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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

田中優子の「自民党改憲草案の読み方」@5・3憲法大行動

2021年05月10日 | 集会報告

憲法記念日恒例の平和といのちと人権を!5・3憲法大行動が、昨年に続き2年連続の新型コロナ緊急事態宣言下、国会正門前で開催された(主催:平和といのちと人権を!5.3憲法集会実行委員会、共催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会安倍9条改憲NO!全国市民アクション。時おり小雨が降る、台風の前のような不安定な天候だった。連休明け一番の5月6日、この集会でも大きな話題となった衆議院憲法審査会で国民投票法が採決されたが、その前触れのような天気だった。

小森陽一さん(5.3憲法集会実行委員会/東京大学名誉教授)の主催者あいさつのあと、立憲野党各党から5人、ゲストスピーカー4人と市民連合の山口二郎さん(法政大学教授)のスピーチ、最後に菱山南帆子さんから行動提起があった。コロナ禍なので、フィジカル・ディスタンスに注意するため歩道に目印の赤テープが貼られ、時間も13時半スタート、14時45分終了と短時間バージョンで実施された。小池都知事をはじめ「ソーシャル・ディスタンス」といかにも「社会的距離(=格差)」を強調する言葉が流通するなか、この集会ではフィジカル・ディスタンスという用語をキッチリ使っていてその点は気持ちがよかった。
議員は、枝野幸男・立憲民主党代表(オンライン)志位和夫・日本共産党委員長(オンライン)福島みずほ・社会民主党党首、伊波洋一・沖縄の風代表(オンライン)山本太郎・れいわ新選組代表(メッセージ参加)の5人で、話の内容は、主として政府のコロナ対策の無策批判、政府の憲法無視批判、5月6日の憲法審査会「強行採決」反対だった。
今年のゲストは、雨宮処凛さん(作家/活動家)、羽場久美子さん(神奈川大学教授/日本学術会議元会員)、清水雅彦さん(日本体育大学教授(憲法学))、田中優子さん(江戸文化研究者/法政大学前総長)だった。
もっとも内容が濃かったのは田中優子さん、もっとも内容が深刻だったのは雨宮処凛さん、熱いメッセージだったのは行動提起の菱山南帆子さん(憲法9条を壊すな!実行委員会)だったので、3人のメッセージを中心に報告する。

田中優子さんは、つい1か月ほど前の3月末まで7年間法政大学総長を務めた。在任中出した声明で重要だったのは、軍事研究はしないという声明、日本学術会議の会員任命は直ちにするようにという声明の2つだったという。

田中優子さん
憲法記念日の今日、憲法についてたったひとつのことを言おうと思う。それは、憲法記念日にはちゃんと憲法を読んでくださいということだ。でも読み方がある。あわせて自民党の憲法改憲草案を読んで比較してほしい。なぜならわたしたちに憲法改正が提案されるとすれば、現実的にはすでに出来上がっていて自民党の重点政策になっている自民党憲法改正草案に則した提案になるに違いないからだ。
9条だけでなく前文も含めた全体の比較が必要だ。全体の価値観、人間観、国家観が現行憲法とまったく異なることを確認していただきたい。
たとえば現行憲法は前文が3つの段落でできている。主権が国民であること、日本国民は恒久的な平和を念願していること、政治道徳の法則は普遍的なことであることの3つだ。一方自民党の憲法改正草案前文も3つの段落からできているが、それは天皇を戴く国家であること、国民は国と郷土を自ら守らねばならないこと、憲法制定の目的は国家を子孫に継承するためであること、を述べている。
現行憲法1条は天皇を日本国の象徴としているが、自民党の改正草案は象徴であるとともに元首としている。自民党は憲法改正という言葉を使っているが、これは改正ではない。まったく異なる憲法だ。この憲法に置き換わったとき、日本は別の国になる
まだ違いがある。自民党の改正草案は憲法13条から個人という言葉を削除して「」にし、「公共の福祉」という言葉を「公益および公の秩序」とした。憲法はそもそも国民が制定し、天皇、大臣、公務員に守らせるものだ。その国民とは人権を絶対的に保障された個人一人ひとりなので、個人が公共の福祉、つまりほかの人たちの権利を侵さないように注意しながら、あるいはほかの人たちの幸福を守るために、国家と正面から向き合って天皇、大臣、公務員に憲法を守らせるものだ。この個人とほかの人たちとの幸福という関係を「人」一般や「公益および公の秩序」に置き換えるこの発想はこの1年のコロナ禍でも鮮明にみえた。経済優先、五輪優先、企業側に立った非正規社員問題の放置などだ。
安倍前首相は以前、9条について自衛隊の違憲状態を解消するため自衛隊を明記すべきといった。これは自衛隊という言葉をはっきり定義づけるためなのかと聞こえたが、しかし改正草案では「国防軍」となっている。自衛隊を改組して国防軍をつくるという意味だ。「基本的人権、主権在民、平和主義、自衛隊のあり方など何も変わりません」という発言もよく聞く。しかし自衛隊という言葉は消える。「基本的人権、主権在民、平和主義」という言葉だけを残すことは簡単だが、しかし全体が矛盾していればこれは言葉でしかない
亡くなった井上ひさしさんが「現行憲法を変えるなら、それは改正ではなく棄憲、つまり憲法を捨てることだ」とおっしゃった。われわれには二つの選択肢しかない。憲法を捨てるのか、憲法を守るのか、その二つだけだ。井上さんはそう書いた。現行憲法と自民党の憲法改正草案を比較してみればその意味がわかる。
また緊急事態宣言という、いまやわたしたちが慣れすぎた言葉があるが、これは改正草案に1章分を付け加えた緊急事態事項のなかの言葉であることと読めば多くの気づきがあるはずだ。
それらの読解のなかで、わたしたち各人がどのような憲法を理想とするのか個々の考えを明確にしておく必要がある。ご存知のように自民党の憲法改正草案のなかで96条、憲法改正は非常にハードルが低くなるということがはっきりしている。もしそれが改正されたら次々と自民党の憲法草案に沿った憲法に変わっていく。「何も変わりません。改正するだけです」、つまり改正という言葉が飛び交うと思うが、本当に改正なのか、それともわたしたちが憲法を捨てることになるのか、日本がどのように変わってしまうのか、ぜひそれをお一人お一人お考えいただきたい。

