田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純はFFのソルジャーじゃないシ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-14 05:00:38 | Weblog
20
 
翔子と百子、そしてクノイチの美少女剣士がFを取り囲んだ。
翔子はさらにFに斬りかかろうとした。
「ちがうんだ。ぼくはこのヒトに助けられた」
体についた青い粘液を拭う。
まるで羊水のなかから生まれたようだ。
純がその動作をくりかえす。
そしてやっと声を出した。
 
だれがそんなことを想像したろう。
「アケロン川にさしかかっていたようだった。ぼくはダンテの描く辺獄をどこまでも堕ちていくような感覚にとらわれていた。だれかがぼくを押し上げてくれた。それがこのひとだった。三途の川の渡し守、カロンかと思ったが、ちがっていた」
「純。FF7のヤリスギじゃないの。純は、神羅のソルジャーじゃないシ」
そこまでいうと翔子はゲキ泣き、爆ナキ。
百子がそんな翔子をハグして「よかったね。よかったね」とくりかえす。
「わたしも……よかった。信行が……」
「いや、わたしは鬼軍団の、Q――吸血鬼軍団の雇われ軍師だ」
「美魔と敵対関係にある側に属している」
「それでも……Fが血を啜っているのでなければ、うれしい」
「おう。純は神羅のソルジャー。かっこいいネ」
と紅子がマジで純に拍手。

これはFF7のワールドだとヤング。一斉に純に拍手をおくっているクノイチガールズ。
ミイマはダンテの神曲を想った。
信行はFと呼びかけられてとまどっていた。
FF7の世界。
などという言葉にいったっては――カオスの世界に突き落とされたも同然だった。
もつとも蘇生して間もない信行。RPGをしらなくても、ムリはない。

救急車がきた。日名子には翔子と純がつきそった。
いや純も診察の必要があるだろう。
緊張がとけると虚ろな顔になる。
なにを翔子がはなしかけても、顔の表情に変化がない。
PTSDが心配だ。臨死体験からよみがえったのだ。
「純」
翔子は呼びかけた。そっと彼の手をにぎった。
わたしたち……いつも普通でない場所にいる。
……愛してる。愛してるよ。純。

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スリットから現れたのは/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-13 03:56:53 | Weblog
19

「昔は、人のいない場所に異次元スリットが開いたのにね」
玲加との携帯を切るとミイマがいった。
土蜘蛛は百地組のクノイチと紅子に追い立てられ全滅した。
不思議なことに倒れると青い煙となって消えてしまう。
後には嘔吐をもよおす臭気がのこった。
「大江山とか、京都の鞍馬山。鹿沼の古峯神社。鬼やテングはそういうところへ異界からスリットをとおってやってきた。それが都会の繁華街のビルにスリットが出来るとはね、おどろきよ。都会に妖気が満ちているわけね」
ミイマは奥の壁に向かって朗々と般若心経を唱えはじめた。
翔子もなにがなんだかわからないが、ミイマに和した。
壁が震えている。
キーンと金属音をたてはじめた。
翔子と純が街できいた音だ。
ふたりをこのビルに導いた音だ。
なにが起きるのだろう。
こんなことをしていて、純をとりもどすことができるの? 
壁にはラップ音がひびく。
トントンと打音がする。
音に合わせて壁に亀裂が走る。
ぐぐっと上下にスリットは広がる。
スリットから流れ出る暗黒の渦。
異界の妖気がそのスリットから吹き寄せてくる。
ラップ音が速くなる。
そして、異界の眠りから覚めたものがうごめきでた。
赤く輝く双眸。
まさに、憎悪と怨念を秘めた両眼。
鬼のものだ。
吸血鬼のものだ。
怨念のために鬼と化したものの目だ。
この世に恨みのあるものの顔だ。
スリットから純の気が漏れてくる。
純だ。
純だ。
純の気が感じられる。
喜びの戦慄が翔子の全身を震わせた。
「純!!!」
翔子はスリットにかけこもうとした。
百子に止められた。
純が生きている。
純がいきている証明ともなる気がさらに強くなる。
ミイマの読経が高らかにひびく。
純が転げでた。
ジーンズの少女を片手で抱えている。
日名子だ。
「純!!! 日名子センパイ」
翔子が純の背後に迫った鬼に腕を斬りおとす。
鬼が咆哮する。
部屋全体が震えた。
「キツイ女子だ」
斬り落とされた腕をひろいあげた。
切断面にぴったりとつける。
みるまに皮膚が再生した。
薄い紅色の切り口もきえていく。
そして形体も……。北面の武士。
「やはりあなたでしたか。信行さま」

