世田谷区民会館で「日本の青空」を見た。
内容は民間憲法を作った中心人物、鈴木安蔵(1904~1983)夫妻の物語。
今年5月の連休にNHKのETV特集でやっていたものとほぼ同様。ただドラマ仕立てになっているところが異なる。ドラマはこんなふうに始まる。
沙也可(田丸麻紀)は「月刊アトラス」編集部の派遣社員。部数復活をかけた企画「特集・日本国憲法の原点を問う!」で、先輩達が白洲次郎(宍戸 開)、ベアテ・シロタ・ゴードン、など著名人の取材を検討する中、沙也可も企画を出すようチャンスを与えられる。そんな折、母(岩本多代)の助言により、沙也可は全く名も知らなかった在野の憲法学者・鈴木安蔵(高橋和也)の取材を恋人でフリーターの修介(谷部央年)と2人で進めることになる。安蔵の娘・子(水野久美)と潤子(左 時枝)への取材に成功した沙也可は二人の証言から、戦時下での在野の憲法学者としての安蔵の苦労と崇高さを知る。そして沙也可は_子から託された古びた安蔵本人の日記帳を手がかりに、安蔵を支えた聡明な妻・俊子(藤谷美紀)の存在や、日本国憲法誕生を巡るドラマの核心を明らかにしてゆく―。 (公式サイトより)
鈴木安蔵(1904-1983)は福島県小高町生まれ。京都帝国大学に入学したが、1926年の治安維持法違反第一号「学連事件」で検挙され自主退学。以後、憲法学、政治学の研究に従事。1937年 衆議院憲政史編纂委員、敗戦直後の45年11月5日、岩淵辰雄、高野岩三郎、馬場恒吾、杉村孝次郎、森戸辰男、室伏高信とともに憲法研究会を設立し12月26日『憲法草案要綱』を発表。1952年静岡大学教授、すでに47歳だった。
ドラマは、学連事件での検挙、谷中での学究生活、母子の福島疎開、戦後の都留重人とハーバート・ノーマンの来訪、憲法研究会での主権在民と天皇制に関する議論、憲法草案の政府とGHQへの提出、松本助遠・ェ中心になって作った政府憲法草案へのGHQの反発、2月4~12日にGHQが作成した草案に沿う政府草案の30時間連続協議へと続く。この場面では日本側佐藤達夫、白洲次郎とアメリカ側ラウエル中佐、ベアテ・シロタ・ゴードンの対決が見どころになっている。
そして3月7日の朝刊で「憲法改正草案要綱」をみた鈴木夫妻が、主権在民、戦争放棄、男女同権に感激する場面で終わる(映画そのものは沙也可と修介が多摩川べりのフェアでデートする場面がラスト)。
「青空」とは、鈴木の妻が疎開先の福島で8月15日に見た空虚な青空のこと。鈴木の憲法草案要綱では、妻の助言もあり軍備条項は空白にしていたが、GHQ案では「空白」を、46年1月24日の幣原・マッカーサー会談で話し合われた「戦争放棄」(天皇制維持との交換条件)に書き換えたことを指す(つまり9条改憲反対がテーマ)。
上映後、大澤豊監督の話があった。概要は下記のとおり。
安倍首相は憲法改正の理由として「現行憲法は、若いアメリカ人が、わずか1週間で作りGHQが日本に押し付けた粗雑なもので、成立過程に問題がある。今度はぜひ日本人の手で作り直したい」と「現行憲法押し付け」論を、小沢との党首討論などで公言している。これに対し、「そうではなく、GHQ憲法の下敷きには日本の民間憲法がある」と、論破する映画をつくりたかった。また若者に見せたかったのでドラマで味付けをしエンタテインメントにした。
ただし押付け論に対抗できるしっかりしたものにしたかったので、ラウエル文書を精査した。調査の過程で、自民党憲法調査会が6-7年かけてつくった報告書そのものに、GHQ案には憲法研究会の影響があったとの記載を見つけた。
わたしは1935年生まれ、敗戦のときは10歳、1947年の憲法制定のときは中学1年だった。
戦時というのは、家族が声高に話せない、大声で笑えない、いつもひっそり小さくなっている時代だった。近所にいつ白木の箱が帰ってくるかもしれないし、飛行機の爆音に耳をそばだてる必要があったからだ。高崎では連夜空襲があり、太田では友だちが死んだ。