雨宮処凛さんは、この日3時から四谷で大人食堂のスタッフとして相談員を務めるという。そこでスピーチの順もトップだった。ステージから数百メートル離れた場所で、ウヨクの巨大スピーカーの罵声がうるさかったが、「考えてみると20年以上前だが、わたしも右翼団体にいたなあということを思い出す。わたしが右翼団体を辞めた理由の一つはウヨクのなかで憲法の勉強会があり、そこで憲法前文を読んだらうっかり感動し辞めたということがあったので、いま叫んでいる方も数年後にもしかしたらここにいるということもあるかもしれない」とやさしい言葉を掛けていた。
いつもの雨宮マシンガントークがさく裂するかとこちらも身構えたが、この日はなぜかゆったりとしたスピーチだった。

雨宮処凛さん
この1年間困窮者支援の現場は本当に野戦病院のような状態だった。
新型コロナ災害緊急アクションという貧困に取り組む団体の人たちで、去年の4月にSOSを受け付けるメールフォームを立ち上げた。1日も休むことなく受け付けると、1年1カ月合計700件以上のSOSメールが届いた。「家賃が払えない」から始まり、去年の今ごろはまだそんな感じ、それが今年に入ってから「アパートを追い出された、もう5日間何も食べていない」「もう路上生活がきつくて本当に何とかしてほしい」「自殺するつもりで荷物全部捨てたけど、死にきれなくて最後にメールした」。そんなふうにより深刻になっている。
去年のいまごろ支援を始めて、もう半年くらいしたらコロナも収束するかもしれないし、あるいは収束しなければ国のほうで困窮者を支援する制度をつくってちゃんと救済されていくものだと思っていた。なので、去年のいまは緊急事態だが2,3カ月だろうからわたしたち支援者ががんばろうと、SOSを送った人のもとに駆けつけたり生活保護申請に同行したりしてきたが、コロナはまったく収束しないし、その間国の制度が整ったかというと、住居確保給付金の支給要件が緩和されたなど微調整のようなことや休業支援金・給付金などはできてはいるが、根本的に救うことにはまったくなっていない
去年のいまごろは生活保護を受ける人はすごく増えたが、去年の4月以降は数パーセントしか増えず微増だ。その背景には2012年に自民党が主導した生活保護バッシングがあると思う。「所持金十何円で携帯が止まっている。もう生活保護しかないですよ」といっても「どうしても生活保護はいやだ」という人をこの1年説得してきて、あのバッシングは人の命をなんと具体的に奪っているんだろうと、本当に怒りを感じてきた。
生活保護を受ける人が増えず、では何が増えたかというと自殺、それも女性の自殺がものすごく増えた。わたしは派遣村のときも現場にいたが505人来て女性は5人だけ、でも去年から今年の年越しにコロナ相談村をやって344人来たうち女性は62人、2割になっていた。13年前に1%以下だった女性が18%になっているという異常事態で、そういうなかで憲法25条生存権がめちゃくちゃに守られていないなかで、それを使って支援活動をしているという実感が自分にはある。私自身2006年から15年間貧困問題に取り組む中で憲法25条を便利グッズのごとく使い倒してきた女だと自負しているので、今日もいろんな制度を書いたもの、いま使える制度を書いた資料を何十ページも持ってきている。相談に乗るときに、これを見ながらどういうものがあるのかと、憲法を使うときの小道具のようなものだ。わたしはこれから大人食堂で相談員をするので、今から憲法を使い倒してこようと思う。みなさん一緒にがんばりましょう。

