◎英雄の夢は必ず破れて冥想に向かう
2022年NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人は、有力な脇役を次々と殺していき、最後は自分のファミリーをもどんどん殺害していくという、ゴッドファーザーもびっくりの重厚殺伐な展開となり、世の人々に大きなインパクトを与えた。
これは、歴史上最高権力者の周辺は、大方身内で相剋し合うというのは、日本でも中国でも欧州でもマフィアでも共通の運命であるということ。英雄の夢は、必ず破れることになっている。
現代人は、引きこもって日がな一日モバゲーに打ち込んでいても、英雄的な気分で世界制覇を目指しているものだ。そこには、パワー維持の恐怖と不安があり、達成してラストシーンを見るというクライマックスがあり、途中で転落するという挫折もある。
最近は、このようにモバゲーで一生回顧、一生を走馬灯のように見る成功と転落の疑似体験をするわけだが、昔は邯鄲の夢とか黄粱一炊の夢で、そうした気分を味わい、冥想修行に本格的に打ち込む契機とした例が伝えられている。
人生には大別して三種あって、笠地蔵風の素朴にただ生きて死んで行くだけの美しさを歩む人生と、恐怖と不安におののきつつ英雄への上昇を狙う人生もあるが、英雄チャレンジのむなしさを最初から見切って永久不壊なる幸福を求める求道の人生がある。
そしてこれだけ転売ヤーが活躍して、ブランド品や人気チケットに高価な値段が付き続けるのは、目に見えない精神的価値を金で買おうとする人があまりにも多いからである。実は最も高価な精神的価値あるものは、無料で手に入れることができるのだが。
なぜならそれは金や権力やコネでは手に入れることができないからである。
最も高価な精神的価値あるものは、自分の無力さ、みじめさ、情けなさを正面から見据えた先にしかない。そのような自分自身に出会う坐法には、ある固定した姿勢ですわり雑念を相手にしないとか、出入りする呼吸を日がな見つめるとか、あらゆる音を聞きまもるとか、いくつもの方法がある。
人は煮詰まり切らなければそういうものに真剣に取り組まないのかもしれないが、煮詰まり切ったところで、師匠に出会うということはあるもの。
そしていまや時代全体が叫びによって吹きこぼれようとしている。コロナ禍の3年によって叫びは増幅された。その圧力が内なる精神に出るのか、外なる小三災(飢餓、疫病、戦争)や大三災(風災、水災、火災(地震を含む))に出るのかは知らない。それに対してできることは、自分が正しく生きることだけだ。それが悟りをめざして日々冥想することであるとは論理的説明はできないが直観している人は意外に多いのではないか。