戦争では一番先に人権が無視される
文部省がつくった「新しい憲法のはなし」のことをよく覚えている。明治憲法は天皇がつくったものだが、今度の憲法は国民が自分でつくったとあった。多感な時期に受け取ったのですばらしい憲法だと思った。国民の一人として、この憲法をしっかり守っていかないといけないと思う。
監督のことばにもあるように、現行憲法はGHQの押し付けではなく、鈴木らの憲法草案要綱を下敷きにしており、それは植木枝盛ら明治の自由民権思想以来の伝統に沿ったものであることが明確に主張されており、その点では成功している。
ただ映画としてどうかというと、石原慎太郎の「俺は、君のためにこそ死ににいく」といい勝負のように思えた(石原映画では、戦後生き残った特攻兵のエピソードを入れている分、上かもしれない)。
またテレビでいうとナレーター役を派遣社員の女性とフリーターの男性の設定にしてドラマにしているのはいいアイディアだと思うが、ドラマという面では描き方にリアリティが不足していた。
もっともわたくしがどちらかというとドキュメンタリー好きで、ドラマはちょっと変わった映画(たとえばブニュエル晩年の作「銀河」「自由の幻想」)が好きなので、そういう評価になるのかもしれない。
ただフリーター男性が中学生のときにやった「私擬五日市憲法草案」誕生の劇中劇はなかなかよかった。
出演は鈴木安蔵に高橋和也(元・男呼組、「純情キラリ」など)、妻・俊子に藤谷美紀 (第1回全日本国民的美少女グランプリ、「夢の裂け目」「夢の痂」)、フリーターの男性・谷部央年、派遣社員の女性・田丸麻紀、その他高野岩三郎・加藤剛、田丸麻紀の母親役・岩本多代(「芋タコナンキン」のカモカのおっちゃんの母)、月刊アトラス編集長・伊藤克信(秋吉久美子と出演した「の・ようなもの」主役)、鈴木の次女役・水野久美、三女役・左時枝、白州次郎役・宍戸開、など
内容は民間憲法を作った中心人物、鈴木安蔵(1904~1983)夫妻の物語。
今年5月の連休にNHKのETV特集でやっていたものとほぼ同様。ただドラマ仕立てになっているところが異なる。ドラマはこんなふうに始まる。
沙也可(田丸麻紀)は「月刊アトラス」編集部の派遣社員。部数復活をかけた企画「特集・日本国憲法の原点を問う!」で、先輩達が白洲次郎(宍戸 開)、ベアテ・シロタ・ゴードン、など著名人の取材を検討する中、沙也可も企画を出すようチャンスを与えられる。そんな折、母(岩本多代)の助言により、沙也可は全く名も知らなかった在野の憲法学者・鈴木安蔵(高橋和也)の取材を恋人でフリーターの修介(谷部央年)と2人で進めることになる。安蔵の娘・子(水野久美)と潤子(左 時枝)への取材に成功した沙也可は二人の証言から、戦時下での在野の憲法学者としての安蔵の苦労と崇高さを知る。そして沙也可は_子から託された古びた安蔵本人の日記帳を手がかりに、安蔵を支えた聡明な妻・俊子(藤谷美紀)の存在や、日本国憲法誕生を巡るドラマの核心を明らかにしてゆく―。 (公式サイトより)
鈴木安蔵(1904-1983)は福島県小高町生まれ。京都帝国大学に入学したが、1926年の治安維持法違反第一号「学連事件」で検挙され自主退学。以後、憲法学、政治学の研究に従事。1937年 衆議院憲政史編纂委員、敗戦直後の45年11月5日、岩淵辰雄、高野岩三郎、馬場恒吾、杉村孝次郎、森戸辰男、室伏高信とともに憲法研究会を設立し12月26日『憲法草案要綱』を発表。1952年静岡大学教授、すでに47歳だった。
ドラマは、学連事件での検挙、谷中での学究生活、母子の福島疎開、戦後の都留重人とハーバート・ノーマンの来訪、憲法研究会での主権在民と天皇制に関する議論、憲法草案の政府とGHQへの提出、松本助遠・ェ中心になって作った政府憲法草案へのGHQの反発、2月4~12日にGHQが作成した草案に沿う政府草案の30時間連続協議へと続く。この場面では日本側佐藤達夫、白洲次郎とアメリカ側ラウエル中佐、ベアテ・シロタ・ゴードンの対決が見どころになっている。
