産経新聞の【びっくりサイエンス】と言うカラムで、『中国がついにブラックホールも生成へ? 世界最大の加速器を計画、引き離される日本』と解説していた。日本、中性子の線形加速器では予算確保出来できず、作れるか否かの状態にあるのに、中国は着々と世界最大の加速器の建設に動き出し、完成すればそれによる成果で中国は続々ノーベル賞を獲得出来るであろうと言う。
他の自然科学の分野でも中国は大々的な投資を行っていて、電波天文学でも、500メートル球面望遠鏡(FAST)を作り、それまで世界最大であったアメリカのプエルトリコ・アレシボ電波望遠鏡300メートルを追い抜いている。出来て数年になるはずであるが、成果が報告されたという話を聞いたことがない。もしそうなら、一番の理由は、研究施設を世界中の研究者が使えるようにしていないのではなかろうか?海外の研究者も使えるとなると、外国の研究者との議論も活発に行われ、自国の研究者への刺激にもなって自国の研究レベルが上がる。
もしかしたら、加速器の分野でも、他国の研究者は使えないのではなかろうか?そうだとすると、中国の基礎科学分野の底上げも投資の割には上がらないのではなかろうか?
【びっくりサイエンス】
中国で建設が進む加速器の1つである「核破砕中性子源加速器」=広東省東莞(中国科学院高能物理研究所の資料より)
科学技術の躍進が続く中国で、世界最大の円形加速器を建設する動きが本格化している。計画通り2040年に本格稼働すれば、現代物理学への大きな貢献が期待されるが、実験の副産物としてミニブラックホールが生じる見込みもあるのだとか。専門家は「心配ない」と断言するが、そこは何事もダイナミックな中国のこと。どうしても一抹の不安を抱いてしまう…。
■一周100キロの巨大サイズも
日本や中国の専門家によると、世界最大の加速器は中国科学院(CAS)の高能物理研究所が建設を目指している実験施設で、「SPPC」と呼ばれている。SPPCとはスーパー・プロトン・プロトン・コライダー(super proton proton collider)の略で、プロトンは原子核を構成する陽子を、コライダーは加速器を意味する。周長は検討中だが最短でも57キロに達し、中には100キロを目指す動きもあるようだ。
現時点で世界最大の円形加速器は欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)が運転する「LHC(大型ハドロン衝突型加速器)」で、万物に重さを与える「ヒッグス粒子」を発見したことでも知られる。LHCの周長はJR山手線にほぼ匹敵する27キロで十分大きいが、中国のSPPCは最短でも2倍以上。周長が100キロともなれば加速器の直径は約30キロにも達し、東京23区がすっぽりと入ってしまう、とてつもない大きさだ。
SPPCとLHCのいずれも、非常に小さな粒である陽子をほぼ光速まで加速し、互いに衝突させることで生じた現象を観測する。LHCは13兆電子ボルトという非常に高いエネルギーで陽子同士を衝突させるが、SPPCが目指すのは4倍近い50兆電子ボルトという段違いのエネルギーだ。人類にとっては未知の領域で、実験によって新しい物理学の地平が切り開かれると見てよいだろう。
■ブラックホールは蒸発
ここで一つ思い出されるのが、LHCが2008年に稼働を始めたころに「地球が飲み込まれてしまうのでは」と一部で懸念された「ミニブラックホール」の発生だ。結局のところ今に至るまで地球は健在だが、中国のSPPCはLHCの4倍近いエネルギーを出す。その分だけミニブラックホールが生じる可能性は高いようだが、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の黒川真一名誉教授は「まったく問題ない」と一笑に付す。黒川氏によれば、仮に発生したとしても極めて小さく、ほとんど一瞬で消滅してしまうのだという。中国発のブラックホールにわれわれが飲み込まれるという悪夢は、杞憂(きゆう)のようだ。
■高いハードル、反対論も
SPPCはまだ検討段階で、順調にいけば2021年にも建設が始まるとのこと。27年に初期の運用段階に入り、40年の本格稼働を目指している。
建設の候補地は北京から東へ300キロほど離れた秦皇島(しんこうとう)という名の地方都市。万里の長城の東端である山海関に近く、渤海に面したこの場所が、将来は世界中の研究者が集まる物理学の中心拠点となるかもしれない。
ただ、SPPCは建設が容易ではないのも事実だ。長大なトンネルは直径7メートルで、深さ50~100メートルの地下に掘られる。陽子のビームを円形の軌道に合わせて曲げるためには、LHCの2倍近い150キロガウスもの強さを持つ超電導磁石を何千個も大量生産して並べねばならない。これは大変な作業だ。
建設に関わる予算は200億元(約3200億円)と見積もられているが、これで収まる保証はない。しかも、この金額は周長が57キロの場合とみられ、100キロに拡大した場合はさらに多額となるだろう。
そのため、建設をめぐっては異論もあり、ノーベル物理学賞を1957年に受賞した中国物理学界の重鎮である楊振寧氏が「他にお金を使うべきだ」と反対意見を表明。これに対し、計画を進める高能物理研究所の所長が「SPPCは多くの人材を集め、オリジナリティーのある研究につながる」などと反論する事態となった。建設が本当に始まるのか、まだはっきりとは見通せないのが実情だ。
■日本は計画を縮小か
現在、日本の主な大型加速器としては高エネ研の「スーパーKEKB」(茨城県)や高エネ研と日本原子力研究開発機構が共同運営する「J-PARC」(同)、理化学研究所の「スプリング8」(兵庫県)や日本初の新元素ニホニウムが作られた「RIビームファクトリー」(埼玉県)などが知られる。
このほか、岩手・宮城両県にまたがる北上山地に直線状の大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」を誘致する計画もあるが、参加各国で分担する1兆円近い建設費が最大の課題となっている。そのため、加速器の全長を当初の31キロから20キロへと大幅に縮小する案が浮上。この場合、加速器のエネルギーが半分に落ちてしまうため、計画していた実験の一部ができなくなるという。
中国が計画を進める加速器はSPPCだけではない。例えば高能物理研究所が広東省東莞(とうかん)に建設中の「核破砕中性子源加速器」は間もなく完成し、生命や材料科学、医薬品や国防研究などに用いられる。
日本の次世代加速器計画が不透明になっているのを尻目に、積極的に前進しようとする中国。このままいけば、SPPCが本格稼働した二十数年後には中国が物理学における世界の中心となり、自国の研究者が秦皇島詣でをする日本の影は、薄くなっていても不思議ではない。