集会の締めを務めた主催団体メンバー菱山南帆子さんの行動提起も気迫あふれるものだった。

菱山南帆子さん
アベ・スガ政権はいったい何をやってきたんだと怒り心頭だ。アベ前首相はオリンピックを人類がコロナに打ち勝った証として完璧なかたちでやるといっていたが、これのどこが完璧なんだろうか、無観客でもやろうとするこのかたちのどこが完璧なのだろうか。本当に意味不明だし、もう1日たりとも1秒たりとも容認することはできない
この1年思い返してみるとパチンコ屋さん、夜の町、飲食店、そしていまは路上飲み、政府の失策を覆い隠すようにわかりやすい敵をつくっては、怒りの掠め取りがずっと行われてきた。怒りは路上飲みをしている若者でなく、政府に向けなければばならない。そして無策失策のせいで引き起こされた三度目の緊急事態宣言下で、わたしたちには不要不急の行動を自粛しろと言っておきながら、コロナに対する行き場のない恐怖心を利用して、憲法改悪のための改憲手続法を連休明けにも強行しようとしている。この改憲動向こそ不要不急ではないだろうか。
政治の担い手によって、命とくらしが左右されるということをコロナ禍になって痛感している。この1年、命とくらしに対してまったく対策を取らなかったことで若者、とりわけ女性の生活が困窮している。これも鼻高々に女性の雇用を増やしたといって非正規雇用を増やした安倍前首相とそのアベノミクスこそが女性の命とくらしを奪っているのではないだろうか。つい先日、日米会談で台湾条項が合意され、日米安保は対中国敵視にいっそう染め上げられた。戦争する民主主義は民主主義なんかではない。政権交代とともに市民外交を通じて平和的環境を構築しようではないか。そのためにわたしたちには引き続く本当に命を懸けた闘いが求められている。

このあと、2日後5月6日昼の議員会館前行動、14日のイトシア前ウィメンズアクション、19日夜の定例総がかり行動などの行動呼びかけがあった。
その他のゲストで、羽場久美子さんは命の大切さ、平和の大切さ、弱者の自由と人権を守る学術会議と学問の自由を訴えた。清水雅彦さんは、違憲違法かつ私物化政治を続けるアベ・スガ政権を批判し、いまやるべきはコロナ対策であり、改憲手続法や改憲を急ぐべきではないと訴えた。小森陽一さんや山口二郎さんのスピーチも含め、1時間10分の集会の全体はこのサイトで動画をみることができる。

この日わたしはステージ正面の植え込みのあたりで聴いていたが、開会前に三叉路をはさむ国会北庭の角で、90歳でしかも昨年背骨を骨折した澤地久枝さんが小さな折りたたみ椅子に座っておられる姿をみかけた。

☆連休明け5月6日午後早く、立憲民主党の(裏切りと書きたいところだが)「妥協」により国民投票法改正法案と修正案が衆議院憲法審査会を通過した。わたくしも事前に細田博之会長、新藤義孝・自民筆頭幹事、北側一雄・公明幹事など8人に慎重審議を求めるメールを送ったが、可決される場合は「強行」採決だと思っていたので意外だった。今後11日(火)の本会議で可決され、参議院に送付される。
参議院の憲法審査会のメンバーをみると、会長は林芳正、自民党委員には西田昌司、有村治子、片山さつき、衛藤晟一、佐藤正久、山田宏、山谷えり子など名だたるウヨク議員が顔をそろえている。しかし一方で山添拓(共産)、石川大我、打越さく良、小西洋之、杉尾秀哉(いずれも立憲民主)、福島みずほ(社民)も委員なので、CM規制だけでなく、最低投票率や衆院選など国政選挙との重複を避ける日程などの論点もしっかり審議し、できれば審議未了廃案にしてほしいものだ。


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