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純が消えた/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-12 00:04:44 | Weblog
18

「ありがとう。はやかったわね」
「わたしたちは、パトロールしていたの。自警団があるのよ。百子からメールが来たの。ボスはいまバイクで大森からかけつける。さあ土蜘蛛さん。あんたらの相手は百地組よ」
 タノモシイ味方が続々駆けつけてくれた。
 わたしたちだけではない。
 このわたしたちの生きる社会に害をなすものと戦う正義感のつよいヤング。
 わたしたちだけではない。
 うれしさに涙ぐむ。
 痛む足をひきずりながらドアを押す。
 開かない。
 紅子がどこかに向かって大声を上げる。
「芝ちゃん。隣の部屋へ窓からはいって」
 ばさっと黒い羽根が窓の外に影をなげかけた。
 ガラスの割れる音。
 ドアが向こう側から開いた。
「純!!!」
 叫びながら飛びこんだ隣室。
 がらんとした空き部屋だった。
 純がいない。
 まちがいなくこの部屋に突入した。
 それなのに……??? 純がいない。
 部屋がきゅうに冷えた。
 いや翔子が震えていた。
 純が消えた。
 悪寒がする。
 不安と恐怖。
 純、どこなの。
 返事して。
 応えて。
 部屋からは、凶念。害意。悪意。殺意すら感じる。
 でもだれもいない。
 ほかに出口はない。
 耳をすましても純のいる気配すらない。
 恐れてあたりを見回してもやはり……誰もいない。
 この部屋には誰もいない。
「純。どこなの。どこにいるの。わたしを独りにしないで。純」
 翔子は足を引きずりながら部屋のなかをくまなく探す。
 あのとき一緒にこの部屋に飛びこめばよかった。
 純はどこに消えてはしまったのだ。
 焦燥のあまり翔子は泣きだしていた。
 純、がいない。
 純、が消えた。
 絶望的な不安が翔子を襲う。
 暗く致命的な不安にさいなまれる。
 純ともう会えなかったら……。
 純が死んでいたら……。
 わたしも生きていられない。
 幼いころからの純との思い出が、
たのしかった記憶が一気に翔子のなかでよみがえる。
「ああ、純、純、どこにいるの」
「異世界への裂け目がひらいたのね。そう思えば信行の現われたことも、土蜘蛛のことも解釈がきる」
 駆けつけて――部屋の隅々を検証したミイマがいう。
 駆けつけたミイマが静かに言う。
 なにか思い当ることあるのか。
 百子、と翔子にささやきかける。
「あわてないで……。わたしがなんとかする」
 ミイマは携帯を開く。
「玲加。聞こえる。異世界スリットで検索してみて」


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翔子、ヤバイ!!/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-11 03:29:09 | Weblog
17

翔子は壁際まで追い詰められた。
土蜘蛛のあやつる三節棍はヒュヒュと風をきって襲ってくる。
太刀の打ち込みとはちがう。
太刀は直線的だ。
三節棍は曲線的。
あるいは半円形に迫ってくる。
かわすのは困難だ。
そして低い位置からその棍はくりだされる。
鬼切丸が健気にもそれを受けている。
翔子は必死でドアのほうに移動した。
背中には壁が冷酷にそびえている。
「純!! おねがい、開けて。純どうしたの」
いくらドアで塞がれてるとはいえ、静かすぎる。
ヒトの気配が伝わってこない。
隣室に潜んでいた土蜘蛛は全員ここにいるというのか!?

