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質疑応答すれ違いの裁判員制度説明会

2008年03月07日 | 集会報告
3月1日(土)午後、光が丘区民センターで、来年5月開始予定の裁判員制度説明会が開催された。
最初に広報映画「裁判員 選ばれ、そして見えてきたもの」(企画・制作 最高裁判所)をみた。
ケースとなった事件は従業員宿舎への放火事件。出稼ぎで働いていた男(47)がクビを宣告され自暴自棄になり宿舎の自分の部屋に火をつけた。当時5人の従業員が寝ていたが逃げ出して無事だった。しかし15平方メートルが焼けた。男は交番に自首した。
裁判員は2回のくじで選ばれた空調システム会社営業課長(45)、美容師(22)など男性4人、女性2人が最終的に選任された。、
映画は、営業マン・村瀬(村上弘明)の自宅に裁判所から特別送達の手紙が着いたところから始まり、質問票送付を経て正式に選任され、裁判が始まる。起訴状朗読、冒頭陳述を経て中間評議で1日目終了、2日目は裁判官からの被告人質問、論告・求刑のあと最終評議が始まる。
そこでいったん映画が中断され、地元住民6人(男性3人、女性3人)の模擬裁判に移った。裁判長を東京地裁刑事部の栗原、左陪席岸野、右陪席川尻の3裁判官が担当した(名前の字は違っているかもしれません)

裁判官から、このケースは罪責認定(有罪か無罪)は争いがないので量刑のみ考えればよいことが告げられた。有期刑の範囲は5年から20年、自首したので半分に短縮でき、情状酌量でさらにその半分、つまり最短1.3年に軽減できる。また実刑か執行猶予付きかということでは、懲役3年以下の場合のみ執行猶予を付けられる。執行猶予には2種類あり、普通は何もなし、特別な場合は保護観察が付く。そこでいますぐ刑務所に行くべきかどうかを考え、次に刑期を考えるのが妥当とのアドバイスがあった。
裁判員が意見を2巡か3巡して述べた。要約すると下記のようなものだった。
刑を軽くできる要素
1 出稼ぎなのに突然クビになったという動機
2 反省している
3 実際に死傷した被害者は出ていない
4 刑事裁判終了後に、寮の所有者である経営者から多額の民事訴訟を起こされるはずなので、賠償金を稼ぐためにも執行猶予のほうがよい
5 自首した
6 計画性はなく、再犯可能性は低く、更正の可能性が高い
7 刑務所に入れるメリットに乏しい
刑を重くできる要素
1 放火は重大な犯罪
2 同僚が5人寝ていることを知っていて火をつけた
3 自己中心的で短絡的な犯罪
4 境遇がかわいそうな人がだれでも火をつけるわけではない
5 寮の所有者である被害者が厳罰を希望している
6 家族の嘆願はあったが、家族は味方するのが当たり前なので軽減する要因にはならない
この時点では、執行猶予の裁判員が多数だった。しかし裁判官から類似の放火事件は40件あり執行猶予が付いたものは4件のみという「統計」が告げられると、実刑が4人、執行猶予付きは2人に逆転した。3人の裁判官は自分のこれまでの体験からいずれも懲役3年の実刑とのことだった。
このあと映画の続きをみた。模擬裁判ほぼ同じ意見だった。ただし「軽くする要素」の4はなかった。はじめは執行猶予の裁判員が多数だったが、主人公の営業マンが「いくら子どもと離れた生活をしていても、突然クビになっても、あなたは火をつけるか」と主張し、裁判官も含め全員一致で実刑判決を決めた。