そして3月7日の朝刊で「憲法改正草案要綱」をみた鈴木夫妻が、主権在民、戦争放棄、男女同権に感激する場面で終わる(映画そのものは沙也可と修介が多摩川べりのフェアでデートする場面がラスト)。
「青空」とは、鈴木の妻が疎開先の福島で8月15日に見た空虚な青空のこと。鈴木の憲法草案要綱では、妻の助言もあり軍備条項は空白にしていたが、GHQ案では「空白」を、46年1月24日の幣原・マッカーサー会談で話し合われた「戦争放棄」(天皇制維持との交換条件)に書き換えたことを指す(つまり9条改憲反対がテーマ)。
上映後、大澤豊監督の話があった。概要は下記のとおり。
安倍首相は憲法改正の理由として「現行憲法は、若いアメリカ人が、わずか1週間で作りGHQが日本に押し付けた粗雑なもので、成立過程に問題がある。今度はぜひ日本人の手で作り直したい」と「現行憲法押し付け」論を、小沢との党首討論などで公言している。これに対し、「そうではなく、GHQ憲法の下敷きには日本の民間憲法がある」と、論破する映画をつくりたかった。また若者に見せたかったのでドラマで味付けをしエンタテインメントにした。
ただし押付け論に対抗できるしっかりしたものにしたかったので、ラウエル文書を精査した。調査の過程で、自民党憲法調査会が6-7年かけてつくった報告書そのものに、GHQ案には憲法研究会の影響があったとの記載を見つけた。
わたしは1935年生まれ、敗戦のときは10歳、1947年の憲法制定のときは中学1年だった。
戦時というのは、家族が声高に話せない、大声で笑えない、いつもひっそり小さくなっている時代だった。近所にいつ白木の箱が帰ってくるかもしれないし、飛行機の爆音に耳をそばだてる必要があったからだ。高崎では連夜空襲があり、太田では友だちが死んだ。
戦争では一番先に人権が無視される
文部省がつくった「新しい憲法のはなし」のことをよく覚えている。明治憲法は天皇がつくったものだが、今度の憲法は国民が自分でつくったとあった。多感な時期に受け取ったのですばらしい憲法だと思った。国民の一人として、この憲法をしっかり守っていかないといけないと思う。
監督のことばにもあるように、現行憲法はGHQの押し付けではなく、鈴木らの憲法草案要綱を下敷きにしており、それは植木枝盛ら明治の自由民権思想以来の伝統に沿ったものであることが明確に主張されており、その点では成功している。
ただ映画としてどうかというと、石原慎太郎の「俺は、君のためにこそ死ににいく」といい勝負のように思えた(石原映画では、戦後生き残った特攻兵のエピソードを入れている分、上かもしれない)。
またテレビでいうとナレーター役を派遣社員の女性とフリーターの男性の設定にしてドラマにしているのはいいアイディアだと思うが、ドラマという面では描き方にリアリティが不足していた。
もっともわたくしがどちらかというとドキュメンタリー好きで、ドラマはちょっと変わった映画(たとえばブニュエル晩年の作「銀河」「自由の幻想」)が好きなので、そういう評価になるのかもしれない。
ただフリーター男性が中学生のときにやった「私擬五日市憲法草案」誕生の劇中劇はなかなかよかった。
出演は鈴木安蔵に高橋和也(元・男呼組、「純情キラリ」など)、妻・俊子に藤谷美紀 (第1回全日本国民的美少女グランプリ、「夢の裂け目」「夢の痂」)、フリーターの男性・谷部央年、派遣社員の女性・田丸麻紀、その他高野岩三郎・加藤剛、田丸麻紀の母親役・岩本多代(「芋タコナンキン」のカモカのおっちゃんの母)、月刊アトラス編集長・伊藤克信(秋吉久美子と出演した「の・ようなもの」主役)、鈴木の次女役・水野久美、三女役・左時枝、白州次郎役・宍戸開、など