1981年に公開され、大ヒットしました。
松林宗恵監督、東宝映画。
今日は、この映画についてです。
これが戦争映画にもかかわらずヒットした原因の一つに、
単なる戦史描写に架空の家族の人間模様を絡ませ、
一般の共感を多く得たことがあるそうです。
つまり同じ連合艦隊を描いても「トラ!トラ!トラ!」と違い
「さあ泣け」と言わんばかりの「泣き所」が多いのが特徴。
などと言うひねくれもののエリス中尉、
さぞどんな映画を観ても鼻であしらって観ているのか?
と思われたあなた。
もちろん泣きます。
この映画は戦時下の二つの家庭の物語が、史実に絡んで展開します。
小田切家の父、武市は海軍に奉職して一八年。
今は予備役で、大工の仕事をしています。
「洗濯板」と言われる善行章五本の叩き上げでありながら、
兵学校を出ていないため準士官どまりの武市は
一人息子の正人が兵学校に受かったので有頂天。
画像は、この映画がデビュー作となった中井喜一演ずる小田切正人が
兵学校を恩賜の短剣で卒業し、帰郷して下士官である父親武市(財津一郎)
に敬礼するシーンです。
「お前から先下ろさんかい。
おんなじ金筋一本でも、兵曹長よりは候補生の方が位は上じゃけんのう」
「でも・・・」
「わしゃどんだけ我が子に向かって敬礼する日の来るのを待っちょったか」
武市は、兵学校出の息子がとんとん拍子に出世して、
自分の無念を晴らしてくれると信じて疑いません。
しかし、正人は特攻隊を志願し、武市は愕然とします。
「わしは何ちゅうあほな親じゃ。
下士官上がりのひがみ根性がせがれの命を縮めてしもうた。」
実際、特攻に志願することをこのように家族に伝えることはできなかったはずです。
家族は、本人がもうとっくにこの世にいなくなってから
戦死の事実を公報によって知り、遺書を目にして初めて息子が、夫が、
そして兄弟が特攻に行ったことを知ったのです。
監督の松林宗恵も脚本家の須崎勝弥も旧海軍の予備士官出身ですから、
当然こういうことも知っていたはずです。
ですから、仏壇に隠してあった息子の遺髪を見つけ、
問いただしてそれを知る、という形を取っています。
父の乗る沈みゆく大和に向かってその午後には特攻に出撃する息子が
「お父さん 親よりもほんの少しだけ長く生きていることがせめてもの親孝行です」
と敬礼する。
(泣き所1)
そして、もう一つの「戦下の家族」、奈良の博物館館長が家長(森繁久弥)である本郷家。
長兄の海軍大尉英一は瑞鶴の艦爆隊長。
この瑞鶴上でもドラマがあります。
瑞鶴整備士長(長門裕之)のところにやってくる三人の幼い搭乗員。
「班長、私たちは未だ母艦から飛んだことはありません」
中鉢という搭乗員が言います。
「でも、発艦だけはうまくやるつもりです」
「あたりまえだ!ブーン、ボチャン、じゃこっちがたまらん」
「私たちは、発艦することはできても着艦することはできません!
ですから、出撃したらもう二度と帰ってきません。
敵艦に体当たりします」
「何?」
「折角整備してくださった大事なゼロ戦を壊してしまいますけど、許して下さい」
「貴様ら、わざわざそれを言いに来たのか」
(泣き所2)
この中鉢二飛曹という岩手の予科練出の搭乗員の名前は、
松林監督の海軍時代に実際の部下だった中鉢一等水兵という
実在の戦傷死した少年兵の名に由来しているそうです。
この映画は、当時の豪華キャストを惜しげもなく使ってオールスター総出演の感があります。
山本五十六 小林桂樹
宇垣纏 高橋幸治
南雲忠一 金子信雄
草鹿龍之介 三橋達也
永野修身 小沢栄太郎
及川古志郎 藤田進
福留繁 藤岡琢也
富岡定俊 橋本功
黒島亀人 南道郎
源田実 斎藤真
小沢治三郎 丹波哲郎
貝塚武男 神山繁
豊田副武 田崎潤
神重徳 佐藤慶
伊藤整一 鶴田浩二
有賀幸作 中谷一郎
特に山本司令がはまっていないですか?