やっとドアにたどりついた。
叩く。叩く。叩く。
「純――!!!」
語尾か絶叫となった。
脚が折れたかも。
棍がまともにヒットした。
ドアをたたくために右手を柄からはなした。
それがまずかった。
棍の打ち込みを受けた。
受けるのは受けた。
だが……力が足りなかった。
ヨロケタ。
翔子の頭上に棍がふりおろされた。
バシャと音がした。
棍がはね返されていた。
「お久しぶり。ショウコ」
ルーマニヤ・バンパイアの紅子が翔子をかばっていた。
「紅子」
「歌舞伎町にはいつもいるの。きようなんかすごく楽しかった」
翔子の気配を感じたのだという。
紅子のほほが赤い。酔っているようだ。
「飲んだの」
「ナイフの刺殺魔のオコボレだから、ゆるして翔子」
「助けにきてくれて、ありがとう」
「翔子。傷ついてる。かわいそう。あんたら許さない」
紅子の口が耳までさけた。
犬歯がニョキッとせりだした。
目が赤ひかっている。
土蜘蛛がそのすさまじい形相にたじろぐ。
そこへさらに、百子の配下のクノイチが雪崩れこんできた。
「翔子。遅れて、ごめん」


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純!!ドアを開けて/すらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-10 15:29:44 | Weblog
16

神武天皇即位前紀の土蜘蛛族が現われるなんてどうしてなのだ。
だれかが、Fをこの平成の御代に召喚した。
おそらく藤原氏は大和に侵攻した神武天皇と行動を共にしていた。
学校の歴史で教わるより古くから天皇家とかかわっていたのだろう。
「土蜘蛛よ! おまえらは、藤原信行とともに召喚されたのか!? Fはどこだ……???」
純の胸のあたりまでしかない。
土蜘蛛の目が赤くひかっている。
もちろん、純の問いかけに応答はない。
棒。ヌンチャック。三節棍で襲いかかってきた。
棒はともかく、三節棍にいたっては現世ではじめて手にした武器だろう。
喜々として振り回している。
叩かれれば骨折する。
急所に当たれば生命にかかわる。
「翔子! 情ムヨウ!! 切り抜けるぞ!!!」
純はこの期に及んでも、隣の部屋に進もうとしている。
まだ女の声が聞こえてくる。
「三年A組の日名子センパイですか?」
「桜組よ、桜組の小山田日名子。助けて」
「ほんものよ。うちにはA組なんて無粋な呼び名のクラスはないの」
棒をよけて純が振るった鬼切丸がキーンと鋭い音をたてた。
「木製ではない。刀だ。刃のついてない太刀と思え」
まさに金属製。
金属音。叩かれたら死ぬ。
いくら切り捨てても限がない。
夥しい土蜘蛛の数はへらない。
純と翔子は何か所か金属棒で叩かれた。
息も上っている。
「純。むりよ。これ以上先に進めない」
「まだだ」
純が跳躍した。
土蜘蛛の肩や頭を踏で進む。
隣室に飛びこんだ。
パタンとドアが閉まった。
純と翔子は分断された。
「純!!」
翔子は土蜘蛛を斬り伏せながら純のあとを追う。
密閉されたドアになかなか近付けない。
「純!! 開けて。純」


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敵は土蜘蛛よ!!/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-09 01:17:37 | Weblog
15 

「GGにはリリパッド忍者、穴山小助の話は耳新しかったでしょうね。でも、わたしいま大変なことに気づいた。さらに古い、古事をおもいだしたわ。玲加、日本書紀巻第三、神武天皇の欄を検索してモニターに映して」
 GG、百子、玲加がモニターの文字にくいいるように読む。
「土蜘蛛か!! 聞いたことあるわ」と百子。
「ひきひと、侏儒って何? わかんない」と玲加。
「ヒキはヒキナリ(低いの意)なの。だから小人っことよ」とミイマ。
「これはマックス危険ね」
 ミイマし若やいだ表現を使った。
けっしてハシャイデいるわけではない。
彼女の古い記憶が役立ったことを喜んでいるわけでもない。
顔が蒼くなった。

純と翔子は声のする方へ、隣の部屋に進もうとする。
奥の扉に進む。
黒装束の忍びがおしよせてくる。
翔子の携帯がなった。
「翔子! ムリしないで。日名子さんを連れ去ったのは土蜘蛛よ!!! いまどこ」
「そいっら、いまわたしたちの前にわいてでた」
「純。土蜘蛛だって」
「了解」
「純。わかってるの」
「翔子。ぼくの専攻は万葉集だ……、でも、日本書紀も読んでる。こいつらを攻略したら、講義してやる。神武天皇即位前紀 己未年二月の条にでてくる小人だ」
「了解。たのしみだわ」
 強敵に取囲まれても、メゲナイ翔子だった。



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忍者の隠れ家/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-08 05:46:06 | Weblog
14

