
これはもう、どうしても写真がとれるように彼女に教わる必要があるな。
建物も電線も入らない、男体山の写真をとりに今度はカミサン同伴で来ようと。

●街道にもどる。
芭蕉の奥の細道の旅では、鹿沼に泊る、と曽良の随行日記にあるだけだ。
『奥の細道』では、
室の八島から日光の仏五左衛門の章へとつながる。
この間、この杉並木にはふれていない。
随行日記にも火バサミへ弐リ八丁としあるのみだ。
いまの文挟のことだ。
そこまで歩こうとしたがさすがに9Kほどの距離はキツイ。
それにこの並木の外側の歩道がどこまでつづいているのかも分からない。
歩道がなかったら、車の輻輳する道は危険で歩けない。

●斜めに差し込む午後の光が街道に落ちていた。
この斑模様の光の感じなど歩かなかったら味わえるものではない。
いつしか人は自然からかけはなれて、あくせくした生活をしている。
あまりの車の多さを横目で眺めながらおもっていた。

●道なかばで引き返す。
芭蕉が歩いたこの街道の杉並木はどの程度の樹形になっていたのだろうか。
昼なお暗い道を、とぼとぼとひきかえしながらアァンタジー作家らしくいろいろと空想してみた。

●この次は文挟まで歩きたいものだ。歩けるかな?


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初恋の白いバラ  麻屋与志夫

2010-01-01 20:23:02 | Weblog
五月の薫風にのって。
バラ園からは。
かぐわしい芳香がただよってきた。
ここは神代植物園だ。
 
彼女はまだこない。
「五月の第一金曜日に会いましょう」
そう……デートの日を決めていたのに。
彼女は現れない。
どうしてきてくれないのだろう。
もう少し待てば彼女は長い黒髪を風になびかせて颯爽と現れるはずだ。
温室の方角から来るだろうか。
藤棚の方からかな?
ああ、早く会いたい。
彼女とは二月ほど前にいちど会ったきりだった。

彼女はバラ園を眺めていた。
白いワンピースに真紅の細いベルトをしていた。
その後ろ姿を見ただけで彼の胸はサザナミをたててふるえた。
動悸がたかなるのを覚えた。
ヴイルヘルム・ハンマースホイの描いた女性。
後ろ姿のイーダ。
あの哀愁ある立ち姿だった。

襟足にほつれた髪が風にかすかにそよいでいた。
細い襟首から肩にかけてのカーブが。
しんなりとしていかにも女性的だった。
贅肉がまったくついていない。
若やいだ肩の稜線だった。
雨後のドラム缶。その上にできた狭小の池。
ハンマーでドラム缶の脇を叩く。
小さな池はこれまた小さなサザナミをたてて波頭がキラキラきらめいている。
ハンマースホイの女性を思い浮かべた。
音声による連想がハンマーにつながった。
空想のなかのハンマーがドラム缶を叩いた。
そして……かれの胸はその衝撃にふるえる。
どきどきする胸の鼓動をおさえる。
おもいきって声をかけた。
静寂をみだすことを恐れながら……。
「ばらの季節にきたらもっときれいでしょうね」
ふいに話しかけられて彼女はおどろいたようにふりかえった。
黒い瞳。
肌がきめ細かく白い。
頬をそめている。
「どんなバラがお好きですか」
澄んだよくとおる爽やかな声。
無視されるとおもっていた。
返事をしてもらえるとは期待していなかった。
「アイスバーグ。白い花がぼくはすきです」
「わたしもよ。小さなアパートのベランダで白いバラの鉢植えをそだてるのが夢なの」

会話がはずみ、いつしか二人は花にはまだ間のあるばら園の小道を歩いていた。
「ぼくは大きなバラ園を経営して毎日バラと話しながら過ごしたい。……そしてそこにあなたがいてくれたら」
もちろん会ったばかりの彼女に後のことばはいえなかった。
 
彼は見栄をはることはなかった。
彼女は裕福な家庭に育ち、逆シンデレラ願望にとらわれていた。
ビンボーな生活に憧れていたのだから。
彼は恵まれた生活をしているふりなどしないほうがよかったのだ。
細々としたパートタイムワークで食いつなぎ。
アパートの家賃をかろうじて払っている。
とイエバヨカッタのだ。

バラ園を作るのは誇張ではなく彼の夢だった。
でも、ぼくはようやくバラを捧げられるひとに会えました。
そういえば、よかったのだろうか。
とてもキザっぽくてそんなことはいえなかった。

