◎聖王鵜葺草葺不合命が誕生し世界の経綸は完成
(うかやふきあえずのみこと)
海幸彦山幸彦のストーリーの続き。
『そうして、約束どおり、一日のうちにお送り申し上げた。そのわにが帰ろうとした時に、火遠理命は身に帯びた紐つきの懐剣をほどいて、わにの背中に結びつけて返した。それで、その 一尋わには、今、佐比持神という。
こうして、火遠理命は、何もかも海の神が教えた言葉のとおりにして、 その釣り針を火照命に返した。それで、それ以後、火照命はだんだんま すます貧しくなり、前にもまして 荒々しい心を起して攻めてきた。火照命が攻めようとした時には、火遠理命は塩盈珠(しおみちのたま)を取り出して溺れさせた。そして火照命が嘆いて赦しを求めると、塩乾珠(しおひのたま)を取り出して救った。
このように困らせ苦しめたところ、火照命はぬかずいて、「私は、今から後は、あなた様を昼夜守護する者として、お仕え申し上げます」と申 した。それで、今に至るまで、その溺れた時の色々な仕草を絶えることなく伝えつつ、お仕え申し上げている。
[二]さて、海の神の娘、豊玉毘売(とよたまびめ)命は、自分自身で国を出て火遠理命のもとへ参り、「私はもう妊娠しています。今、産もうという時にあたって、このことを考えてみると、天つ神の御子は海原で産むわけにもゆきません。それで、参り出て来たのです」と申した。そこで、ただちにその海辺の渚に、鵜の羽で屋根を葺いて産屋を造った。ところが、その産屋の屋根をまだ鵜の羽で葺きおえないうちに、豊玉毘売命はさし迫った出産の痛みに耐えられなくな った。それで、産屋にお入りになった。
そうして、まさに産もうとした時、豊玉毘売命は日の御子に申して、「他の国の人は、およそ子を産む時にあたって、自分の国での姿をとって産みます。だから、私は今、本来の姿になって子を産もうと思います。お願いですから、私を見ないでください」と言った。そこで、その言葉を不思議に思って、豊玉毘売命がまさに子を産もうとしている様子をこっそりと覗いたところ、大きなわにに変って、腹這いになって身をくねらせ動いていた。それで、火遠理命は見て驚き恐れ、逃げ去った。そう して、豊玉毘売命は火遠理命が、覗き見たことを知って、恥ずかしく思い、すぐにその御子を産んでその場に置き、「私は、普段は海の道 を通って行き来しようと思っていました。それなのに、あなたが私の姿を覗き見たことは、たいへん恥ずかしいことです」と申して、ただちに海坂を塞いで、自分の国へ帰っていってしまった。そうして、その産んだ御子は名付けて、天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひたかひこなぎさたけうかやふきあえずのみこと)という。
このようなことがあって後、豊玉毘売は、火遠理命が覗き見した心を恨みはしたものの、恋しく思う気持を抑えることができず、その御子の 養育というかかわりに託して、妹の玉依毘売にことづけて、歌を差し上げた。その歌にいうには、
赤玉は緒さへ光れど 白玉の君が装いし 貴くありけり
(赤玉は、それを通した緒までも光りますが、白玉のようなあなたの姿は、さらに立派で美しいものです)
これに対し、その夫君である火遠理命が答えた歌にいうには、
沖つ鳥 鴨著(ど)く島に 我が率寝(いね)し 妹は忘れ時じ 世の悉(ことごと)に
(<沖つ鳥> 鴨の寄りつく島で私と共寝をした妻のことは忘れまい、一生の間)
そうして、日子穂々手見命(ひこほほでみのみこと)は、高千穂の宮に五百八十年の間いらっし ゃった。御陵は、すなわちその高千穂の山の西にある。
[三]この天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命が、叔母の玉依毘売命を娶って生んだ御子の名は、五瀬命。次に稲氷命。次に、御毛沼命。次に、若御毛沼命、またの名は、豊御毛沼命、またの名は、神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれひこのみこと)
そして、御毛沼命は、波頭を伝って、常世国へお渡りになり、稲氷命は、亡き母の国である、海原にお入りになった。』
これに対する出口王仁三郎の解説は以下。
『火遠理命は一尋鰐に乗つて、愈々本の国日の本の国へ、帰られたのであります。此の一尋鰐といふ事には、非常に重大な意味があります。又此の火遠理命は、日子穂々出見命の事であります。御筆先にも『日子穂々出見命の世になるぞよ』といふことがありますが、愈々火の燃え上つた如く中天に輝く所の御盛徳を持つた、日子穂々出見命が、海原を御渡りになる。其の時に一尋もある大鰐が、之を助けたと云ふ事になつて居るのであります。其の時に豊玉姫も共に御連れ帰りになりました。さうすると豊玉姫は妊娠せられた。御子さんが出来たのであります。併し子と云ふ事は原子分子一切の子である。それから、非常に腹が膨れるといふ事になつて子を産む。竜宮も海を離れた島ですから、地の竜宮と云ふ事になります。それでお二人の間に一人の子が出来た。さうすると豊玉姫は、子を産まむとする時に夫に向つて、妾は国津神の子であるから、元の姿になつて児を産みますから、産屋を御覧ならないやうに、何処かへ行つて居て下さい、と堅く申されました。そこで鵜葺草葺不合命を産まれました。未だ鵜の羽の屋根が葺き合へない中に御生れになつたから、さう申すのであります。
