田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純、憑依されたの? /さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-23 14:19:21 | Weblog
27

GGとミイマは一枚ガラスの壁を背にした席にすわっている。
広いガラスの向こうに品川の高層ビル群が聳えている。
午後の陽を反射して無数の窓がきらめいている。
秋空に白い飛行雲が長い尾をひいている。

翔子は背後のドアの開く気配を感じなかった。
ガラスに人影がさした。
ポンと肩をたたかれた。
声がするまで翔子は呆然としていた。
なにか、リアルではない。
仮想空間でのことのようだ。
だがまちがいなく、懐かしい声がひびいてきた。
翔子はふりかえった。

「翔子、ただいま。羽田に一番のりだった」
国際線でニューヨークから飛んできたということらしい。
翔子は涙をこぼした。
父にしがみついた。
いくら泣いても涙がとまらない。
村上勝則、翔子の父は彼女をハグした姿勢でGGに会釈した。
「鹿沼のおじさん、おひさしとぶりです」
ミイマが静かに微笑んでいた。

藍色の闇がおとずれた。
「おとさん。ペンタゴン(アメリカ国防省)のVセクションの仕事ってすごいね。吸血鬼を近代的なメカで掃討している」
つもる話もおわろうとしていた。
翔子の携帯がなった。
「大変。純が病院からいなくなった」
「おれがいく」
父の運転する車にのった。
「純、どうしたのかしら」
「いってみなければわからない。うろたえるな」
「そんなこといわれても、心配だシ」
「そのシはやめなさい。耳障りだ」
「わあ。カンゲキ。おとうさんにしばらくぶりで叱られた」
翔子はベロリと舌をだした。
でも、そのつぎに父からでた言葉。――衝撃的だった。
「純は……憑依されているのかもしれない」



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烏瓜のミイラ/ 麻屋与志夫

2010-10-22 19:43:42 | Weblog
10月22日 金曜日

●カラスウリが色づいた。
風流な秋の風物のなかでもひと際、人の目を引くカラスウリ。
日ごとに熟柿色になっていくのをたのしんでいる。
ところが、今年はなんとしたことか、途中からしなびてしまった。

   

     

●さあ大変。
植物の生態系に異変がおきた。
とか、原因はことしの酷暑だ。
とか、庭の隅にあったキンモクセイの大木を切り倒した。
日照時間が長くなったからではないか。
などと、ひとりで気をもんでいる。

●日ごとに皺がよる。
色褪せていく。
そしていまではミイラのようにみえる。
やがて、小鳥が来てついばみ、皺だらけの皮だけがのこる。
からみついているハコネウズキの緑の葉も落ちつくす。
皺のよった、ひからびた皮だけのカラスウリが風にゆれる。
冬枯れの季節はすぐそこまで来ている。

●この秋はわが庭――ミイマの庭とよぶべきなのだろうな。
カミサンの庭でみごとにバラが咲いている。
秋のバラはながもちするので毎日たのしませてもらっている。
カミサンの日々の丹精の賜物だ。
ともかくバラの栽培がこんなに手間のかかるものだとはしらなかった。
狭小庭園。
だがたのしそうにバラの世話をしているカミサンを眺められてしあわせだ。

  ゴールドバニー
   

  イエローシンプリティ
   

  アンジェラ
   

●本当は水やりくらい手伝わなければいけないのだ。
老いていく妻をいたわらなければいけない。
でも、文学浪人のわたしは、なにか生き急いでいるようだ。
パソコンから離れられない。
文学に関連のあること以外で、時間をつぶしたくはない。
とまあ、モノグサの言い訳なのだろうが、なにもカミサンにはしてやれない。
してやらない。
――しない。

●カラスウリはなんの手間もかからない。
かってに実をつけて、いつのまにかしなびてミイラになる。
ものぐさなわたしが観賞するには万向きの秋の風物なのだろう。

●いや、しなびていく烏瓜が自分に見えてくる。

●カミサンはまだ庭でバラの葉の消毒をしている。

●秋の夕風がふきだした。そろそろ部屋にもどっておいでよ。




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ヤッラの目的は/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-22 14:09:06 | Weblog
26
 
でも、倒れた人狼、いやライダーの群れは――どうみても人間とかわりはない。
「これって街頭ロケか?」
「バカかおまえ。燃えてるのはほんものの校舎だ」
「じゃ、あそこでチャンバラしているオネエチャンは……なにやってる」
「だから、火事とチャンバラは別だ」
見物の人の群れからは勝手な批判がとんでいる。
しかたないかもしれない。
戦っている翔子たちもなにか現実感に乏しい。
校舎が燃えているのは確かだ。
人狼は鉤爪や鋭い牙で襲いかかってくる。
だが、野性の吠え声がない。
いままでの人狼とセクトがちがうのかしら。
斬り倒す。
あとかたもなく溶けてしまう。
死体がのこるよりも、このほうが恐怖をかきたてる。
溶解してしまうなんて、さすが妖怪だ。
といっても、シャレにもならない。