でも、そういったからといって。
彼女は好意こそもち、彼を軽蔑するようなことはなかったろう。

彼の貧困生活こそ彼女の理想だったのに。
昼間でも部屋の中には。
薄っすらと闇がとどこうっているようなアパートで。
明るく夫を支えて健気な妻として生きること。
それが彼女のねがいだった。
裕福ではあるが父と母のように。
夫婦の間に距離のある家庭で生きることは――。
いやだった。
彼のはなしをきいているうちに彼女は少し落胆した。
でもなにかほのぼのとした心になっている。
だからもういちど会いましょうという彼のもうしでを。
拒むわけにはいかなかった。
いや、むしろ五月になるのを楽しみにているじぶんにおどろいていた。
 
でも家に帰った彼女をいやなサプライズがまっていた。
父が取引先の銀行の頭取の息子との結婚を独断できめてしまっていた。
「先方では……ニューヨークに転勤だ。おまえを連れて行きたいといっている」
「新婚生活をアメリカですごせるなんてうらやましいこと」
 
バラが見事に開花していた。
純白のアイスバーグも咲いている。
シティオブヨークのクリームがかった白い花弁も美しい。
彼はいま、彼女が。
ニューヨークで。
新婚生活をしていることを知らない。

彼女の面影を追い求めながら彼は待っていた。
彼女ははまだこない。
ああ会いたい。
彼女に会いたい。
名前すら聞きはぐった彼女。
たった一度しか会っていない彼女。
会いたい。
話したい。
ばらの話をしたい。
愛している。
一目でもいいから会いたい。
もういちどだけ。
もういちどだけ。
もういちどだけでもいいから。
会いたい。
会って話がしたい。
そうすれば。
そうできければ。
……イツシンダッテいい。
死ぬことなんか。
怖くない。
彼女に会えないほうが怖い。
死にたいほど……。
怖い。

あなたのことは昔から知っていたような気がする。
あなたのことをおもっているとこう胸のあたりがほのぼのとしてくる。
前世から知っていたのかもしれない。
愛している。
交際してください。
そしてぼくがきらいでなかったら結婚してください。
いまは、ビンボーだけれども。
あなたのために。
あなたをしあわせにするためなら。
粉骨砕身。
毎日一生懸命に働きます。
そう正直に告白する。
あなたのいない人生なんて。
かんがえられません。
ふたりでバラ園をつくりませんか。
ばらの花々にとりかこまれた家で。
あなたとぼくの子どもを育てませんか。

彼女はまだこない。
あなたにひとことだけ好きですと伝えたい。
それだけでもいい。
あなたのことを。
いちどだけしか会っていないあなたのことを。
死ぬほど好きな男がここにいます。
それだけでもいい。
それだけでもいいから彼女に伝えたい。
会いたい。

それからというもの、毎年五月の第一金曜日になると彼はバラ園にやってきた。
さいきんでは、記憶もあいまいになった。
五月でなくても一週目の金曜日には……。
いや体さえ許せば毎週、金曜日には。
いつも彼女の姿を求めてバラ園にきていた。

あれからも……ごく稀にであったが。
気立ての優しい女の子が彼の前にあらわれた。
心の優しい女の子が彼に声をかけることがあった。
「どうしてなの。どうしていつも独りでいるの」
「だれか好きなひとがいるの? わたしではだめなの」
そのつど、その女の子たちを彼はやりすごした。
そう、彼には待ちつづけている彼女がいた。

永遠の片思い――。
いちどだけ会った。
いちどだけこのバラ園の小道をあるきながら……。
会話をかわした彼女のことが忘れられずにいる。
彼は彼女をおもうことで……。
いつかかならずまた彼女に会える。
……というおもいがあった。
それを頼りに、人生の苦難をのりきることができた。
この歳まで生きてこられたのは、彼女との再会を夢みていたからだ……。
胸のおもいを彼女につたえたいという希望をもつことで……。
生きてこられたのだ。
彼女の姿はもう見られないかもしれたい。
……でも、彼女をおもうこころはかわらない。
姿は見ることができなくても。
彼女のイメージは消えることはない。
毎年、バラ園にばらが咲いている限り……。
彼女のことはわすれない。
彼女のことをおもいつづける。

「春になったら、あのヘンスに咲き乱れる蔓バラを見にきませんか」
だれかとそんな約束をしたような記憶がこころの隅にひっかかっている。
それほどの時間が過ぎてしまった。
それは誤って刺してしまったバラの棘のようにちくちくと記憶を刺激するのだった。
「そうね。『思いでベンチ』であいましょう」
彼と彼女の座ったベンチの背には。
そんな言葉が書かれていた。
ベンチにはそれぞれロマンチックな名前がついていた。

