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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

小西誠が語る「日本の安全保障、そして9条」

2009年11月13日 | 集会報告
11月19日に増田都子さんの対都教委控訴審が始まるのを前に、11月7日夜、豊島区勤労福祉会館で「増田さんを職場に戻せ!6.11不当判決糾弾集会」が開催された。増田さんが小西誠さんにインタビューし、政権交代後の安保・防衛政策、増田さんの裁判などについて小西さんが答える形式で進行した。
民主党政権になり防衛政策はいったい何が変わるのか、普天間・辺野古問題のポイント、田母神問題の本当の問題点、「イスラム・テロ脅威論」への反論、9条の現代的かつ現実的意義など、興味津々のトピックスがつぎつぎに語られた。

小西誠さんは元・反戦自衛官で、現在、増田都子さんが「たたかう!社会科教師」を出版した社会批評社の経営者である。小西さんは15歳のとき少年自衛官として航空自衛隊に入隊した。「愛国」自衛官だったが、20歳のとき、航空幕僚長や統幕議長が賄賂をもらい天下るのをみて許さないと思った。国民を守る自衛隊が治安出動訓練でなぜ国民に銃を向けるのか、自衛隊はおかしいと、基地のなかに反戦ビラを貼ったり隊員に治安出動訓練反対を呼びかけ逮捕され、懲戒免職となった。そして自衛隊法64条(同盟罷業、煽動罪)違反で起訴されたが、1975年新潟地裁で無罪、81年の差戻し審でも無罪を勝ち取り確定した。一方73年に提訴した民事訴訟は24年後の97年一審判決が出たが敗訴した。

1 民主党政権の外交・安保防衛政策はどうなるか
鳩山首相は、一方で従来の日米安保基軸路線を重視すると言い、一方でアジア重視路線を掲げている。この問題は今後、民主党が分裂するかもしれないくらい大きな問題である。
北朝鮮の脅威やテロ対策は二つの路線ともに共通だが、違いは中国に対する見方だ。従来の日米安保路線は2004年の防衛新大綱、2005年の安保・中間報告で示されている。これは南西重視・島嶼防衛で、中国脅威論を背景にしている。自衛隊はアメリカ太平洋艦隊の補完勢力として、海中に張り巡らした対潜ソナーや上空からP3C哨戒機を使って監視し、中国の東海艦隊や北海艦隊を封じ込め、島への上陸に備え与那国島など島嶼に基地をつくろうというものだ。これは80年代に軍拡のためキャンペーンを張ったソ連脅威論とまったく同じ構造である。
この中国脅威論をそのまま続けるのか、やめるのかという問題である。民主党のなかにも前原一誠国交大臣や長島昭久防衛大臣政務官のように自民党以上の強硬派もいる。一方小沢一郎のような多角的安保論者もいる。小沢は94年に出版した「世界に生きる安全保障 21世紀への指針」で国連安保プラスアジア安保を主張している。これは自主防衛路線を受け継ぐ考え方である。経済面で日米貿易と日中貿易の順位が逆転した現在、こうした路線が出てくるのは必然である。

2 田母神問題の本当の問題点
田母神俊雄・元航空幕僚長の主張そのものは陰謀史観で取るに足りない。問題は田母神を許し、懲戒免職にできない日本社会である。これは政府が田母神的存在、制服組の存在を恐れているからだ。この背景には92年以降のPKO派兵の問題がある。カンボジアから始まり、ペルシャ湾、イラク、ソマリアへ続くPKOに実際に行くのは自衛官だ。国家政策のため命をかけて動いているのに日蔭者扱いなので、制服組の地位向上の要求は留まるところを知らない。
最近の例でいうと、今年8月の防衛省設置法改正による防衛参事官制度の廃止がある。戦前の軍部暴走の反省のうえに立つシビリアン・コントロールには3種類あった。ひとつは憲法上の文民統制、すなわち憲法66条の2「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」である。しかし元陸上自衛隊幹部の中谷元が2001年に防衛庁長官に就任し、崩れた。次に議会統制があった。しかしこれも1兆円のミサイル防衛予算がなんの抵抗もなく通過し実際にはコントロールがないのも同然だ。最後に残ったのが防衛参事官制度だった。これは局長クラスの文官が幕僚長の上に立ち、大臣の補佐をする制度だった。しかし制服組を加えた防衛会議ですべてを決定するよう制度に変わり、実質的に制服組の独壇場となった。

