今年の大学卒業生の就職内定率は戦後最低だとか。
もう氷河期ではない、超氷河期であるという厳しさで、
就職が決まらなくて困っている人たちにはご健闘を祈る、
としか言いようがありません。
エリス中尉がその時期だった頃、周りの友人が優秀だったのか、
まだ世の中が好景気の頃だったからか、
NEC!富士通!京セラ!長銀!(どうしてるかなあ彼・・・)
などというあたりに皆軒並み就職を決め、そういうのが当たり前だと思っておりました。
しかし、そのころから就活における「伝説」というものはありまして、
某食品会社の看板製品であるマヨネーズをチューブごと一気飲みした、
あるいは白地に紺の水玉模様のネクタイで某飲料会社の面接に赴き、原液を一気飲みした
(なんでみな一気飲みなのかよくわからんのですが)
という豪快さんの神話がありましたが、
「それで彼らは採用されたのか」
ということになると、下人の行方は遥として知れず。
一つ確かなのは
「一度目はよろしい、二度目はまだしもご愛嬌と言える。しかし三度目は度が過ぎる!」
という、中学の社会科の高橋先生の言葉通り、
これをやって受かったからという噂を真に受けて二番三番煎じをする、
これがなんといっても一番嫌われるようですね。
そもそも、受験生が知ってるからには面接官はそんな話百も承知だっつの。
意表を突くパフォーマンスで採用されるというのは
「それがオリジナルだから」
であって、蛮勇ゆえにではないということです。
前置きが長くなりましたが、海軍です。
戦争終盤の、学徒であろうが予備役であろうが、
人が足りなくて戦線に引っ張り出すようになるまでは、
海軍に入るのは非常に狭き門でした。
まるで科挙試験のような海軍兵学校の難しさはもうご存じだと思いますが、
予科練試験の難しさも大変なものだったということです。
(マンガ「紫電改のタカ」の滝城太郎以下久保、紺野、米川一飛曹たちは、
この予科練出身であったようですね)
旧制高等小学校卒業者、志願制で満14歳以上20歳末満の者。
この試験が大変難しかったそうです。
学科はもちろん、適性検査も、ことがことだけに厳しく不適合者はふるい落とされましたが、
このときの面接でなぜか「人相見」がでてきた、という話を昔しました。
これこそ究極の面接、骨相で適性を診断。
「科学の先端である航空に人相とは」
と皆呆れましたが、科学的と言うなら、
血液型で採用を決める会社などよりずっとましではないでしょうか。
学力実技、これがよくても一目見て「これはあかん」
と判断されれば面接ではねられるのは現代でも同じ。
兵学校の入学試験は、難関を経てわざわざ江田島まで呼び付けながら
面接で落とされる学生が非常に多く、この理由は主に健康上の理由であったということですが、
海軍が見た目に表れる人物を評価の対象にしていたということでもあります。
ここだけの話ですが、未来の海軍士官には「ある程度以上の容姿」が必要とされたということです。
そして面接官に気にいられれば無条件で合格、というパターンも多くあったのでしょう。
今でもそうかもしれませんが、面接官といえども人の子、
「こいつ、優秀そうだがなんだか気にくわんな」
と思われるのと
「うーん、こいつは学科は何だがおそらく一緒に仕事をしたら頼もしかろう」
と思われるのでは全く結果は違うものになってきます。
さて、戦局が厳しくなり、学徒動員もされて、一億皆兵のようになってくると
「どうせ兵隊にとられるなら自分で志願して海軍に行こう」
と、考える学生は数多くいました。
世間の持つ海軍に対する印象の良さや、かっこいい制服への憧れが
そこにもなかったわけではなかったでしょう。
映画「出口のない海」で、明治大学の野球選手である学生(市川海老蔵)が、
海軍を志願するときに
「海軍の方がちょっとは人間らしい扱いをしてくれそうな気がする」
といいます。
このセリフは、この後彼は人間魚雷「回天」の搭乗員になり、
実際は人間扱いされなかった、ということへの伏線となっているのですが、
このイメージゆえ海軍を志望するものもいたようです。
志願理由は当時であろうと、現在であろうと、必ず聞かれます。
それに対し、就職先の魅力を高らかに褒め称え、面接官の心証をよくさせる、という手もあります。
しかし、いくらそれが動機でも
「制服がかっこよくて女の子にモテそうだから」
は今も昔も本音すぎてシャレになりません。
とはいえ、ときには本音をズバリ言ってそれが気に入られることもあるようです。
阿川弘之氏の「井上成美」にあったエピソードですが、
企画室にいた帯刀与志夫という主計中尉に井上長官が
「ところで帯刀中尉は何故海軍の主計科士官を志願したか」
と尋ねられ、徴兵検査のとき陸軍大佐の徴兵官が
「オビカタナヨシオ」と間違って名前を呼ぶので
「自分はオビナタヨシオであります」と訂正すると、いきなり
「理屈を言うな」と怒鳴りつけられてそれで一遍に陸軍が嫌になってしまった、
という話をすると
笑わないと評判の井上校長が声をあげて笑った
というのです。
言いきってしまいますが、井上校長がそうであったように、
海軍に籍を置くもののほとんどは陸軍嫌いだったので
この「陸さん嫌い」の本音を利用する受験者もいました。
なんと、面接官の
「何故海軍を志望したか」
という質問に対し、ズバリ
「陸軍が嫌いだからです!」
と答えて合格してしまった猛者がいたというのです。
名前の間違いの訂正ですら「理屈を言うな」と言うほどの陸軍の徴兵官であれば、
内心海軍嫌いで
「おお、よう言うた」
と思っても
「陛下の赤子である聖軍に対して海軍も陸軍も無い!」
とかなんとか至極当然の建前でもって怒られてしまいそうですが、この面接官は
ニヤッと笑って合格にしてくれたとのこと。
因みに現代の会社ではライバル会社の誹謗などもってのほかです。
(アメリカでは競合会社を『落とす』CMが多々ありますが、
日本でこれは決して受け入れられないそうです)
「何故海軍を志願したか」
に対し
「海の民なら男なら」
と答えた志願者がいました。
これは当時はやりの軍歌「太平洋行進曲」の冒頭部分。
面接官は打てば響くように
「みんな一度は憧れた、か」
と大笑し、見事合格。
しかし、この話を聞き知ってしめたとばかり全く同じことを答え
「ふざけるな!」
と怒られて不合格になった不遇君もいたそうです。
「シャレの通じそうな相手かを見る」
「二番煎じは禁物」
この件に見られる教訓は、冒頭画像のマヨネーズ一気飲みの悲劇にも共通です。
それでは諸君の就職活動の健闘を祈る!