此の鵜の羽といふ中には、深い意味があるのであります。鵜の羽を以て屋根を葺く、此の鵜といふ事は、稚比売君命と深き因縁のある事であります。此の神様は非常に烏と因縁がある。鵜と云ふ事は烏と云ふ事であります。烏は羽なくては駄目である。それで其の羽で以て屋根を葺く、其の出来ない中に御子が生れたのであります。火遠理命は恐いもの見たさで、そつと御窺ひになると、立派な玉の様な御子が御出来に成つて居る。御子は生れて居りますが、其の母の豊玉姫は竜神の本体を現して居る。大なる竜神が玉の様な児を抱いて居る。それを見て大に驚いた。竜神といふものは、天津神計りと思つて居たが、地津神にもあるかと云ふ事でお驚きになつた。寧ろ此の驚きは恐怖の驚きでなくして、感心の余りの吃驚せられたのであります。
さうすると豊玉姫命は、自分の姿を見られたものですから、恥かしくてもう御目にかかれませぬと言うて、元の海へ隠れた。此の御子さんの事を、天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命と申し上げるのであります。此の神は皇室の為めに尽さむとして居るのであります。又豊玉姫は還元して居る現状を見られて、申訳がないと云ふ事になつて再び海に隠れて、元の所に潜伏せられ、其の御産になつた鵜葺草葺不合命を御育てする為に、玉依姫と云ふ竜宮で一番良い所の、選りに選つた神様を御遣はしになつて、御育てになつたのであります。其の時に斯う云ふ歌を御言附けになりました。此の歌は中々意味があります。『赤珠は緒さへ光れど白珠の 君が装ひし貴くありけり』
赤珠──日の大神、白珠──月の大神、其の珠の緒が、冴え光つて居つたといふ事である。君──伊邪那岐伊邪那美とか、神漏岐神漏美とかのキミで、即ち両陛下を指してキミと申すのです。『キ』は太陽で『ミ』は月の事であります。厳の魂は日、瑞の魂は月、即ち天辰日月が輝いて、完全無欠なる美しい、且つ尊い国が出来たといふ事を、非常に御喜びになつたのであります。此の玉依姫の事を竜宮の乙姫様と云うて居ります。此の神様が御育てした、鵜葺草葺不合命が立たれると、天下は良く治まつて、日月は晧々として輝き、陰陽上下共に一致する。即ち『貴くありけり』と謂はれたのは天下泰平に宇宙が治まつた所の形をば、讃美されたのであります。
其の以前に日子穂々出見命、亦の名火遠理命が、豊玉姫に御送りになつた歌があります。
『沖つ鳥鴨着く嶋に吾率寝し 妹は忘れじ世のことごとに』
沖つ鳥と云ふ事は、沖の嶋といふ事であります。此の日本以外の外国を指して云ふのであります。或は竜宮の嶋を指して言つたのであります。鴨着く嶋──嶋と云ふ事は、山篇に鳥である。嶋には鴨とか、鴎とか言ふ鳥が沢山群がつて居る。若しも鳥が居なかつたならば嶋ではない。女島男島は真白けに鳥が群がつて居る。鳥が沢山居る嶋が鴨どく島である。吾率寝し──といふ事は共に暮したいといふ事であります。妹は忘れじ──ツは大津といふ事で、大きな海の水の事であります。マは廻つて居るといふ意である。例へば島のシと言ふ事は水であつて、マと言ふ事は廻る事、即ち水が廻つて居ると言ふ事で、小さい島の意味になります。或は又シメと云ふのも、ぐるぐる水が廻つて居る形である。又真中に建造物のあるのは、城とも言ふのである。故に日本国を秀津真の国と言ふのである。
ツとシとは反対であつて、ツは外国の事である。潮流杯も日本と反対に流れて居ります。忘れじ世のことごとに──といふ事は、万国を一つに平定される事である。世のことごとに、は守るといふ事である。幾万年変つても、此の国は忘れないで、此の御神勅に依つて治めなければならない。日月星辰のある限り、飽くまでも治めてやると言ふ、有難い御言葉であります。』
(出口王仁三郎全集 第5巻【言霊解】皇典と現代 海幸山幸之段から引用)
ポイントは、以下。
- 山幸彦は、三年の留学という真の宗教を忘れた状態の後、一尋鰐の助けで、日本国へ帰られた。一尋鰐(わに)は、出口王仁三郎(わに)のこと。天皇陛下を憚って、自分で一尋鰐の説明はしていない。
- 母の豊玉姫は、竜神にして国津神だが、天津神の子を産んだ。これが逆転に当たるので、父君も驚いた。霊界物語には、国津神と天津神が一部逆転することも書いてある。
- 屋根を葺ききれないうちに重要な子を生んだのは、スサノオが高天原の衣服工場の屋根を破って馬を投げ込んだ故事を承ける。スサノオはその時点で、天国と地獄の結婚(誓約、伊都能売)を経ていたが、世界の経綸(稚比売の命の機織) は揺り戻した。しかしながら、ここで聖王鵜葺草葺不合命が誕生したことで世界の経綸は完成に近づいた。
- ここに、光も闇もあらゆる双極をも包含した完全無欠なる美しい、且つ尊い国が出来、天下泰平となった。
- 誰もそんなことは夢想だにしないかもしれないが、天皇陛下は、万国を一つに平定されるシーンがある。
- ここで古事記の上巻は終了。出口王仁三郎は、古事記の上巻にある事は、大抵ミロク出現前に、総ての事が実現することになっていると述べている。天皇陛下が海外に行宮を設けられるようなことがあるのだろうか。