 すれちがうひとびと!
 とくに酔客。
 ギラギラした顔だ。
 いらいらした視線をなげかけてくる。
 でもかれらは酔って感覚が鈍くなっているからしあわせだ。
 わたしは……
 怖い。
 いままで純とふたりでとてもたのしかったのに。
 ――乗っ取られそうだ。
 わたしがわたしでなくなっていく。
 兇暴な音波攻撃。
 キーンという金属音。
 みみのなかに、だれか入りこんでくる。
 わたしはなにか怪しい、異なるものに取りつかれている。
 乗り移られそうだ。
 だれかいっていた。
 アキバの刺殺魔だったかしら。
 悪魔の声が聞こえた。
 悪魔に命令されてヤッタ。
 そんなことは……裁判員は認めないだろう。
 でもわたしにも聞こえる。
 いまならわかる。
 彼のいってたことが、
 本当だったのだ。
 拒まなければならない言葉。
 意識。
 憑かれそうで怖い。
 ――純、助けて。
「翔子。鬼切丸の柄を握れ。鬼切丸に祈るんだ」
 見れば!!!
 純は鬼切丸を左手に持ち暗い階段を上っていく。
 エビ通りの外れだ。
 香ばしいエビを焼く匂い。
 この雑居ビルにまで入り込んできている。
 周りにはまだ浮遊霊。
 こちらをうらめしそうににらんでいる。
 あの霊たちも、悪魔にみいられている。
 純が異常なしと認めたのか!!
 薄汚れた木製のドアを開く。
 花火でも調合しているような机上の道具。
 機材。
 粉末の臭い。
 ここだぁ?! 
 ここにちがいない。
 翔子は偶然あのしかけられた爆薬の製造現場を見つけた。
 いやちがう。
 わしたち導かれている。
 誘われている。
 危険危険危険。
 奥の扉が開いた。
「よく来たね。待ってたよ」
 小学生。
 だ。
 くろの学生服を着ている。
 いや、ちがうよね、純。
 あれは忍者の黒装束。
 リリパッドの忍者の巣窟にいる。
 わたしと純。
 不穏分子のアジトを発見。
 そして、隣の部屋からはカボソイ悲鳴。


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浮かび漂う霊/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-07 07:01:55 | Weblog
13

いつもの夜とちがう。
テレビでは死傷者85名と発表していた。死者は8名。
重傷者がいるからまだ増えるらしい。
歌舞伎町には人があふれている。
だがいつもの活気はとりもどしていない。
歌舞伎町スクエアに集まるダーティゾーンに生息する外国人たちも冴えない顔をしている。刺殺魔がふりまいた恐怖を媒体として悪意が渦をまいている。
「怖い世の中になったわね」
けっして怖がっていない声で翔子が純にはなしかける。
純とふたりなのでうれしそうだ。
「純といれば怖いものなし。わたしたちのコンビは無敵よ」
「そうでもないと思う。この世の中ぼくらの知らないところに、なにが潜んでいるかわからない」
「わたしは純といっしょだったらいつでも死ねるよ」
「それはぼくもおなじだ。翔子から連絡もらったとき、うれしかった。これからは翔子のそばにずっといっしょにいたい」
「うれしい」
「どこにもいかない。翔子のそばにいる。そうおもうと胸があつくなった」
「うれしいシ」
悪意の渦がリアルになった。
悪意の渦が……とは修辞の上でのこと、
言葉でそう表現していただけなのに――見えた。
「ね――」
「あっ」
ふたりで声をだした。
ふたりで言葉がつまった。
「見えた」
「見たのか」
またふたりして絶句した。
渦が白くすけて実体化した。
いくつもの渦が中空に浮いていた。漂っていた。
「シャボン玉みたい」
ても、その浮かび漂っている渦はシャボン玉みたいなロマンチックなものではなかった。
渦はヒトの顔にみえた。
新しくは今日ここで刺殺されたひとたちだ。
古くはこの街に呑みこまれ青春の夢をいだいたまま死んでいった、
成仏できないでいる若者たちの魂なのだろう。
「かわいそう……」
「どうして、いままで感じるだけで見えなかったのだ」
「わたしたちは、あまりハッピーになってはいけないのよ。わたしたちが幸せを感じるとあのひとたちを刺激する。あまり幸せになれないで死んでいったひとたちに嫉妬されるのだと翔子テキには思う」

