ユーチューブに日本帝国海軍を映したカラー映像があります。
モノクロームで再生されていた画像が、カラーであると言うだけでこうも生き生きと見えるものか、
と驚くばかりなのですが、搭乗員の飛行服の色、かれらが礼をする神棚、そして零戦が飛び立つ空の青さ、
すべてが昨日のことのように思える不思議な感覚を誘う映像です。
http://www.youtube.com/watch?v=_RaUdub_djU&feature=related
そしてその中に本日画像の手旗信号する通信員の映像があるのですがこれが凄い。
びゅうびゅうと潮風の吹きつける台で、まるでダンスをするかのようなしなやかな旗捌きを見せています。
落ちないように腰に安全縄のようなものをかけていますが、こんなものくらいでは風を防げたのかどうか。
高所恐怖症なんてタワけたことをいう通信員はいなかったと思われます。
ちなみにこの通信員はカメラに気付き一瞬カメラ目線をします。
この手旗をするのは航海科の信号兵といいます。
およそ海軍という組織で手旗を読めない者はいません。
海軍兵学校の授業にもあります。
「勝利の礎」
では、この手旗信号をしているクラスが映っていますが、ぴったりと動きが揃っている中で
よりによってど真ん中でやっている生徒さんが明らかにみんなよりワンテンポ遅れていて、
笑っちゃ悪いのですが笑えることになってしまっています。
戦後70期の関係者だけで上映会をしたそうなのですが、絶対あのシーンでは
「真ん中のはあれはきっと○田だ」
「そうだ、○田はいつも手旗が人より遅かった」
なんて会話になったのではと思われます。
ちなみにコント
「赤あげて白あげないで赤あげない」
は、もちろんこの手旗信号が元になっています。
さて、この手旗信号のほかに発光信号、旗旒(きりゅう)信号は、通信検定が行われ、
航海科の通信兵はそれこそ月月火水木金金、休みなく送受信の練習に励みました。
発光信号は光の点滅で発する信号で、モールス信号の「トンツー」の組み合わせに近いそうです。
映画「太陽の帝国」で、主人公の少年が窓の外を通る日本軍の発光信号にふざけて答えて
ライトをちかちかしていたらいきなり轟音がとどろいたと言うエピソードがありました。
この「トンツー」の覚え方も、よくしたもので各文字語呂合わせの言葉があり、それをもとに皆覚えていったようです。
有名なのは
ノ・・・トトツーツー=ノギトーゴー
これが、寄り道ですみませんが、実に海軍ぽくて、エリス中尉お気に入りのネタ。
50音順に集めたものを並べてみました。
が、ぎ、ぐ、げ、とかパ行、にゃにゅにょなどはみつかりませんでした。
少しお付き合いくださいね。
ああ言うとこう言う
伊藤
疑う
英語ABC
思う心
下等席
聞いて報告
苦しそう
経過良好
高等工業
さあ行こう行こう
周到な注意
数十丈下降
世相良好だ
相当高価
タール
地価騰貴
都合どうか
手数な方法
特等席
習うた
入費増加
塗り物
ネーモーダロー
乃木東郷
ハーモニカ
兵糧欠乏
封筒貼る
へ
報告
まあ任そう
見せよう見よう
ム―
名月だろう
孟子と孔子
野球場
遊撃優秀
洋行
ラムネ
流行地
ルール修正す
礼装用
路上歩行
ワ―という
んめえうめえな
回向冥福 ゑ?
ヰ号発揚 ゐ?
和尚焼香 を?
五目飯
んもー、海軍さん好き!
特に獰猛だろーとか、ああ言うとこう言うとか。
野球場に続けて遊撃優秀とは、ストーリまである!
ついこれ見てると読みながら机でトンツーしてしまいますね。
にしても・・・「ムー」って何?ムー大陸?
しかし、これは初心者が覚えるために利用したのであって、
通信兵レベルになるといつまでもこれに頼っていると脳が付いてこないということで
みんながトンツーしながら
「んめえうめえな」
などと頭の中で繰り返しているのではないそうです。ご参考までに。
旗旒信号はマストにあげる複数の旗の組み合わせで送る信号で、何種類かの旗を揚旗線に引っ掛け、
望遠鏡で受信側が読みとっていきます。
国際共通ですが、
Z旗「皇国の荒廃この一戦にあり」のように特定の旗に特別の意味を込められるものもありました。
たとえばトラファルガーの海戦で、英国軍の艦船が5種類7旒の旗を使い
『英国は全乗組員が自身の義務を果たすことを期待する。』
とメッセージしています。
この旗旒信号も、マストに高々とあがってから読んでいては手遅れです。
通信員の手を離れた瞬間に読みとっていたそうです。
さて、通信兵の仕事は以下、通信の傍受(情報収集)通信機器のメンテナンスなど。
そして平時においても、毎週のように艦隊や戦隊での連合教練が行われます。
各艦信号兵同士の熱い火花が散り、勝った負けたはその日の罰直の理由となったこともあるようです。
まさに月月火水木金金の真剣勝負。
航海科ではありませんが、男たちの大和で、舷窓が開いていて他艦に注意をされて恥をかいた、
という理由で罰直が行われていましたね。
このように艦同士のライバル意識は物凄かったようです。
先ほど、手旗の苦手な兵学校生徒さんの話をしましたが、われらが笹井醇一中尉は兵学校時代
「トンツーがたいへん下手だった」
そうです。
この重大な事実を同級生に遺されてしまいました。
どうも推察するに「戦闘機に乗るために生まれてきた」「江戸っ子」で「軍鶏」の笹井中尉、
「敵発見」と打つのに
「手数な方法聞いて報告ハーモニカ都合どうか経過良好んめえんめえな」
なんていちいちやってられっかよ!
敵発見したんならすぐさま出撃だ!
という気の短めのヒトだったみたいですね。
戦艦大和3000人の仕事 青山智樹 アスペクト
海軍ジョンベラ軍制物語 雨倉孝之 光人社
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