消防車が到着した。
翔子、百子、玲加の三人はうなずき合う。
この場から去ったほうが賢明だろう。 
 
GGとミイマが部屋に入ってきた。
全員そろっているのを見てうなずき合った。
いや、純だけがまだ病院だ。
「いままで起きてきたバトルを分析して奇妙なことに気がついた。
吸血鬼や人狼が突発的に人を襲っていたのは初期段階だった。
そのていどの小競り合いは、Vの出没は、わたしの故郷でも起きていた。
でも……この東京での、
このところのヤツラの動きはソシキだってきているようだ。
それにGGたちの世代とちがう。
いまの若者はゲームや映画、
テレビの特殊メイクで慣れている。
人狼や吸血鬼をみてもおどろかない。
メイクだとおもっている。
だからヤッラが平然と人にまぎれて街を歩いている。
ナイフで人を、人におそわせる。
そして血を吸っている」

ミイマがひきついだ。
「わたしも、長く生きているから(笑)わかるの。
かれらも進化している。
霊園の前で、テツとトオルの吸血鬼に説教たれたわたしが恥ずかしい。
かれらはとうに進化していたのよ。
なにか今までとちがった目的をもって動きだしているのよ」

それがわからないから……怖いの。
ヤツラの目的は? 翔子もミイマに同調しながら怖くなった。
純もまだ戦線に復帰していない。
純にSOSの連絡をいれて、
東京に呼び寄せてからなんど吸血鬼と戦ったことだろう。
その純が隣にいないからこんなに不安なのかしら。





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学園が燃えている/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-21 04:53:36 | Weblog
25

モニターの監視は百子の仲間、ヨシコに任せた。
ついてくるというのを説得するのがたいへんだった。

「わたしがハンドル握る。翔子、疲れているようだから」
「玲加。すごい。道路をなめるようにバイクが走っている」
「彼が、走り屋なの」
「えっ、それきいていないシ」
「翔子さん。きこえてますか。ボス(百子)のバイクは雑司ヶ谷霊園の手前でひきかえした。いまブクロの駅前。池袋学園のほうに向かってます」
「ヨシコ。サンキュウ」

ふいにバイクの轟音。
バイクの集団が学園の方角に疾走していく。
深夜なのでかなりトバシテいる。
玲加がハンドルをきる。
まきこまれないように路肩へよける。

「なによ!! あの幟!!! 暴走族なの」
「翔子。旗のロゴよんで」
「人狼」
「あいつらよ」
「どうやら、おもてだって動きだした」

学園の前の広場では。
……百子が戦っていた。
玲加はバイクをその戦いの渦の中心にのりいれた。
「ハァイ!! 百子。オマタセ」
「またないわよ。はやすぎ。わたしをつけてきたの」
「モニターでみてね」
「これってテロよ」
百子が顎で指す方角。
学園の校舎めがけて火炎瓶が投げこまれた。

「ファイアトラック呼ぶね。うちの校舎焼き打ちにあってる」

ナゼダ? 人狼や吸血鬼の恨みを学園が受けるはずがない。
わたしえの恨みを校舎にむけた。
そんなの逆恨みだわ。
また鬼切丸を抜く事態が起きる時おもっていなかった。
校舎からは警備員が現われた。
人狼の集団におそわれている。
「玲加。いくわよ」
翔子、百子、玲加。
美少女三人剣士が人狼の群れに斬りこんだ。

「ウチの学園になんてことするの!!! おやめなさい」
翔子の鬼切丸がキラメク。
人狼の腕がいっきに四本も夜空に飛んだ。
百子の忍び刀は動きがみえない。
刀もめだたない。
黒くそめられている。
そして黒装束。
百子のいくところ。
苦鳴が起きる。
絶叫がひびく。
人狼が倒れる。 



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風邪、ぶりかえしちゃった/麻屋与志夫

2010-10-20 22:21:01 | Weblog
10月20日

●風邪をぶりかえしてしまった。
快癒したものと判断した。
パブロンをのむのを止めた。
ところが翌日になってまた熱はでるし、鼻水もでる。
これではいけないと、またパブロンをのんだ。
いやになっちゃうな。
週末には孫の顔を見に上京する予定だったのに。
悔しいったらありゃしない。