3 「脅威論」をひっくり返そう
最近は少し静かになったが、電車や新幹線に乗っても不審な荷物やゴミ箱の危険物など、テロ脅威のアナウンスがうるさかった。治安出動訓練や国民防災訓練が全国で展開され、日本人はテロ・キャンペーンに踊らされている。しかしどこかでテロ脅威や中国脅威といった「脅威論」をひっくり返さないといけない。国内でイスラム・テロは起こりっこないからだ。それには2つの理由がある。まず、監視システムや入管でかんじがらめにしているので、漁船も含めて武器を持ち込めない。次にイスラム・テロといっても日本にイスラム教徒は7万人しかいない。7万人なら警察と公安調査庁がすぐ調査できる。フランスは600万人、アメリカは500万人の規模だ。事件を起こすなら外国にある日本大使館や日本企業を狙うだろう。政府自身が国内でのテロの可能性が低いといっている。
このあたりでテロの脅威キャンペーンをひっくり返さないと、がんじがらめの管理体制にもっていかれる

4 増田さんの処分や裁判について
90年代以降、国家主義的な流れが存在し、増田さんの分限免職処分もその一環としてあった。しかし民主党政権に代わり、いったんこの流れにストップがかかったと考える。今後、どういう方向に転換させるかという問題がわれわれに問われている。裁判をあと5年とか10年とか引き延ばすことができれば情勢を変えられるかもしれない。
裁判所や裁判官は、反動化というより保守化しているのではないか。彼らは何も考えていない。世の中の流れに身を任せているだけだ。われわれが流れを変えられれば、ついてくる人だと思う。

このあと、参加者と通常より長い質疑応答があった。わたくしの関心を引いた質疑をいくつかピックアップして報告する。
Q 意図的につくられている脅威論について、もう少し詳しく
A 簡単なことだが、「脅威」がなければ軍隊もいらなくなる。だから常に脅威を作り出す必要がある。ソ連が崩壊したので北朝鮮脅威論を持ち出した。しかし北朝鮮は日本の数百分の一の戦力なので、テロ脅威論を持ち出した。しかし政府自身が国内でのテロの可能性が低いことを認識しているので、こんどは中国脅威論を持ち出したというわけだ。アメリカもまったく同様で、年間6000億ドルの軍事力の維持するためつねに脅威キャンペーンを張っている。

Q いま問題の普天間移設と辺野古の問題について。
A 民主党は、普天間・辺野古の問題に関して、ほんとうは日米安保を見直すといわなければいけない。そう主張してきたのだから。ここ1―2ヵ月の間に、日米安保基軸路線を踏襲するか切り替えるかが普天間・辺野古の問題を左右するはずだ。なお見直しを言い始めるときは、「政権が変わったのだから」という理由で、いきなりやった方がよいと思う。

Q 海外派兵なし、核武装をしない、徴兵制を敷かない「自衛隊基本法」を制定してはどうだろう。
A 小沢は「安保基本法」といっている。しかし自衛隊の存在の承認が前提になるので、革命的護憲論者としてはまずいと思う。むしろ憲法9条の現代的意義を徹底的に訴えたほうがよい。21世紀の現代では、軍隊は博物館に納めるべき時期に来ている
これはアメリカも同じだ。11月5日テキサスのフォートフッド米軍基地で軍医が発砲し13人が死亡する事件が起こった。またイラクでの米軍の死者は4300人に及び、自殺者やPTSD発症者が増加を辿る。現代では先進国は地上戦には参戦できなくなっている。少子化で戦争に行かせたくない家庭が増えたこと、先進国の人権意識の高まり、そして豊かな生活のせいだ。本来、地上戦ができない状態なのでPTSD発症者が増加する。
先進国で戦争ができないもうひとつの理由がある。それはインフラの整備だ。たとえばふたたび朝鮮戦争が勃発するという人がいるが、韓国には原発が20基あり、そんな場所を爆撃すれば、日本、中国、北朝鮮など近隣諸国にも被害が広がる。
だから9条の現代的意義を徹底的に訴えたほうがいいと思う。そうしないと歯止めにならない。

この後、「国労闘争団」「9条改憲阻止の会」「障害者の教育権を実現する会」「ヘイトスピーチを許さない会」から連帯の挨拶があり、最後に、田畑和子さん(元豊島区立千川中学校)が増田さんとの20年に及ぶ交友とご自身の3度目の対都教委訴訟への決意を語った。

☆わたしは、防衛・安保分野の問題にはまったく疎く「非武装中立でいいじゃないか」と漠然と考える程度の知識しかない。だからこの日の小西さんの明快で鋭いコメントには、胸がすく思いがした。
ただ、わたしが何もわかっていないため、初歩的なところで聞き違っているかもしれない。あらかじめお許し願いたい。
☆増田都子さんの分限免職取消訴訟控訴審の第1回口頭弁論は11月19日(木)14時から東京高裁822号室で行われる。

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