父はお酒と煙草が大好きだった。
いつもはとても穏やかなのに、お酒を呑むと人が変わったように大きな声で喜んだり怒ったり。コロコロと感情が変わる。私達子供にとっては質の悪い酔っぱらい。いい想い出が何一つ出てこない。笑。
けれど、変わり者の所は好きだった。医者は変わり者が多いと聞くが、父を見ているととてもよくわかる。(すごく偏見ですみません)
ビール瓶の蓋を歯で開けようとして歯が欠け、アロンアロファでくっつけた話は逸話中の逸話だ。(そんなお医者さん他にはいないと思うけど)
いつも何か考え事をしていた。それを時々ポロっとひとり言のように呟く。そして空(くう)を眺めては、そこに何か走り書きのような動作をする。何か計算か、はたまた英語のスペルでも確認しているかのようにサササッと。子供ながらに、何を考えているんだろうと思っていたが、もちろん聞きはしない。そっとしておくのが一番だ。
晩年は、発明に興味を抱き、ボールペンの実用的なアイディアで見事に特許を取得し、大手文具メーカーから商品化もした。既製品ももちろん素晴らしかったが、自分が作ったサンプルで、色を塗ったりして作った手作り感満載のボールペンの方が使いやすいんだと、そっちばかり使っていた。何年もその話題でもちきりだった。特許料より、特許を持ち続ける費用や材料費の方が高くついたはついたが、有言実行した所はやっぱり凄い。
私の出産はとても喜んでくれた。細くなった体で、腕で、息子を抱きしめてくれた。その半年後、亡くなった父。亡くなってから、母から聞いたのだが、父は、この子は音楽なんかさせないで、東大にでも入れる位勉強させなさいと言っていたと。
音楽に対しては批判的だった父。
空を眺めて、何かひとり言呟く所も、何か書く動作するのも、何か新しいものを生み出す所も、お父さん、残念ながら息子は全部引き継いでいます。
けれど一つ違う所。すでに音楽好きになっているところ。
そこは、私も止められそうにありません。
いや本当は、貴方は誰より音楽が大好きだったよね。
結局全部一緒じゃないか。
じいじに会ってみたかった、と、覚えてないので息子は言います。そうだね、あんな面白い人、なかなかいないから、会って欲しかったな。
今日は、こちらでお酒と共に、お花を飾ります。
来年こそは挨拶に帰られますようにと願いながら。