●加齢による体力の低下などということは、ついぞ考えたこともない。
ブログの登稿時間をこの欄の右上をみて確かめてください。
深夜にいれることがおおいでしょう。
わたしはだいたい一日三時間くらいしか睡眠をとらないできました。
さすがに最近では、眠いときには一時間くらい午睡をとることがありますが。

●月曜から木曜日までは夜五時間ほど塾の黒板の前に立ちます。
英語と国語を教えているのですが、声をだし通しです。
この頃の学生は学習能力が身についていない。
大声で授業をすすめるので喉がカラカラになる。
手強い学生がおおい。
でもそれだけやりがいがあるというものです。

●授業が十時に終わってから食事、風呂(銀河鉄道の哲郎君とおなじ)は嫌い。
不潔!! とカミサンに叱られます。
たまには、週一くらいかな。

●それほどまでにして、時間を作り何をしているかというと、小説を書いています。
これが思うようにいかず、苦労しています。
月五百枚くらいは書いているかな。
このgooのブログに載せているのは仕事の五分の一くらいかな。
「さすらいの塾講師」もそうですが、ここでは第一稿をおもいきって、整合性などむしして書いています。
書きあげた原稿は後でなんども手を入れます。
これがまたたのしいのです。
じぶんの書いた原稿の誤りに気づくのは勉強になります。

●喉は痛むし、咳はでる。
今夜だけは早く就眠したいとおもいます。では御休みなさい。




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翔子、嫉妬する/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-20 08:33:42 | Weblog
24

深夜になっていた。
翔子はさびしかった。
いつもはいる純がいない。
いつも隣にいて話しかけてくる純がいない。
会話がない。
闇が東京の夜をおおっていた。
沈黙が夜の底にみちていた。

秋の気配が濃くなった。
虫の音をきくことができた。
翔子はひっそりと大森の道場への道を歩いていた。
なんども酔客とすれちがった。
いやらしい、ひやかしの声をかけられた。
品川の高層ビルにまだ明かりがついている。
まだ働いている人がいる。
都会は休みなく動いている。

「翔子、純はどうしているの? 」
玲加がモニター室から声とばした。
ここに寝ないも少女がいる。

「意識はもどったの。でもじぶんのいる場所が病院だってことが、わからないみたい。日名子さんは。日名子さんは、どうしたってツブヤキつづけている」
「それで翔子、元気がないのね。だいじょうぶだよ。すぐよくなるって」
「わたしのこと忘れないかな……」
「ショックによる記憶喪失。……そんなことあるわけないって」
「日名子の名前ばかりツブヤイテいるのよ」
「それって翔子、もしかしてjealousyかな?」
「ちがうわよ」
激しく翔子が否定する。
「あっこれ!!」
玲加がモニタのなかで移動する赤い点を指さした。
池袋方面に移動している。
「バイクね。百子よ。きっと、そうよ」
にわかに翔子が元気になる。



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死の誘惑/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-18 14:04:57 | Weblog
23

純は息をつめた。
息をしょうとしても、酸欠状態で苦しい。
どうせ苦しいのなら、息をつめて……このまま死神に身をゆだねてもいい。
投げやりなきもちになった。
こんなことは、純にとっとは経験したことのないことだった。

「そうだ。素直になってきた。わかってきたじゃないか。正義面して戦いつづけたところで、だれもほめてはくれない。賞賛してくれるものはいないんだよ」

悲観的なイメージばかりたてつづけに浮かんできた。

「死んだら。死んでみたら。おまえなんか死ね」

死神の声がひびいてくる。死へのあまい誘惑の言葉。
これは幻聴だ。
死ぬなんてことを考えたらだめだ。
最期の一瞬まで生きつづけるんだ。
ひとにほめられたくて、吸血鬼と戦っているわけではない。
これは、ぼくの天職だ。
ぼくらがやらなかったら、だれがやるのだ。
翔子の声がする。
翔子が呼んでいる。
「純。わたしを一人にしないで」
死神のことばに耳をかたむけるな。
幻聴をきくな。聴いてはだめだ。ダメだ。
聴けば、取りつかれてしまう。
息を吐け。
息を吸え。
息を吸いこんで、息を吐きだせ。
生きているということは、呼吸しているということだ。
自滅するなんて、不吉なことはもう考えるな。
翔子がいる。
翔子のために生きるのだ。
翔子とずっと一緒に生きるのだ。
愛するということは、いつも共に生きていきたいという感情だ。
翔子がいるのに、死ぬことを考えた。
ぼくはバカだ。
苦しくても死ぬなんてことを考えたらダメだ。
このとき純はミイマの鹿沼のバラ園をイメージした。
GGとミイマがバラに水をやるのを見た。
幸せな夫婦だった。
ぼくらも……翔子とあんな夫婦になりたい。
ああした歳の取り方も悪くはない。
このときだ。下のほうからあのひとがきたのは……。
ぼくらを押し上げてくれたのは。
ぼくらは時穴をもどることができた……。


