◎神の反対の一致、両性具有、天国と地獄の結婚
アダムカドモンとは、原人、原始の人などと訳されるが、人間の祖型にして完成した人間の謂いである。完成したというニュアンスには、光と闇、天国と地獄、善と悪、天と地、太陽と月、陰と陽、快楽と苦悩、欲求と嫌悪、快と不快、寒と暑、貴と賤、聖と俗などの二元の両方すなわち両性具有が含まれる。荘子の真人もアダムカドモンと同義。禅の信心銘のえり好みをしないというのも同じ流れ。
アダムカドモンの起源について、神の被造物としての人間ということから追うと収拾がつかなくなりがちだが、エリアーデ風に神も両性具有であって、人間も両性具有であると見れば、人は神の生き宮であるというスタイルに沿う。
神の両性具有として、エリアーデは以下を挙げる。ヤハウェは善であって怒りの神。キリスト教の神は恐ろしく、やさしい神。インドのシヴァ神は、カーリー女神の姿をしたシャクティを抱擁しているサンヴァラ(交合図)。さらに言えば古事記の素戔嗚尊と天照大神の誓約もそれ。これらは、発展して球体や、卵(宇宙卵)、鏡、一円相というシンボルに転ずることもある。
エリアーデは、次のように両性具有神がアダムカドモンのような両性具有人に対応していると説明している。
『両性具有神の神話は、「反対の一致」を表現するものの中でも、ひときわ明瞭に、神の存在の逆説を示しているが、この神話に対応するのは、両性具有人間に関する一連の神話や儀礼である。この場合、神についての神話は、人間の宗教経験の範型をなしている。「原人」とか祖先とかは両性具有であったとする伝承は(トゥイスト型)ひじょうに多く、それより後代の神話伝承は「原初の夫婦」について語る(ヤマ Yama すなわち「双生児」――とその姉妹ヤミ Yami 型、もしくはイランのイマ=イマグ Yima-Yimagh、 マシュヤグ=マシュヤーナグ Mashyagh-Mashyânagh 型の夫婦)。
いくつかのラビの注解書は、アダムもまた、両性具有とされていたこともあると仄めかしている。すると結局、エヴァの「誕生」は、最初の両性具有を男と女の二つの存在に分けることにほかならなかった。 「アダムとエヴァは背中あわせに、 肩と肩とがくっついていた。そこで神は斧をふるって、あるいは二つに切ることによって、 二 人を分離した。それと違う説をなす人もいて、最初の人 (アダム)は右側が男で左側が女であったが、神はそれを半分に割ったのだという」。』
(エリアーデ著作集 第3巻 聖なる空間と時間 ミルチャ・エリアーデ/著 せりか書房P138から引用)
※トゥイスト:ゲルマン神話に出てくる神で両性具有。