そこでキーワードとなるものに、「ラストワンマイル」があります。ラストワンマイルとは、サービスが顧客に到達する最後の区間という意味ですが、いまこれが世界的に、交通問題でも注目されています。
日本でも物流においては意識はされていましたが、人の移動についてはまだ限られています。つまり、既存の「交通」側の視点が主で、人々の生活を変えるにはまだまだ、何より実践が足りず、世界に置いていかれそうな状況です。
クルマに限らず、2輪も3輪も
さて、米国ではライドシェアのウーバーとリフトが、鉄道やバスなど公共交通や既存の交通サービスとの連携を次々と発表し、ラストワンマイルに注力しています。
注目すべきは、リフトがシェア自転車トップのMotivateを、ウーバーが乗り捨て型の電動自転車シェアのJUMPを買収し、クルマ(4輪乗用車)にこだわらない戦略もとっていること。実際に、ウーバーのアプリに自転車メニューができてからは、1割ほどクルマのサービス利用が減ったとも言われています。
リフトが買収したMotivateはNYに本社をもち、米国の9地域で展開している (c)Motivate/Jake-Stangel
欧州はMaaSの本拠地とも言われ、マルチモーダル(様々な交通をつないで提供する)への取り組みが進んでいます。例えば、2016年にヘルシンキで設立されたMaaS GlobalのサービスWhimは、月額499ユーロで、タクシーも含めて乗り放題といった定額プランを提供しています。ノルウエーのオスロでも、同様のサービスが計画されています。
パリは2030年を目標に新しい交通を考えています。パリ東駅に、パリ市と仏国鉄、エアバスらが「モビリティーラボ」をつくり、様々な交通とつながる駅の機能について研究。エアバスは、昨年お披露目した空飛ぶクルマ「Pop.Up」が鉄道などと連携するビジョンを示しています。
また、カナダのスタートアップVeloMetro Mobilityは、運転免許なしで駅と目的地の間のラストワンマイルをつなぐ、シェア用の動力補助付きペダル式三輪車(屋根付き)を開発しています。
このように世界各国で、新たな交通と組み合わせでラストワンマイル問題を解決しようと様々な動きがあります。
日本では交差点が100mおきにあって、そこにはルールを守らない人もいて、飛び出しもある。こうした歩行者を避けるのは高度な要求です。クルマ同士でも、右折のとき目くばせしてどっちが行くか駆け引きしたりする。これはコンピュータには難しい。
アジアの人混みは日本よりずっとカオスですし、インドでは地図や住所の整備も不十分です。ハードルが低いところでの自動運転は比較的早く実現するでしょうが、できないところでは目途が立たないと専門家は言います。つまり、自動運転以外のイノベーションが必要なのです。
交通革命は新たなビジネスチャンス
日本での交通についての具体案は、既存の交通の延長線上か、バスや高速での自動運転くらいにとどまり、現実には昔からのコンパクトシティやマイカーより公共交通といったお題目に取り組まれているようです。
これでは未来志向が足りません。将来像から逆算するバックキャスティングに転じたほうがよいでしょう。それに、国際的視野も足りない。成長著しいアジア諸国を含め、海外での問題解決に、日本企業が積極的に貢献できるよう手を打ちたいものです。
国と自治体のイニシアチブとアントレプレナーシップがカギとなって交通革命が進むと、民間事業と公共交通が互いに近づいていきます。そうすれば、いまのサービスや車両を超えた新たな交通モデルも創造できるでしょう。また、公共交通を含む様々な移動手段を融合させていくと、街そのものがビジネスモデルになります。都市計画や地域のリーダーシップでどんどん街に差がつくでしょう。
筆者は、交通イノベーションに挑む方には、海外との連携や日本にとどまらない展開をアドバイスしています。例えばスズキがシリコンバレーに送ったチームはシニア向けカートを開発中だとか、前述のWhimは、日本展開のためパートナー候補と交渉中だといいます。また国内なら、東京より地方や特区で先を行く取り組みができるのではないでしょうか。