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異界への入り口/麻屋与志夫

2010-10-17 18:47:57 | Weblog
10月17日
●ひさしぶりで、プログ。風邪をひいてしまい昨日は「さすらいの塾講師」は休んでしまった。きょうはだいぶ良くなった。あすからまた塾があるのでがんばらなくては……。そんなわけで、きょうの小説はごらんのようにすごく短い。
●そこですこしオシヤベリをしたくなった。
●このところ、郷里出身の作家がふたり他界した。田中文雄と立松和平だ。わたし個人としては田中文雄のほうが好きで、ほとんど全作品を読んでいる。すごい作家だった。だった、と過去形で語っていることが、いまだに信じられない。
●異形コレクション。などでの活躍はすばらしいものだった。その田中氏が、ともだちにいったそうだ。「どこかに異界への入り口があったら教えてください」
●その答えがここにある。あなたが通った宇都宮高校(小説では滝が原高校)から鹿沼にかけての場所に異界の扉が開けている。ここは、九尾の狐で有名な那須野が原の南端。むかしから怪奇な事件が起きている。宮崎駿雄幼少期をココで過ごしている。「千と千尋の神隠し」の火事のシーンは宇都宮の空襲を体験しているのでそのイメージで描いた。と、どこかで読んだ気がする。
●長坂にあるY病院の脇を流れる姿川にそって南下する野歩きをしたい。あのあたりは、歌枕がないから地霊がさわぎださないか、奈良の明日香に似ている。ずうっとさらに南下すれば下野の国分寺のほうまでつづいてている。道鏡のなくなった薬師寺なんかもいってみたいな。とまあ、元気になったので夢がひろがります。
●地霊がさわがない? いや白昼このあたりの野歩きをしているとけっこう、いろいろなことを幻視できます。怖いですよ。それには歴女ならぬ、歴史男にでもなるつもりで古事を勉強しなければね。
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純、死なないで/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-17 17:47:31 | Weblog
22

耳もとで、死神の声がしていた。
純は少女をかかえたまま、なすすべもなく堕ちつづけていた。

「お迎えに来ました。迎えに来たよ。お迎えですよ」
どんなひかえめな表現をされても同じことだ。
「死ね!!」と大きな収穫鎌をふりあげられたほうが、気が楽だ。
それにわかりやすい。

あれは臨死体験だった。
あのまま時空のスリットを堕ちていけば、死霊にとりつかれていたろう。

腕の中の少女が重かった。

翔子の声がしていた。
……純、死なないで。
わたしを独りにしないで。
一人にしないで。
ひとりにしないで。 


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時穴からもどれた/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-15 05:23:41 | Weblog
21

純は部屋に飛びこんだ。
壁から少女の上半身か生えていた。
いや、壁に引き込まれている。
壁に食われているように見える。
「助けて」日名子であるはずの少女がか細い声で訴えた。
「日名子さんか?」
「はやく。助けて」
純は彼女の両手をにぎった。
一瞬、壁が大きく裂けた。
ふたりは壁にのみこまれた。
ぬらぬらしたものが、体にへばりついてくる。
不愉快だ。
気持ち悪い。
オゾマシサに全身が戦慄した。
物凄い速さで吸い込まれていく。
いや堕ちていくようだ。
日名子は静かだ。
失神してしまっているようだ。
闇の中で声がした。
「だれだ。そこに来たのはだれだ」
闇に仄かな光がさした。
川音が起きた。
ぼくは死ぬのか? 
死ぬのか??
川は、三途の川か。
アケロン河か。
今聞いたのは渡し守、カロンの声か。

「おお、美魔のところの若者か。まだここはお前の通過できるところではない。この時穴はおまえでは通過できない。ほんとうに死ぬぞ」
がっちりと体を受け止められた。
そしていまきた亞空間を引き返した。

「ちがうんだ。ぼくはこのヒトに助けられた」     

それだけ翔子に伝えるのがやっとだった。
意識がモウロウとなった。
どこかへ運ばれていく。
救急病院だろう。
翔子がなにか語りかけている。
暗黒に吸いこまれる感覚がまだある。
あのオゾマシイべたついてきた粘液性の感覚。
肌が覚えている。
憎しみが含まれていた。
あのねばねばした物質。
純は慄き、恐怖からぬけだせないでいる。


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