翔子は両手をあわせた。

おびただしい渦が集まってきた。
ブアンとふるえている。
ビーと振動している。
「これよ。この波動だわ。なにか邪悪な念波がどこからか放射されている」
渦はにごってきた。
渦には兇暴な行動を誘発するような、
ひとをナイフで傷つけたいような思いの粒子でできていた。
『刺せ。あいつらを刺し殺せ!! やれ!!!』
翔子はみみをおおった。
純が走りだした。
念波の発信源をたどっている。
純はどこからこの悪意が発信されているのか――わかったのだ。
 
 
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血の臭う街/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-06 09:07:29 | Weblog
12

秋の夜の、さわやかな冷気が肌にここちよい街。
秋の月を、みあげて恋を語る季節。
 それなのに、街には血の匂いがまだこもっていた。
 季節はすでに寒々とした寒気に支配されていた。
 そして街は新宿、歌舞伎町。
 凶刃をふるった若者は逮捕された。逃亡した者もいた。
「あのままここにいれば、なんにんかの命は助けられた」
「まだ殺気がみなぎっている」
 翔子が純を見あげている。
 ふたりは歌舞伎町にもどってきていた。
 ふたりのいくところ、いつも血の臭いがしている。

 そして、日本の夜の街では――。
 凶刃をかざしてひとを刺殺しようとする者が――。
 確実にふえている。
 神戸で女友だちをかばって「逃げろ」と叫んだ高校生がいた。
 刺殺された。ふたりはまだそれはしらない。

「わたしと純……デートできる日がくるといいわね」
「いまでも、こうしてふたりだけだ」
「でも血の渦の中にいるみたいシ」
「ぼくらは闇と真っ向勝負をする世界にいる。邪悪なものと戦う運命なのだから」
「わかっている。わかっている。でもすこしはロマンチックなデートしたいシ」
 翔子と純。ふたりはいつしか手をつなぎ血臭の街を歩いている。
 のんびりとそぞろ歩きをたのしんでいるわけではない。
「昭和には、世界は二人のためにある。……なんて歌い上げられていたが、いまは暗い時代なんだ」
「だからこそ、愛が必要なのよ」
「だろうな……」
 ふつうの家庭ならもう眠っている頃だが、ここは新宿歌舞伎町、夜のない街だ。
 すれ違う人々の顔には不安の影がある。
 不安におののきながらも、刺激をもとめてさまよっている。
 刺されて、次々と倒れた人々。まだ翔子の脳裡に焼き付いている。
「やはりミイマの元彼Fのやっていることなのかしら」
「どういう関係だったか、ミイマには訊けない。古傷をつつくようで、聞けないよな」
「ミイマのことだ。万葉のころだったろうからロマンチックな恋だったのでしょうね」
 ロマンチックという言葉にこだわる翔子だった。

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リリバット忍軍/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-05 03:08:48 | Weblog
11

大森の道場にもどった。
9時を少しまわっていた。
出かけた時には、ミイマ&GG、翔子、玲加、百子、と純の6人だった。
GGのイマ―ヂェンスイ・コール(緊急呼び出し)に応じた「アサヤ塾」のOB。
道場までついてきた。その数、15名。
塾を創設したころから社会正義を訴えかけてきた。
昭和の『松下村塾』を目指していただけに、この協力はうれしかった。

家電の量販店を経営するKが社員を動員した。
薄型のモニタースクリーンを設置している。
外部から入る情報をここで受けられるようにしている。
まるで捜査本部が移ってきたようだ。
刻々とかわる状況を警察で知らせてくれるわけがない。

ミイマが全てを統括して、指令はGGが出す。
そうした体制が自然とできあがった。
「GG! あたいたいへんなことに気づいたよ」
卒業生と近況の交換をしていたGGのところへ、百子が飛び込んできた。
ドアを閉めるのもわすれている。
みんなが、百子を注視する。
顔を赤らめた百子の話は……。
「伊賀の里に、いまも細々と命脈をつないでいる忍軍のなかに『リリバット』いうセクトがあるの。小兵なので忍者としては狭いところに潜入できる。あまり目立たない。けっこう重宝がられている。真田忍軍の穴山小助なんてこの手の忍びの者だったといわれているの。探してみると体の小さいことを表している忍者は大勢いるの。だから日名子さんについていた小学生のような男の子はあるいは、リリパットかなって……思ったの」
「ばじめて、聞く話だ。その線で追ってみよう」
 

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