◎金持ちが天国に入るのは、らくだが針の穴を通るよりむづかしいが
(2022-09-02)
イエスの磔刑前夜、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。そうした中で、イエスの弟子の中に逃げずに済んで、かつ磔刑後にピラトとイエスの遺体の引き渡し交渉を行いえた人物がいる。それが、アリマタヤのヨセフという、善良で正しく、身分の高い議員で、金持ち。ユダヤ人をはばかって、ひそかにイエスの弟子となった。彼は誰も葬られたことのない新たな墓を用意し、そこにイエスの遺体を運び入れた。
古代でも近世でも死刑において、遺体の埋葬場所、埋葬方法、墓を作ることを認めるかどうかまで、しばしば刑罰の一部として規定されることがある。
イエスの側から見れば、アリマタヤのヨセフは、弟子たちが彼の復活を「見て信じる」舞台をセッティングした人物である。一方ユダヤ人の側から見れば、ユダヤ人はイエスを刑死に追い込んだとしてディアスポラ(世界流浪)になったが、その当のユダヤ人であるアリマタヤのヨセフがイエスの埋葬を主導した功徳がその過酷な運命をいささか緩和したと見れるようにも思う。
さてその岩の洞窟の墓では、遺体が既になくて、イエスの遺体を包んだ亜麻布だけが残っていた。これはチベット密教などで屍解をよく知っている者にとっては、遺体は空中に煙のように分解し、跡に服や毛髪だけが残るという屍解の定番の進行に似ていると思い当たる。
そういう目で見れば、イエスは死後三日間で屍解を行ったのではないかと思われる。そうであれば、イエスは、クンダリーニ・ヨーギだったのだろう。槍を刺され釘を打たれ体液が相当に流出した中での屍解は相当に困難だったのではないか。
イエスの悲劇については、洗礼のヨハネ、愛人であるマグダラのマリア、密告したイスカリオテのユダが全貌を承知していたとみているが、最後の最後のイエスの屍解の場所まで提供したアリマタヤのヨセフも全貌を知る者のひとりだったのではないか。
そこで西洋では、アリマタヤのヨセフは、イエスから流れ出た水と血を聖杯に受け、フランス、スペイン、イギリス、ポルトガルで布教したという伝説(聖杯伝説)までできたのは、アリマタヤのヨセフの事績の重さをわかった人物が少なくなかったからだろう。
イエスに「金持ちが天国に入るのは、駱駝(らくだ)が針の穴を通るよりむづかしい。」などと批判されても、アリマタヤのヨセフは為すべきことをしたのである。