”桑の実”
昨日のことです。夏のようなお天気で、
午後、涼みがてら最近良く来ている川辺に立つ
一本の桑の木の近くの岸に座り込んで川原に来る鳥を待っていた。
そこへ自転車に乗った少年が来て、
「おじさん何撮ってるの」。「川原に来る鳥だよ」。「どんな鳥が居るの?」。
この河原に居る鳥を十種類くらいを上げ、ヤマベを捕る鳥の話をした。
「この川にウナギ居る?」、「居ると思うよ」。
「ブラックは?」、「居るよ」。「スッポンは?」、「さ、分からないな」。
矢継ぎ早に出てくる質問と、
見かけの齢の割にはため口で話す少年にやや驚いていた。
少年は私と別れ、自転車で百メーター程上流でしばらく川を見ていたあと、
再び戻ってきて、私と並ぶように岸に座った。
特に話があるわけでない、私は鳥を待っているだけだ。
時々川原から桑の木へ飛ぶムクドリを狙い撮りしたりしていた。
撮った鳥を少年に見せると。「おじさん写真うまいね」。「そのカメラ高いの?」
「おじさんの好きなことはこれだけだからな」。
こんな会話をしながら、「君は学校?」と聞いた。
中三だという。「中三か、これから先のことがあるな、どうするの?」。
「高校?、高校は行かない」。「じゃ何か手に職をつけるの?」。
「漁協の仕事しようかな」。「お父さんか関係した仕事やってるの?」。
「うぅん」。否定した。「この川で漁業の仕事はないんじゃないの」。
こういいながら、釣り人に入漁料を取に来る人が頭に浮かんだ。
「俺、ホストになろうかな」、「お金いっぱいもらえるから」、
「でも大変だろうな」。
唐突な言葉にびっくりした。「そりゃ楽なことなんかないさ」。
私はここまで言うのが背いっぱいだった。
そしてこの少年の身の回りと、日常を思った。
近くの桑の木に子供が登って実を採ってる。
あの実は食べられるというと、
少年は木まで行ってすぐに子供たちと打ち解けて楽しそうに実を採っている、
やがて「おじさんにやってこいと」子供に命じて桑の実の着いた枝を持ってきた。
そして芝生の上で子供たちとサッカーを始めた。小さな子供の扱いはうまい。
でも中三と言えば、大人びてきて、
知らない大人とは距離を置いて、ため口なんか使わない。
もしかして同年代からは浮いている存在ではないかと思った。
良い子だが、まじめにホストを夢見る少年に、この少年の行く末を思った。
川べりの一本の桑の木は、色々な鳥に会わせてくれたが、
鳥だけじゃない人の出会いもくれました。