「思いでベンチであいましょう」

彼女はそう応えてくれたような気がする。
彼には遠い記憶の美化がはじまっていた。

来る年も、来る月も。
ほとんど毎日のように。
彼は彼女との再会を夢見てバラ園にかよいつめた。
彼女と過したあの一瞬のきらめきを。
もういちどだけでもいいから。
感じたかった。
彼女はマインド・バンパイァだったのかもしれない。
彼女をひとめ見たものは。
そのイメージが網膜にやきつき。
もう忘れられなくなる。
彼女にかしずき、彼女のよろこびが彼のよろこびとなる。
彼女のためならなんでもしてやりたい。
そのこころの高揚がさらに彼をよろこばせる。
ほかの女の子と知り合いたいとはおもわなかった。
それは熱烈なロゼリアンが。
自分だけの――。
世界でたったひとつのバラを。
つくりだそうという情熱に似ていた。
じぶんだけが初めて出会う。
このバラはわたしだけのものだという心情。
しかし、彼には彼女と再び会うチャンスは訪れなかった。
どんなに愛していても、会えない彼女をおもっていた。
彼女を待ちわびて、年月だけがとぶように過ぎていった。

ふいに何に驚いたのか鳩が。
羽音も高くとびたった。
少女がこちらに向かって走ってくる。
彼はうっとりと眺めていた。
ああ、やっと彼女に会えた。
彼女がきてくれた。
待っていてよかった。
あきらめないでよかった。
彼女がぼくに会いにきてくれた。
忘れたわけではなかったのだ。
待っていてよかった

「おかあさん」
少女が彼を抜けて走りさっていく。
少女が彼の体の中を通っていった。
彼はじぶんが透明な存在になっているのに気づいていない。

そのかなたに。
年老いた女性が。
バラのほほ笑みで。
こちらを見ている。

彼女は彼には気づかなかった。
だが、かれは走り去っていく少女の顔を。
老婆に重ねた。

年老いた彼女は……。
遠い昔……。
このバラ園で……。
ひとりの少年に会ったような記憶があった。
また……このバラ園で会う約束をした記憶があった。
バラの花壇にはシティオブヨークが咲いていた。
白いアイスバークが咲いていた。
彼女は40年におよぶニューヨークでの生活を。
かえりみていた。
もうひとつの、ほかの生活もあった。
それがどんな選択肢だったのか。
もうおもいだせない。
白いバラの花々。
とおいおもいでのなかに……。
薄れていくおもいでのなかで。
……だれかと……。
再会を約束しているわたし。
……だれと?
……。
どんな約束をしたの……。


いい顔しているな。
まるで初恋の彼女に会ったような顔をしている。
冷たくなっている老人の枕もと……。
といっても……、ベンチなので枕などあるわけがない。
一茎の白いバラが彼によりそっていた。
朝の光のなかで芳香をはなっていた。

     アイスバーク
       

       

       

                      pictured by 「猫と亭主とわたし




星の砂に載せたものを改訂しました。


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ガッツで生きる!!  麻屋与志夫

2010-01-01 07:38:46 | Weblog
1月1日 金曜日

●「Dynamite!! ~勇気のチカラ2009~」をみながら大晦日をすごした。

●そのためだろうか、素手で虎に挑むような徒歩で川をわたるような無謀なことがしたくなった。

●魔裟斗のラストマッチをみた。
勇気とgutsをもらった。
晴々としたいい顔をしていたな。

●石井慧のデビュ―戦。
こちらはなにか冴えなかった。
鼻を折って病院に直行したとPCのサイトでみた。
次回を期待したい。

●風呂で除夜の鐘をきいた。
すぐ近くに寺があるので胸に響くような鐘の音だった。

●今年こそ、いろいろな試みを小説の世界でやってみたい。
無謀といわずに、期待してください。



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暴虎馮河 麻屋与志夫

2010-01-01 06:49:46 | Weblog
明けましておめでとうございます。

●石橋を叩いても、渡らないような守りの人生をおくってきました。
田舎に住むと自然にとけこんでのんびりとします。
なにか、現実意識がうすらぎます。

●これでは小説家たるものいけませんよね。

●これからは都会に滞在する時間をふやそうと思います。

●暴虎馮河の日常を生きる。

●酒量も減り、午前様になったり、トラになって帰宅することはなくなりました。でも、老いぼれるにはまだはやすぎますよね。
年寄の冷や水などと笑われるかもしれません。
暴虎馮河を文学の世界で、小説の世界で実行します。
さてどんな一年になることでしょう。

●どうぞことしもファンタジー小説の世界でGAO GAOと天空にむかって吼えるGGの小説とブログをお楽しみください。

平成22年1月元旦


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