似ているかどうかはともかく、丹波哲郎の小沢治三郎がいいです。
「瑞鶴、沈みます!」
操舵席にロープで身体を縛り、航海長と煙草を回し飲みする貝塚艦長(神山繁)。
敬礼で見送る小沢司令。
エリス中尉は残念ながら、このような瞬間に弱い。
(泣き所3)
本郷英一が敵艦に突入する瞬間、婚約者の白無垢姿がフラッシュバックする、
といういかにも泣き所なシーンには、その意図が邪魔をして素直に泣けません。
(それにもかかわらず泣いたので泣き所4)
この、死を覚悟した兄が、自分の婚約者を弟に託す、というのは、
当時の結婚が家同士のものであったということを考えると理解できます。
この話は実在の瑞鶴飛行隊長の遺書からとられているのだそうです。
しかし、兄の意を受けいったんはプロポーズした弟眞二が、
大和乗組みが決まったため、死を覚悟して破談にして欲しいと言うと
「あたしって一体何やの?
男の人たちが自分の都合でどうにでもできるお人形やの?」
と迫って、その日のうちに結婚してしまいます。
大空のサムライのときにも思いましたが、
この脚本家の女性の描き方って、なんか不思議。
会話や女性の台詞に、こう言っては何ですが独特の女性観を持っている様子が覗えます。
(中尉になった英一に)
「出世が速すぎる」
「いけないかい」
「そうかて、あたし・・・」
「じゃ婚約取り消そうか」
「いけず!」
・・・どなたか、この会話の意味がわかる方、解説をお願いします。
しかし、この婚約者(小手川裕子)が、兄を愛しているという気持ちを持ちつつも、
血のつながった弟と結ばれることを選ぶ、という決心は十分理解できます。
最後に、この弟(大和で戦死)の遺して行った男の子が
おじいちゃんと浜辺で遊ぶシーンで、この弟の
「僕は必ず生きて帰ってくる」
という約束がこういう形で果たされたのだと知るわけです。
ええ、泣きましたともさ。
浜辺で「結婚しよう」というシーンでね。
(泣き所5)
さて、大和沈没の際、有賀(あるが)艦長は、
この映画で最後まで紺色の第一種軍装を着用しています。
史実では艦長の最後の姿は第三種軍装であったそうなのですが、
監督はあえて「死に装束」としての第一種軍装を着せたのだということです。
艦を北に向けて羅針儀に抱きつき艦とともに沈む艦長。
(泣き所6)
草鹿中将と宇垣中将が最後、
「あなたとはずいぶんやりあってきましたが、
もはやお互いフネでも飛行機でもなくなりましたな」
「連合艦隊を崩壊の危機に追い込んだ責任だけが残ったということだ」
こう言いあうのですが、このとき見つめ合う名優(三橋達也、高橋浩二)の眼の演技が・・・
泣かせます。
(泣き所7)
このクラスに演技力が求められるのは当然ですが、仮面ライダーシリーズのように、
若い軍人の演技は一応の定型を踏まえていれば様になってしまうようです。
とくに金田賢一とデビュー作の中井喜一の演技は、なかなかの「棒」なのですが、
軍服を着て様になっているので、軍隊調のしゃべり方でなんとかなっています。
後年の大化けからは想像もつかないのですが、
中井喜一はこの頃、つまりデビューのときは発声すら全くできていません。
しかし、大和に向かって敬礼する表情は素晴らしい。
そして「さらばラバウル」で男前だった平田昭彦が、
瑞鶴飛行隊長の役で出ているんですが、あの映画から早26年経過したお姿が(T_T)
笹井中尉の役は、27歳当時の平田昭彦に限るってことで、超個人的な別の意味での
泣き所8。
(何度もくどいって?すみません)
どの俳優も軍服が見事に似合っています。
独断と偏見ですが、みんな実力?より二割増しの男前に見えます。
これは単にエリス中尉が海軍好き故の感想でしょうか。
特に鶴田浩二の軍服姿。
それもそのはず。
鶴田浩二は整備課予備士官で、特攻を見送る立場でした。
葬儀の際には多くの戦友や元特攻隊員が駆けつけ、
その亡骸に第二種軍装を着せた上、棺を旭日旗で包み、
戦友たちの歌う軍歌と葬送ラッパの流れる中を送られていったということです。
この映画の鶴田浩二の凛々しい二種軍装姿に、その逸話を重ね合わせて・・・また涙。
(泣き所9)
そして名曲「群青」の一節、「せめて海に散れ」という言葉の響き・・・・・。
(泣き所10)