◎奇蹟の勝利
星一徹が息子星飛雄馬に茶の間の壁の穴から外の木に向かって一人キャッチボールをさせていた時代から、2023年3月22日のWBC決勝日本対アメリカの日本勝利は不思議なものだった。
外形としては、投手力に優れた日本が米国のオールスター打線をホームラン二本に抑え込み、日本打線も米国の一流セットアッパー・クローザー陣(先発投手はほぼ招集されていない)から、ホームラン二本を含む三得点を挙げたから勝てた。特に継投は先発今永から戸郷、足が震えてやばかった高橋宏、伊藤、大勢、最後はダルビッシュ、大谷とつないだのが栗山監督の采配の妙だったなどという風に書かれている。
だが本当にそうなのか。栗山監督以下の日本首脳陣が描いたように試合が進むならば、準決勝の対メキシコ戦は、佐々木朗希と山本由伸を4イニング目までひっぱったことで二度メキシコにリードされることはなかった。たまたまメキシコのクローザー・ガイエゴスの直球が走っていなかったから、たまたま三冠王村上がサヨナラ打を打ったから逆転勝利を得たのであって、監督の采配の妙ではなくて、最後は一種の奇跡が起きたと見るべきだろう。
準決勝でそれほどまでに事前の計画、目算がはずれた姿を見れば、決勝で計画通りに日本の7投手陣が抑えたのは、全く望外のことだったのではないか。特に2点リードの8回にダルビッシュを投入しソロ・ホームランを打たれ一点差になって、大谷登板時にランナーを一人出したシーンは一発逆転のあるシーンだった。
その時、江夏の21球(1979年の日本シリーズ第7戦近鉄対広島で、江夏投手が無死満塁を切り抜けた故事)ではないが、ブルペンに他の投手が準備して、大谷の集中を乱していたのかどうかはわからない。
大谷は、ベッツ(2017年アリーグMVP)に対して、なんと外角低めに直球二球を続けてセカンドゴロ併殺に打ち取った。そして最後は、MVP3回のトラウトを三振に切ってとり、勝利を得た。
決勝が終わってみれば、日本の7投手継投は、おそらく事前の計画どおり運んで、特に最後のダルビッシュ、大谷のリレーもうまくいった。そして村上、岡本の長距離砲もさく裂し、なにもかも事前の計画通りうまく行った。だから栗山監督の采配はすごいなどと報道されている。
ところが、準決勝のサヨナラ勝ちシーンで全員がペッパーミル回しを忘れるほど歓喜したぐらいに準決勝は采配ミスが積み重なっていたのではないか。
首脳陣の采配や計画、予想があてにならないということを見た直後ながら、逆に決勝では、あまりにもすべてがうまくピタリピタリとはまった。これは明らかにさかしらの人為のなせる業ではない。
そこで勝因を探れば、あくまでWBC勝利を願った大谷の観想法に行きつくのである。彼は少年の頃からWBC勝利を観想し、マンダラチャートでやるべき項目を列挙しその通りに努力実現してきた。
それは、やるべき善行項目、やってはならない悪行項目を並べて毎日実践した功過格の実践と同義である。それはカルマ・ヨーガだが、加えて地道に努力する人には天祐があるもの。それが、2023年WBC決勝だった。
大谷の夢が実現したのを見て、海外メディアは、大谷は人間ではないなどと書いているのもあるが、それももっともなことである。その試合で4回打席に立って後、最終回にクローザーをやることだけでもすごいが、気力が切れず衰えず、実現しきったところに人間を越えたところを感じたのだろう。