このあと会場から質疑があり、川尻・岸野の両裁判官が答えた。
Q 「弘前大学教授夫人殺人事件のようなえん罪や地方制度の問題がある。また死刑反対主義の人もいれば、尊属殺人への考え方もいろいろだ。裁判にかかわりたくない人は多い。そもそも裁判員法の目的は何なのか
A 職業裁判官はたしかに公平で精密な判決を出せる。その反面均質化している。そこで市民の「常識」を刑事訴訟に取り入れることが裁判員法の目的だ。刑事訴訟の目的は「公正な裁判」である。ゴールは同じでも、裁判官がやる方法、陪審員や参審員といった国民が参加する方法と、到達するためのルートはいろいろある。
Q 映画では、たった2日の裁判で判決を出すようになっているが、たった2日で死刑判決を出されるのでは裁かれるほうはたまらない。証拠調べなどはいったいどうするのか。
A 証拠調べは、新たにできる公判前整理手続で行い、法曹三者で争点を明確にする。この映画のケースは有罪・無罪の争いがないので2日だが、否認している事件や正当防衛の有無の判断をする場合は3~5日かかるだろう。
Q 裁判員の守秘義務について
A あとでだれが何を言ったか公開されると、評議の場でうかつなことを言えなくなるので守秘義務がある。ただし、評議内容以外のことは他人に話してもだいじょうぶだ。
Q 裁判員制度はなぜ刑事裁判、それも殺人、誘拐など重大事件に限定されるのか。市民参加ならもう少し軽い事件から始めればよいのではないか。また民事でも、行政訴訟なら市民が参加する意義がある。
A とりあえず重大な刑事事件から始めるということだ。今後範囲を広げる可能性もある。
Q アメリカの陪審制度は有罪か無罪かの罪責認定は行うが、量刑は職業裁判官が行う。なぜ市民が死刑や無期懲役も含む量刑まで行うのか。えん罪の可能性を考慮すると責任が重すぎる。またドイツの参審制がよく引き合いに出されるが、ドイツの裁判は職権主義で日本のような当事者主義とは根本的に異なる。
A たしかにアメリカの陪審制は量刑は決めない。しかしアメリカでは罪によって機械的に量刑が決まる。
Q 今年11月から被害者参加制度が始まる。検察の求刑後の意見陳述で「厳罰を望む」という声が多く出ることが考えられる。裁判員制度が加わると厳罰化の進展が予測される。裁判が近代刑法以前の「復讐や仇討の場」に逆戻りするという報道もあるがどうか。
A 裁判員制度開始で、厳罰化に向かう可能性も、逆に軽くなる可能性も両方考えられる。
Q えん罪の可能性を考えると、市民は加担したくない。市民がえん罪判決を出さないようにするシステムは何か準備されているのか。
A えん罪防止については、職業裁判官と裁判員でとくに変わりはない。
Q 裁判に素人が参加するのはいかがなものか。たとえば医師免許を持っていない素人に心臓手術を受ける気はしないし、自分にやれと言われても断る。
A どの法律を適用するかということは確かに専門家である職業裁判官の仕事だ。裁判員には事実認定のみ行ってもらう。たとえば「こういうことを言っている被告人のことを信じられるか」という問題は裁判官も市民も同じだ。
Q 裁判官と裁判員が同席して評議すれば、どうしても裁判官の判断に引きずられる
A 「どこまで裁判官が意見を述べるべきか」という問題は確かに悩ましいところだ。量刑に、妥当な幅がある場合は裁判員の判断に任せることになるのではないか。

どうも市民の疑問と答えがかみあわずすれ違っている点が多くみられた。意図的なのかどうかまでは判断できなかった。しかし、どうやら裁判官は最高裁がつくった模範解答をそのまま読んでいるような印象だった。最後に栗原裁判官から「ネガティブな意見もあったが、市民の方がいろいろ勉強されていることがわかった」という感想が述べられた。

来年5月の裁判員制度開始まで、制度を市民に合うように改善してほしいものだ。たとえば3月4日に死刑廃止議員連盟(会長 亀井静香)が出した死刑判決を出す場合にのみ、多数決ではなく全会一致を条件とすることや「重無期刑(事実上の終身刑)」を設けること。また平日昼間の開廷だけでなく、土日開廷や夜間2時間開廷も取り入れていただきたいものだ。

☆映画では、劇団夢の遊眠社で活躍した被告役の松澤一之、NHKの朝ドラ「繭子ひとり」でデビューした裁判長役の山口果林の演技に説得力があった。
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