田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

脱ぎ捨てられたドレス/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-04 01:09:43 | Weblog
10
 クノイチ・ガールズの携帯が鳴った。
 宵の街。ネオン街を歩いていたKG。
 就職活動の、大学、高校、中学受験の勉強中だったガールズは、
待ってましたとばかり部屋を飛び出した。
 百子からの緊急連絡は渋谷でヒト探しをしている。
 写メールで送られてきた。副総理の娘、日名子の顔写真が添付されていた。
 この少女をみかけたら連絡乞う。それだけだった。
 
 電球の目まぐるしく点滅する看板の多い。繁華街。
 いっぱい機嫌でほろ酔いのおぼつかない男女が開いた携帯。
『アサヤ塾』卒業生への緊急回路だった。
 もし助けが必要な時は――と言って登録してある。
 メッタに連絡のはいらないGGからのものだ。
 彼らはGGが東京にいるのをはじめて知った。
 
 翔子からの連絡。
 玲加からの連絡。
 ミイマからの神代一族への連絡。
 純からの連絡。
 
 円山町の階段の中途で立ち止まったGGたちの連絡網が一斉に開いた。
「百ちゃん。わたし由香。いま百軒店にいる。合流するけど……パーテイドレス着替えているコ、みたよ」
 走ってくる息。街の騒音。女の子のけばけばしい叫び声。が混入している中で、元気な声がひびいている。
 指定された場所に移動した百子を待っていた由香がドレスを指差していた。
 まるで脱皮したような脱ぎ方だ。
 ドレスを着ていた日名子の体温がまだのこっているようだ。
 GGは別れたばかりの公安の堀田刑事に早速携帯をした。
「だってさぁ。おかしなことするとおもったんだ。ここでジーンズにはき替えていたよ」
「まちがいない。日名子さんよ。連れはいなかった」
「いたよ。小学生だったかな」


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今度こそ怪談ダァ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-03 05:09:21 | Weblog
9

「この子、こなかった?」
 日名子の顔写真を見せる。
 翔子が学校のアルバムから引きのばしたものだ。
「ぼく夜からのシフで、かわったばかりだから」
「だれかわかる人いない」
 返事はもどってこない。
 パーテイドレスをきていたの。
 と翔子がまだ押している。

 赤と緑のシェイドの縞模様は進め、止まれのシグナルを連想させた。
 GGは緑色を見つめた。
 進めだ。
 翔子たちにつづいて店内に入った。
 円山町に隣接しているのに。
 ここに澄ました感じの名曲喫茶がある。
 ライオンがある。
 昔のままのたたずまい。
 GGはほっとした。
 ノスタルジーにかられた。
 だが、店内はヤングのふたり連れ。
 あたりまえのことだが。
 当然のことだが。
 GGはそれらの客のなかで異質だった。
「このひと、見ませんでした」
 レジで支払いをすませたふたり連れ。
 翔子がまだネバっている。
 迷惑をかけたので、GGだけのこって席に着いた。
「あのう。ぼくパーテイドレスの女の子ならみましたよ」
 通路を挟んで隣の席の男が声をかけてきた。
 翔子がレジで訊いていたときに入店したオタク風の男だ。
「ありがとう。これでなにか飲んで」
 GGは万札だす。
 遠慮するのに押しつけた。
 店外に走り出る。
 男が追いかけてきた。
「場所、案内しますよ」
 円山町の方面に歩きだした。
「ここです」
 古びた苔の生えているような石段の下だった。
 きらびやかなネオンがまぶしい。
「ありがとう」
 ネオンから脇の男に目をもどすと誰もいない。

「GG……。だれとはなしているの」

 階段だ。 怪談だぁ。
 今度こそ怪談ダァ。
  

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妖霧の中のGG/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-02 04:53:05 | Weblog
8

