◎グルなしでポア
ナンサ・ウーブムは、一児を生んだ主婦であったが、気立てと器量、品行の良さを見込まれて族長の息子の嫁になった。しかし、チベット密教僧の托鉢に応じたことを理由に義妹に殴打され、夫の暴力で肋骨を3本折った。さらに義父にも暴力を振るわれ、ついに亡くなった。
族長は彼女の葬儀を挙げようとして占星術師にお伺いを立てたところ、彼女はまだ亡くなっていないということなので、この僧の指図に従い、丘の上に置いた彼女の身体を布と毛布で包み、七日七晩にわたって火を焚き、お茶を沸かして、遺体が犬や鳥や野獣に食われないようにした。
さて閻魔大王が彼女のカルマの小石を見ると2個だけが黒石で残りすべてが白石だったので、閻魔大王が「彼女はまだ肉身を持ちながらこの世で仏法修行すべきだ」ということで、彼女を肉体に戻した。
出家しようとした彼女は避難先の僧院ごと族長の軍団に襲撃されるのだが、奇瑞を示してこれを説得した。
彼女は、その後出家し、本格的なチベット密教修行に取り組み仏法を成就することになる。
(出典:智慧の女たち チベット女性覚者の評伝 ツルティム・アリオーネ著 春秋社)
それにしても、チベットは僧院を丸ごと領主が略奪、殺戮しようと思うほどに、「荒くれ」な世界なのですね。チベットのように物の乏しい社会で暴君が出現すると、あっというまに社会全体が貧困に落ち荒廃する。
だからこそ、成就者、覚醒者が、空中に浮いて超能力を見せなければ、当時の人は信服しなかったのでしょう。
それを乗り越えて何世紀ものチベット仏教王国があったわけですね。
標高4千メートルか何かの丘の上で仮死状態7日はいかにも長すぎで、特に脳の機能損傷がなかったのは奇跡であるとも言える。
これは、グルなしでポアしたのだが、臨死体験の中で彼女が悟りを得たという位置づけではなく、あくまで復活後の仏道修行で成道したもの。
また彼女は最初の死のところで、すでに世俗生活のカルマが尽きた。そこで厭世したという点も見逃せない。死からの復活はチベット密教の定番ではある。