 京浜東北を品川で降りた。山手線に乗り換えて渋谷を目指した。
 大崎をすぎたあたりでGGは気づいた。
「やけに乗客がすくないな。退社ラッシュはとうに過ぎているからといって、これは異常だ」
「ねえ!! 五反田で止まらなかったよ」
 と翔子が憑かれたようにいう。怪奇なことが起きている。
 翔子だけだ。GGのことばに反応したのは。
 いやちがう。翔子も口パクをしているだけかもしれない。
 翔子がいま確かに口にしたらしい言葉もとおのいてしまう。
 なにかおかしい。
 揺らいでいる。ゆれている。
 ズレテいる。地滑りがおきている。
 ねじれている。逆円錐形のトルネードが発生した。
 失楽園だ。堕天使だ。地獄に巻き込まれる。
 現実にゆらぎ、ずれ、ねじれがはじまっている。
 疲れている。刑事の質問に応答した。初動捜査に協力させられた。
 疲れている。爆発さわぎ。
 後になって判明した。副総理のお嬢さん日名子の拉致?
 誘拐? 
 それとも失踪? ……についてまるで訊問のような会話がつづいた。
 警察でも、実体がとらえられないで困っていた。
 この事件の『何のために』という動機がわかっていないみたいだ。
 おれにだってわからない。
 1、何人が(犯人)
 2、何人と共に(共犯者)
 3、何時に(犯行日時)
 4、何処で(場所)
 5、何人に対して(被害者)
 6、何故に(動機)
 7、どうして(犯行手段)
 8、何をしたか(結果)
 刑事から受けた犯罪捜査の『八何の原則』が脳裡に浮かんだ。
 3と4と5と7。
 しかわかっていないではないか。
 それだって、曖昧、不分明なところがある。
 われわれ被害者の側にも、被害をうけた理由がわからないのだ。
 単なる『愉快犯』であるはずがない。
 目黒でも止まらない。
 恵比寿でも。
 いきなり渋谷の道玄坂をのぼっていた。
 むかし『恋文横丁』ここにありき。
 なんだか、頭が、怪しくなっている。
 道玄坂の階段。坂だから階段なんて連想は怪しい。
 それなら怪談くらいにしたら。道玄坂に階段はない。
 これは怪談だ。なにか怪しいことが突発している。
 いや――怪しくなっているのは――おれの頭だ。
 濃霧の中を歩いているようだ。
 妖霧の中にいるような感覚に支配されている……。
「あなた」なんだよ。急にあらたまって。
「あなた……。むかしふたりで通った『ライオン』ですよ」
 そんなバカな。ミイマと会ったのは故郷鹿沼だった。
 名曲喫茶『ライオン』でデートした覚えはない。
 やはりおれは頭が怪しくなっている。
「あなた……」
「GG――」
 GGGGGGGGGGGGGGGG。目覚ましみたいだ。
「いま何時だ、いや、ここはどこだ」
「やっと気づいたのね」
「GG。どうしたの? 悪い夢をみていたみたい」
 と翔子が心配している。
 あどけなく頭を傾げている。
 傾斜しているのは、おれの足もとだ。
 意識がはっきりとしてきた。
 おおお……、とおれは、言葉がすぐにはでない。
 おれはまちがった想念にとりこまれていた。
 おおお。は――数字変換では666なのだ。悪魔の数字だ。
 まちがった想念の行きつく先は……。
 おれは、リバイヤサンの顕現に、ヨハネの黙示録の巨大怪獣の出現に立ち会っているのか。世の天変地異、巨大なる反作用が起きることに直面しているのか。注。詳細は「サタンの思想」を検索してください――作者。
 連続して、起きるという悪魔の所業のあと二つは、偽教団を使って、真実の教えを説かんとする救世の法を迫害すること。そして、人々の心に不信感を広げて、各地に戦争を起こすこと。

 T国との領土問題。検事の不正行為。……悪魔の胎動だ!!!
 不信感が広がっている。それをマスコミが煽る。

 おれは坂の上にたっていた。
 坂の上の雲でなく、坂の上のおれ、だぁ!!!
 おれは、ライオンのまえで固まっていた。
 ライオンの窓のシェイドが赤、みどりに光っていた。
 
注 『八何の原則』については島田一男『捜査本部』を参考にしました。





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渋谷道玄坂の怪/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-01 05:37:46 | Weblog
7

夜更けて雨になった。
霧雨だった。
雨のにおいをさせてGGが大森の道場にもどってきた。
「初動調査というものをはじめて体験させてもらった。おれのほうは連絡が遅すぎたとしかられた」
「あれだけ人がいたのよ。……シカタナイシ」
まだ起きていた翔子がGGをなぐさめるようにいった。
話しかけられたミイマはだまってうなずいている。
なにか考えている。
「日名子さんは、あの爆弾騒ぎのまえまでは、お母さんのそばにいたのね」
「そうだ」
「あの……会場から拉致されたってこともある…? と、思わない」
「それはないだろう。あれだけ厳重にホテル側のセキュリティも警備していたのだ」
「都(みやこ)夫人もウカツよね。いつから日名子さんがいなくなったか、わからないなんて……」
「バラに夢中になっていた……と、いうことらしい」
「街にでてから、地下鉄の六本木駅に向かう途中で」
「タクシーにのってココに向かったってこともある」
「タクシーを降りてから……ココの近所で? それはないでしょう」
GGとミイマの推理はまとまらない。

はめ込みの大きなガラス窓越しに翔子は眺めていた。
ライトを暗くした道場では玲加と百子が稽古にはげんでいた。
特殊ウレタン製の模擬刀が美しい弧を描いている。
百子も玲加もフツウの少女ではない。
かたやクノイチ。玲加は本格的には剣道とは無縁なのだろうが。
マインドバンパイァとしての天性の体技がある。
中空にながくとどまって蛍光の光をはなっているのは玲加の刀だろう。
薄暗がりで光りの弧を描く刀の動きは幻想的だ。
ホタルの光のように残像が尾をひいている。
翔子には判定できない。
百子と玲加の剣の技。
どちらが強いのかしら……。
百子の配下のクノイチは夜の街に散っていった。
もちろん、日名子の消息を探るためだ。
刀の光がとまった。
百子が携帯を耳にあてたまま部屋に飛びこんできた。
「渋谷ね。道玄坂の入り口ね。わかった、みんなにも連絡して」
「おききのとおりよ。日名子さんらしい、パーテイドレスの子が彼氏とライオンのほうにあるいていったのが目撃されている」
「なんだ。名曲喫茶の『ライオン』がまだあったのか」
「でかけるわよ」
「純。純」
 翔子が隣の部屋でうたた寝をしていた純によびかける。

 六人はおっとり刀で秋雨の夜の街に走り出た。



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